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3

「あ…」



その日の二時間目の休み時間。移動教室のため一年の教室前の廊下に差し掛かったとき、友達に囲まれた崎田を見つけた。向こうもアキラに気付き、目と目が合う。崎田は無表情でアキラを見つめたままその目を逸らすことはない。アキラは軽く会釈をした。途端に崎田はひどく辛そうな顔をして大げさに顔を逸らしアキラから目を離した。


「どうしたんですか?崎田さま。そんな悲しそうなお顔をされて…」
「な、なんでもないよ!」

わざとらしく明るい大声を出しながらちらちらとアキラの方を見る。
崎田の行動に崎田を囲んでいた人たちが一斉にアキラの方を見た。


「唐津先輩…」
「ほんとだ。それで崎田様…」


アキラを見た一年生達がひそひそと話し出す。アキラは気にしないように目指す教室へと歩を進めた。

「か、唐津先輩!おはようございます!」

崎田達の近くに差し掛かったとき、崎田が大きな声でアキラに挨拶をし、頭をぺこりと下げてきた。

「おはよう、崎田。足はもう大丈夫か?」

崎田の態度から彼は太陽に好意を持っているとアキラは思っている。太陽に自覚がなかったとはいえ、自分は崎田から太陽を奪ったことになる。
アキラはちょっと気まずい思いをしながらも崎田に挨拶を返した。


「は、はい!唐津先輩こそ!あの、あの…僕、僕…」

崎田は眉を寄せ、目を潤ませて下を向く。

「…唐津先輩に、嫌な思いをいっぱいさせちゃって、ごめんなさい。僕が、僕が全部悪いんです。」
「いや、別に嫌な思いなんて…」
「僕、そんなつもりなんて全然なかったんです!本当です!だから…だから…っ!」

本当に辛そうに顔を歪めて謝罪する崎田に、アキラは困惑した。これは何に対する謝罪なんだろう。

「崎田様、なにかあったんですか?」

気にするな、と声をかけようとしたとき、周りの一年生が心配そうに崎田に問いかけた。

「う、ううん!僕がバカでだめな子だから!唐津先輩はなにも悪くないんだ!し、心配かけてごめんね。…ご、ごめんなさい!」

そう言うと、崎田はぺこりと頭を下げて駆け出して行ってしまった。



おいおい、その言い方だと俺がまた何かしたみたいだろうが。



駆け出して行ってしまった崎田の背中をぼうっと見つめていると、一年生達のキツい眼差しが突き刺さった。

「…唐津先輩、崎田様に何したんですか?」

じろじろと嫌悪の目で見ながら、周りの生徒もひそひそと話し出す。


「…別に。」

間違いではない。何かした、といえばそうだろう。

一言だけこぼし、その場を去るアキラの耳には一年生達の崎田への同情の言葉と、アキラへの非難をぼそぼそと口にする言葉が聞こえてきた。

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