「よくもまあこんなに器用にできるよね〜…」
「フッ、羨ましいならお前にも施してやろう」
「いやあ、僕は恐らく似合わないだろうから遠慮しとくよ」

綺麗に纏められた髪を見つめる。そこまで伸ばすのも大変だったろうに、その髪をここまで丁寧に仕上げてるんだもんなあ。毎日大変そうだ、素直に尊敬する。

「こんなの鏡見てるだけでパパッと出来ちゃうもんなの?」
「もう何年も繰り返していることだ。嫌でも板につく」
「継続は力なりってやつだね。それでも僕ならこんな大変な作業毎日なんてやってらんないよ、すごいね元親くんは」

髪だけじゃない。お洒落な元親くんはネイルや化粧だって毎日欠かさず施している。部屋を見渡すと美容グッズも少なくない。なんでも小さい頃に可愛くなりたくて始めたのが、今でも癖になって続いているらしい。習慣になってるんだね。

そこらの女子顔負けの女子力だなあと感嘆していると、何やらそわそわとしだした元親くん。なんだそれ可愛い…じゃなくて、どうしたんだろう。

「どしたの、トイレ?」
「違う、お前がそうやって見つめてくるからだ」
「ふはっ、照れてんの?ごめんね、あんまり可愛いからつい」
「っ……それより、なにか俺に渡すものがあるだろう」

あ、話すり替えたな。そうだ今日は何を隠そうバレンタインデー。僕ももちろんこの子へのチョコレートを用意してある。けど、なんだか素直に渡すのもつまらないな。

「渡すもの…?今日誕生日かなんかだっけ」
「違う。惚けるつもりか?」
「惚けるもなにもわかんないんだもん。ていうか僕今日ほとんど手ぶらだし」
「……そうか…」

お、ちょっとしょんぼりしてる。可愛い。でもあんまりいじめちゃ可哀想だな、ここら辺でネタばらし…

「ならば仕方ない」
「え」
「代わりにお前をいただくとしよう」

そう言った元親くんの顔はしょんぼりどころか非常に生き生きしていて、笑みを浮かべていた。しまった、計られたのは僕の方だったか。

ひょいっと抱き上げられたかと思うと、そのまま元親くんのベッドに下ろされてしまった。二人分の重さに耐えきれずギシリと鳴るベッドを気にしている余裕はない。

「いただくってこいうことかよ」
「チョコよりもお前の方が何倍も甘そうだ」
「それはどうだろう…味見してみる?」

挑発的に微笑み返せば、上等、とキスの雨が降ってきた。どうやら今は隠し持っていたチョコレートは必要なさそうだ。