「…まさかの逆チョコ!?」
「ええ。そういう趣向も有りかと思いまして」

どこから取り出したのやら、えらくスマートにチョコレートを押し付けられてしまった。なるほどこれが巷で噂の逆チョコ…ていうか僕も男だから別に逆チョコではないのか?んん?ややこしいな。

「まあ、ありがとう」
「この左近の手作りですからねえ、味の心配は必要ありませんよ」
「ふはっ、そこは信用してる」
「ししょうさんには普段から世話になってるんで。どうぞ貰ってやってください」

さてここで問題発生。まさかの逆チョコに心ときめいたしその相手が左近くんだなんて浮かれたいことこの上ないんだけど、問題は僕からのチョコをどうするか。まあ普通に交換するみたいな感じで渡せばいいんだけど、残念ながら左近くんからの義理とは違って僕からのは本命なのである。

気持ちのベクトルが全然違うのに、このまま渡して良いものなのか。気まずくならないだろうか。僕より年下のくせに包容力抜群の左近くんのことだから、きっと空気読んでそれとなくかわしてくれるだろうけど…それはそれで傷付くな。ほんとどうしよ。このままなかったことにしようかな…うん。そうしよう。僕が持ってることはバレてないし、このままさりげなく別れてしまおう。そして泣きながらチョコを食べよう…どこの寂しい人間だ。

「まあでも貰えたんだから嬉しい気持ちのが強いけど…」
「はい?」
「いやいや、なんでもないよ。ほんとにありがとうね。来月楽しみにしといて」

よし、いまの自然だったよね?そのまま退散して…

「…ししょうさん、下手くそなんですから無理して嘘つかないでくださいよ」
「は?てかいま何気に失礼なこと言わなかった?」
「来月までなんて待てません」

あるんでしょ?俺へのチョコ。

瞬間距離を詰められて、壁と左近くんに挟まれてしまった。あれ、なんだこれ。

「またまた出ました、巷で噂のやつ。壁ドンだっけ」
「茶化さないで」
「っ、」

耳にするりと侵入する低い声にゾクリとした。いつも聞いてるはずの声なのに、こんなに至近距離で囁かれただけで、どうにかなっちゃいそうだ。目を逸らしたいのに逸らせない。やばいな、ちょっとでも顔動かしたら唇引っ付きそう。

「…わかったよ、降参。あるからもう離れてくれる?」
「このまま渡してくれりゃあいいじゃないですか」
「普通に渡しにくいだろ…ほら、はやく」
「どうしてそんなに離れてほしいんです?」
「それは、」
「その赤い顔となにか関係がある、とか?」
「!」

ドキッとして目を見開くと、それを嘲笑うかのようにキスされた。さいあく。最初から全部わかってたんだ。だってまだニヤついてる。

「どうします?まだ渡さないってんならずっとこのままですよ?まあ俺としては大歓迎ですが」
「っ、渡す!渡すからちょっと離れろ!」
「ああ、ちなみに俺からのは本命なんで。この意味、分かりますよね?」
「〜〜〜、僕からのも本命だからいい加減離れてくれ!!」

良くできました、と再び唇を塞がれてしまった。