(自覚がないってのが変な話っショ)


『……というわけなんだ、悪かったな』
「いーや、気にすんな。じゃあまた連絡する」
『おう。おやすみ、まき』
「オヤスミ」

通話が切れたのを確認して、通話終了ボタンを押す。はぁっ、と漏れた息が自分でも笑ってしまうくらい甘く感じた。最後の「おやすみ」を何度も脳内で再生する。だらしなく緩んだ頬が元に戻らない。今日はいい夢が見れそうだ。

途中で切られた時は何事かと思ったが、そういうことだったか。あいつの嫉妬ぶりには呆れる。まあ人のこと言えねーかもしれないけど。俺に比べりゃほとんどの時間そばにいれるくせに、電話の一つや二つくらいで。

(自覚がないってのが変な話っショ)

身近にいる東堂がそう言ってるんだ、本当の話だろう。あいつは無意識になまえを欲してる。友情?家族愛?そんなんじゃない、もっと違う、醜くてどろどろしたやつだ。俺と同じなんだあの狼は。でもそれを友情だとはき違えてる。指摘するつもりは毛頭ない。最大の障害であるあいつが自覚なしなんじゃ不戦勝で俺の勝ち。

東堂との二度目くらいの対決。あの大会で初めてなまえと出会った。第一印象はとにかく世界が狭い奴。それまで東堂を一番のクライマーだと豪語していたらしい。それが、俺のダンシングを見て崩れ去ったんだと。

「悪い!俺はとんだ勘違いをしていた!」

大会前はこれでもかってくらい啖呵切ってきたくせに、終わると一転清々しいまでの謝罪。そうして続けた言葉が、お前のダンシングに見惚れてしまった、だと。今でこそ理解者はいるものの、当時は結構気持ち悪がられてたそれに、見惚れただって?媚売ってんのかよと思ったが、名前を聞かれて素直に答えてしまった俺はもう既に毒されていたらしい。

会えない期間が想いを強くした。会うともっとそばにいたくなって、離れたくなくて、ああ俺こいつに惚れてんショ、って。あまりにも簡単で、単純で、なのにあいつが気付けないのは、そばにいすぎたから。近すぎたからだ。そばにいて当たり前だと思ってる。だから気付けない。

(来月、だ)

来月、無茶苦茶な口実でこじつけた約束。その日に伝えるんだ、俺の気持ち全部。とにかくあいつよりも先手を打たねえと。なまえまで自覚してしまう前に。

幼馴染みって特権に胡座かいてりゃいい。俺がほしいのはそれ以上だ。





書き直し:151129


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