「そりゃあ着信があったら出るだろ」


「…んん?着信あり…」

授業も終わりさあて部活行くか、と何気なくケータイをチェックしてみると、着信一件ありとディスプレイに表示されていた。誰だろうと見てみると、そこには二文字の見知った名前が。

「なんだ、着信ついさっきだ。すごいタイミングだなあ」
「なにしてんだヨなまえ、はやく行くぞ」
「ああ、悪いやす。電話があったんだ」

仕方ない、部室でかけ直すか。パチンとケータイを閉じると、同じタイミングでピカピカと光った。着信の合図だ。今度はきちんと通話ボタンを押した。

「もしもし、どうした?」
『お、出たっショ』
「そりゃあ着信があったら出るだろ」
『いやぁ、まさかすぐ出るとは思わなくてな』
「二度目はタイミングがよかったんだ。それで?何か用かまき。ぱちはきっと今日も元気だぞ」
『東堂の話は聞いてねえっショ…』

着信相手は総北のエースクライマーである巻島裕介。俺はまきって呼んでる。うちのぱちと仲良しこよしなんだよな。あの二人の仲の良さは少し羨ましいと思う。

しかし、見事に授業が終わるタイミングに電話をかけてきたな。またぱちが連絡したのだろうか。

「まき、えらくタイミングがいいが、まさかまたぱちからの電話を無視したんじゃないだろうな」
『なんの話?』
「以前まきからの電話のタイミングが授業終わりで丁度いいことを伝えたら、ぱちが俺の電話は無視するくせに!と怒っていた」
『クハッ、そのあとちゃんと折り返してっからいいんだよ』
「へー、やっぱり何だかんだで仲良しこよしだなお前ら」

つまるところ、ぱちから電話が来る=授業もしくは練習終わりということで、それを合図に俺に電話をしてくるというわけ。通りでタイミングがいいわけだ。

「あ、それで、用件はなんだ?」
『あー、いや、な。今度はいつこっち来れんのかなって』
「千葉に?そうだな、しばらく予定が詰まってるからまだ難しいが…何か用か?」
『…えー、っとォ…実は今年入った一年に面白い奴がいるんだ。この話、前もしたっショ?』
「ああ、覚えてるぞ。クライマーだったって、まきが嬉しそうにしてたから」
『そいつに会わせてやりてえって思ってよ』
「えっ、ほんとか!?実は気になってたんだ、あまりにもまきがその子の話題を出すからなあ」
『そりゃよかった。じゃあ、』
「あっ、」

恐らくいつ頃会うかの話をしようとしたのだろう。しかしそれはやすの手によって妨げられた。無理矢理ケータイを奪われてしまったのだ。そのままポチリと通話終了ボタンを押したやすに目を見開いた。 

「…え、ええええええええ!!何してんだやす!いま完全に通話中だっただろ俺!」
「っせーヨ。でェ?何しに行くんだヨ千葉まで」
「がっつり聞いてたんだな…総北のまきからでな。新しい一年に面白い子がいるらしくて、俺にその子を紹介してくれるらしい」
「……お前その話信じてんのかァ?」
「は?信じるもなにも、疑う理由がないが」
「だァからお前はバァカちゃんなんだヨォ!!いいか?自分のとこに新戦力が加わって、それをわざわざはいどーぞっつって敵のマネージャーに紹介する馬鹿がどこにいんだヨ!!」
「まきは多分お前よりはかしこいぞ」
「そこじゃねーよこのボケナス!!」
「ボケナス言うな!」

んのホモヤローが、とぶつくさ言っているやすに投げ寄越されたケータイをキャッチし、ため息をついた。なんて男だ。無茶苦茶だいろいろと。まあ百歩譲ってやすの言い分が正しいとしよう。でもそんな嘘をついてまで俺と会う理由がわからない。

「……ん?ホモヤロー?」
「あいつだヨ、巻島ァ」
「なぜまきがホモ…えっ、もしかしてぱちとはそういう?」
「…もう否定すんのもめんどくせーからそういうことにしとく」
「なんだじゃあ違うのか」
「あたりめえだろ気持ち悪ィ」
「そうか?」
「…おめーは気持ち悪くねえのかヨ。男同士とか」
「別に、そこに偏見はないな。好き同士ならいいんじゃないかと思う」

まあ愛だの恋だのわからない俺が何を言っても説得力はないけどな。そう続けると、やすはどこか適当にそーかよと返事をした。

とりあえず部活が終わったら詫びの電話を入れておこう。





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