「責任とれよ、バァカ」


『…ごめんな、やす』

なんでオメーが謝んだよ。バカじゃねーの。オメーはなんにも悪ィことしてねーだろ。むしろ俺が、俺が一番謝んなきゃいけねーのに。



食堂で昼飯食ったあと、俺たちは自然とお互いの部屋へ戻った。なまえはなにか言いたげに俺を見てたけど、結局なにも言わず、そのまま部屋に帰っていった。さっきの流れのまま二人でなんかいれっかよ。ただでさえ危なかったのに。

(バレたかなァ、さすがに)

なまえからの謝罪がなかったら、絶対そのままキスしてた。あの時動揺したのは、俺の気持ちを拒絶されたと思ったから。だから謝ったんだと思った。けど絶対にそうだとも言い切れねぇ。すべてを悟ったというよりは、わからなくて不安だって顔してたから。まあ俺の都合いい解釈だって言われりゃそれまでだけど。

『幼馴染みとして喜ばしいと思わないか?』
『お前以上の親友なんていないよ』

東堂の言葉にもなまえの言葉にも素直に頷けなかった。同時に、そのポジションで満足できないんだって、それ以上が欲しいんだって気付いた。だからあいつらの言葉を聞いて、違うって叫びたかった。そうじゃないって言いたかった。けど、言ってどうなる?俺たちの関係が壊れるだけだろ。せっかく築き上げた俺だけのポジションが崩れるくらいなら、言わない。でもなまえのことは好きだ。狡い手使ってでもそばに置こうとするくらいには独占したいし、余計に巻島のとこになんか行かせられない。けどそれは全部俺の独りよがりな気持ちだから、あいつにとっては迷惑でしかない。

気持ちと現実がごちゃごちゃになって頭ん中で蠢いてる。このままズルズル引きずっていけないことも、変わらなきゃいけないってこともわかってる。けどどっちに転んでも、もう前みたいには戻れない。他の誰でもない自分が一番壊したいくせに、壊したあとが怖くて何も出来ないなんて笑い話にもならない。

(…一人になるとダメだ)

余計なことばっかり頭に浮かぶ。そういえばさっきのこと、やっぱり謝った方がいいかな。またビクビクされたら前回の二の舞だし、一言謝るくらいしとくか。大丈夫、謝るだけだ。謝ったらすぐ行くから…って誰に言ってんだか。

腰掛けていたベッドから立ち上がり、隣のなまえの部屋へ向かった。昼飯からちょっとしか経ってねえけど、謝るだけだし、いいよな?

「なあなまえ。さっきヨォ…あ?」

自然を装ってノックもなしに部屋に入ると、部屋の主はベッドに横たわっていた。こちらに背を向けているから断定は出来ないが、おそらく寝ているらしい。

(食べてすぐ昼寝?ハッ、子どもかヨ)

内心で悪態をつきつつ、ため息を吐いた。張り切ってきた自分が恥ずかしい。

(本当に寝てんのかァ?)

俺が来たからって狸寝入りしてんじゃねえだろうなと近付いてみた。微動だにしない。顔を覗き込むと、だらしなく口を開けてガチ寝してやがった。マジかよ。

「チッ、こっちの気も知らねえで…」

邪魔そうに隅へ追いやられていたタオルケットを掛けてやる。その駄賃代わりにさらけ出されてる首筋にキスしてやった。寝てるんだしこれくらいいいだろ。

「…俺かオメーが女だったらよかったのにな」

それならもっと早く気付けたかもしれないのに。俺もお前も男だから、こんだけアピールしても幼馴染みだから親友だからって思っちまうんだろうな。つっても俺の女姿なんか想像できねえしキモいけど。

ベッドの少しだけ空いていたスペースに肘をついて、未だに後頭部を向けているなまえを見つめる。今起きたらビックリするんだろうなこいつ。

「おい、このボケナス」

もちろん返事はなく、静かな寝息が聞こえるだけ。

「…なんで好きになっちまったんだろうなァ」

幼馴染みじゃなかったら、親友じゃなかったら、男同士じゃなかったら、なにか変わってたのか?ならもうどうしようもねえってことなのか?でも今さら無くせるもんでもねえし、離れるなんてそれこそ無理だ。

「責任とれよ、バァカ」

声が震える。もう涙がこぼれそうだった。こんなに好きなのに、こんなに近くにいるのに、いつの間にそんなに遠くなっちまったんだよ。

「……なあなまえ、好きだヨ、ずっと、ずっとずっと。だから、今のままでいいから、これからもそばにいていい?」

それともこんな俺なんか、離れた方がこいつのためだろうか。そんなのできっこねえけど。

「…ダッセェな、俺」

でもきっとお前は優しいから、そんな俺だって受け止めてくれるんだろ?だって親友だもんな。

いつもならその優しさに甘えるのに、今はただただ辛かった。





151212


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