「図星か…まるで子どもだな」


「やっと来たか。遅かったじゃないか荒北」
「っせ、来てやっただけありがてーと思えヨ」
「なんだその言い方はー!来たということはやっぱり相談に乗ってほしかったのだろう!?素直になれ!」
「うっざ」
「ウザくはないな!」

売店で買ったであろうパンをいくつか持って俺の向かいの席に座った荒北。素直にやってきたのがなによりの証拠ではないか、まったく。

さて、お前が気にしていたのは巻ちゃんとなまえのことだったな。

「あの二人、確かに仲は良いぞ。俺の時とは違って巻ちゃんからも連絡とってるみたいだし…くそう…」
「……そういう意味じゃねーんだよ」
「そういう意味?どういう意味だ」
「…いや、まあ…俺の気にしすぎかもしんねーけどヨォ…」

すまんな荒北、本当は俺も気付いているのだよ、巻ちゃんの気持ちには。気付いている、と言うと語弊があるな。正しく言えば、相談されているんだ。ずいぶん前からの恋愛相談。だから俺は知っている。巻ちゃんがなまえを想っていることを。

俺は巻ちゃんもなまえも好きだ。だからその二人がうまくいくのなら素直に喜んで祝福しよう。しかしなまえがそうでないのならば無理強いするつもりはないし、巻ちゃんもきっと自分よりあいつの気持ちを尊重するだろう。問題はお前なんだよ、荒北。

「…大方、その様子を見てイライラして、なまえにあたったんだろう」
「!」
「図星か…まるで子どもだな」
「っせーヨ…俺だって好きでこんな…」
「なぜイライラしたのかわからない。そうなんだろう?」

目をそらしていた荒北がバッとこちらを向いた。分かりやすすぎるんだお前は。ここまで無自覚だとは思わなかったがな。

お前のそれはな荒北、ただの嫉妬だ。嫌なんだろう、自分以外の誰かにとられるのが。巻ちゃんは隠しもせずになまえを狙っているから尚更だろう。気に入らないんだろう。邪魔で仕方ないんだろう。だが巻ちゃんはそれら全部を知った上でなまえを手にしようとしている。第三者である俺にその強い意思を無下にする資格はない。

「いいか荒北、はっきり教えてやる。それはお前のわがままだ」
「わが、まま…?」
「そうだ。ずっと一緒にいたなまえが離れていきそうで怖いんだろう?だがそれはただのわがままだ。お前は自分のことしか考えていない」
「………」
「よく考えてみろ。巻ちゃんとの交流が深まる、つまりなまえの人間関係が広くなるだけだ。いいことではないか。それに、なにもお前との関係がなくなるわけではあるまい」

まだ自分の気持ちに気付いていない。それを無理矢理気付かせるつもりはない。気付いていないのならそれでいい。知ってしまえば、きっとお前は今以上になまえを束縛してしまうだろう。今はだいぶマシになったが、俺たちに紹介するのだって渋っていたくらいだからな。

「なまえの世界が広がると思えばいいんだ。幼馴染みとして喜ばしいと思わないか?」

あくまでも“幼馴染みとして”だ。

「……そうかもなァ」
「!」
「変に熱くなりすぎてたヨ。わりーな東堂」
「あ、ああ!気にするな、わかればいいのだわかれば」

素直に謝るものだから呆気にとられてしまった。しかしまあ、納得したのならばそれでいい。

「とりあえず、きっとなまえも気にしているだろうからな。ちゃんと謝っておくんだぞ荒北」
「んー」
「なんだその返事は!」

適当に返してパンにかぶりつく荒北。こいつ、本当にわかったんだろうな俺の言いたいことが…。

もう一度言うが、すまんな荒北。俺にはわざわざ巻ちゃんの邪魔をする資格も、わざわざお前の気持ちを教えてやる義務もない。だが、もし、お前が自分でその気持ちに気付くことができたら。そうしたら仕方ない、またこの俺の知恵を貸してやるとしよう。

巻ちゃんか荒北か、どちらでもいいのだ俺は。あいつが幸せになるならそれで。









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