リク一覧 | ナノ


「…あー…宗茂。すまないがもう一度言ってもらえると助かる、かな」
「はい。元就公、いい加減彼を俺に譲っていただきたいのですが」
「ひっ」
「……あー、ええっと…」

もう今日だけで五度は聞いた宗茂の言葉に、そばにいたなまえはさらに私の体に身を寄せた。ぶるぶると忙しなく震える体と相変わらず笑みを絶やさない宗茂を交互に見て苦笑い。

何度同じことを聞いても宗茂の答えは変わらないし、宗茂の表情も変わらない。そして、私の養子であるなまえの反応もまた然り、だ。

見せびらかしたり、紹介したいと思ったつもりはこれっぽっちもなかった。ただ、彼が客としてやってきた時に、たまたまその部屋になまえがいただけ。しかしこう言うと少し語弊があるな。別に私は他人に愛する息子を知られたくなかったとか、そういうわけじゃあない。そういう機会がなかっただけだ。だから、これは丁度いいとばかりに紹介したら、こうなってしまった。

「…いつまで隠れているんだ、なまえ」
「ひえっ、あっ、その、」
「まだお前の可愛い顔をちゃんと見ていない。早く見せてくれないか」
「ひいいいいいいい義父上えええええええ…!」

男色や衆道を否定するわけでも、偏見があるわけでもない。本人たちが望んでいるのなら咎めやしないしその権利もないだろう。しかしこの二人に関しては親として止めざるを得ない。


『へえ、元就公の…』
『そうなんだ。名前は』
『おい、お前』
『えっ』
『俺と一緒になる気はないか?』
『…む…宗茂?』
『き、急に、何を…!?』


…一目惚れらしい。それ以来宗茂はずっとこんな風になまえを虎視眈々と狙っているし、なまえはなまえでずっとビクビクしっぱなしだ。

結論から言うと、これは宗茂の一方的な片想いであり、なまえはそれを拒んでいる。なので私としては残念ながら賛成できない。普段通りにしていればなまえからの印象も変わっていただろうになあ…悪い男ではないと思っているのに、非常に勿体無い。

「…やっぱり聞き違いじゃなかったか…」
「そう何度も言わせないでくださいよ。照れるじゃないですか、なまえが」
「照れてるんじゃなくて怯えてるんだが…」
「あ、今目が合ったな。これで今日やっと23回目だ」
「ひいいいいいいい義父上えええええええ!」
「目を合わせちゃ駄目だって言っただろうなまえ…宗茂も適当なこと言って無駄に怖がらせないでくれ」
「ははは、まさか。適当じゃないですよ、ちゃんと数えてます」
「ひええええええええええ」

ついにぐすぐすと涙ぐむ声も聞こえてきた。だめだこりゃ、とため息を一つし、そろそろ帰すかと重い腰を上げると、同じように腰にしがみついてきたなまえ。可愛いんだけど重い。

「…なまえ…」
「嫌です嫌です嫌です義父上どこに行かれるのですか義父上私を一人にしないでください義父上えええええええ」
「なまえ、そんなに泣きじゃくられたら鼻水がついてしまうよ」
「それはいけない。なまえ、元就公に失礼すぎる。早く俺の方へ。俺になら気にせず鼻水でもなんでもつけてくれて構わない。むしろつけてくれ」
「そこが駄目なんだ宗茂いい加減学習した方がいい」

仕方ない、逆になまえを部屋から出してしまう方が早いか。ひぐひぐと情けない我が息子を抱いて立たせ、襖を開く。こちらを射抜く物騒な宗茂の視線は無視し、とりあえず部屋を出た。

廊下を少し歩いて客間から離れる。もういいだろうと引いていた手を話し、小さな声で言葉をかけた。

「いいかいなまえ。あとは私に任せて、君は先に自室に戻っていなさい」
「えっ、」
「毎回毎回、わざわざ君までついてくる必要ないんだからね。苦手を克服したいのかもしれないが、宗茂のあれは少し特殊すぎると言うか…本当に嫌なら、遠慮なく言うんだよ?その気になれば」
「ちがっ、違うんです、義父上、」
「ん?」

濡れている目元を無理矢理着物の袖で拭い、必死に訴えかけてきたなまえ。違う、とはなんのことだろう。わざわざついてくること?苦手を克服したいこと?

まさかとは思うけど、

「…なにが違うんだい?」
「わ、私、は、その…別に、宗茂様を嫌がっているわけではないのです…っ」

な ん だ っ て ?

「………いや。いやいや、だって、え?嫌なんだろう?」
「ちっ、違います」
「怖いんだろう?気持ち悪いんだろう?だからあんなに震えて泣いて、」
「違います、違うんです!」
「えー…」

その答え方だと、今までの数えきれない宗茂のあれを真に受けても怖くもなんともなく受け入れていただけだという風に聞こえる。しかしそれを受けて明らかにびくびくしていたのは確かだ。あれを恐怖や嫌悪の感情から来るものではないとしたら、一体なんだと言うのだろう。

信じたくない。信じたくないが、つい先ほどから嫌な汗が止まらない。疑問に思っていたいくつかの点が結ばれ一本の線になろうとしているからだ。

私の予想通り、この子が宗茂からの求愛を恐れているのだとして。そのくせなぜわざわざその怖い対象である宗茂のもとへ自ら顔を出すのか。私自身義理とはいえ息子は可愛い。そんな我が子をわざわざ望まぬ場所へ連れ出そうだなんて思わない。だから宗茂が押し掛けてきてもなまえには部屋に隠れているよう伝えるのに、着いてくるのだ。最初は苦手意識を克服したいのだろうと勝手に解釈していたが、改善されているようには見えない。さすがにそろそろ諦めるだろうと軽く見ていたのに、現に今日だって懲りずに着いてきていた。まさかとは思うが、なまえ、

「ただ…ただっ、その、は、」
「………は?」
「は…恥ずかしく、て…!」
「………」
「あ、あんなにも真っ直ぐに、情熱的に、いやむしろ、誰かに性的な意味で求められたことなどありませぬゆえ、その、あああああああ思い出しただけで恥ずかしいいいいいいい」
「分かりにくいにもほどがあるだろう!」

つまりこういうことか、先ほど宗茂が言っていたように、本当に照れていたのか。そしてよく見るとその顔は恐怖による青ざめたそれではなく、ほんのり赤い。ということは、そういうことだ。

「……線になってしまった…」
「えっ?」

せめて宗茂には知られないようにしないと。たとえなまえと同じ気持ちであろうとやはり将来を考えるとこれ以上この子に近付かせない方が良…最悪だ、なまえ越しに目が合った。全部聞いてたな宗茂。本当に最悪だ。

「…親の心子知らずとは言うが、逆もまた然り、だね」
「………?」

もうここまで来たら邪魔などするまい。私のいないところで好きにしてくれ。



(たとえ元就公といえど、この子は譲れません)












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黒夜叉さんへ愛を込めて!遅くなりましたごめんなさい><

夢主大好きすぎて怖い…ということだったのですが怖いというより気持ち悪くなってしまったすまん宗茂()大殿も〜ということだったので義子という特殊設定にしてみました。なんだかんだ言いつつ最後二人がハッピーエンドになるまで見守っててくれるんだろうな…それにしても宗茂難しかったです…ほんとあのイケメンさんをどう料理してやろうかと四苦八苦。その結果気持ち悪いのが出来ちゃいました(^o^)楽しかった(^o^)

リクエスト、本当にありがとうございました♪


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