リク一覧 | ナノ


※本編10話以降のお話






「帰れ」

遊びに来て第一声がこれって酷すぎない?ツンデレにもほどがあるよと返せばさらに睨まれてしまった。このまるで目だけで僕を殺さんとしている青鬼の名前はなまえくん。もう三十路手前の僕が生まれてはじめて愛しいと、欲しいと思った男の子。もう何ヵ月と猛アピールしているのにちっとも靡いてくれない男の子。靡くどころか毎度こんな風にツンツンツンツンした態度しか返してくれない、でもそんなところも可愛くて、それこそ食べちゃいたいくらい大好きな男の子。

「でもねなまえくん、僕だって馬鹿じゃないんだ。何度も同じ過ちは繰り返さないよ」
「えっ、ココさんって馬鹿じゃなかったんですか」
「注目するところがおかしいよなまえくん」

なんだかんだ暴言吐いたり睨み付けたりするわりには律儀に追い出さず入れてくれるんだよね。いつも座っている椅子に座る前に、隠しておいたプレゼントを差し出す。いつも贈っているからさして驚きもせず、それを見つめるなまえくん。

「…今日はなんですか?」
「きっと喜ぶよ、開けてごらん?」
「……また小松シェフですか」
「!」

反応した僕を見て、そうなんですね、とため息を吐いたなまえくんに苦笑いした。さすがにこうも連続だと気付いちゃうか。

悔しいけど、いま彼が一番気を許しているのは小松くんだと思う。現にセンチュリースープをあげたときも小松くんからだとわかると嬉しそうにしていたし、好きなタイプの件だって明らかにはしてないけど小松くんみたいな人みたいだし。

だからここ数日、喜んでもらえるように小松くんの手料理をプレゼントしてたんだけど(優しい小松くんは笑顔で了承してくれている)、ついに僕の作戦がバレてしまったようだ。

「よくわかったね」
「わからないほうがおかしいですよ、こんなに毎回毎回…小松シェフにもいい迷惑です」
「そんなことないさ。なまえくんと食べるんだって伝えたら、嬉しそうに…」

そこまで伝えて、言葉が途切れた。なまえくんが、ひどく傷付いた顔をしたからだ。

優しい彼のことだ、小松くんのことを思ってそんな顔をしているんだろう。たしかに最近少しお願いしすぎたかな。あとで改めてお礼と謝罪をしに行かないと。

「…やっぱり帰ってください」
「え、待ってよ、それならせめて料理くらい」
「一人で食べればいいでしょ」
「それじゃあ意味がない。僕一人で食べるくらいなら君が食べて。小松くんは君のために」
「ずっと!」
「!」
「…ずっと言おうと思ってたんですけど…いい加減、俺のこと利用するのやめてもらっていいですか」

急に声を張り上げたなまえくんに驚いた。彼はまだ傷付いた顔をしている。しかし言葉の意味がわからない。利用した覚えなんてないし、むしろなにかに利用する理由がない。どういうことだろう。

訳を聞こうと口を開くと、それを阻止するように体を玄関へと押し戻された。

「ちょっと待ってなまえくん、どういうこと?利用ってなに?」
「惚けるな。その料理持って、さっさと小松シェフのところへ戻ってください」
「それはできない。ちゃんと話してよ」
「もうあんたとする話なんかない」

ぐいぐいと押し戻そうとするなまえくん。でも彼の力なんて知れてる。ビクともしない僕の体を、それでも無理矢理追い出そうとしていた。

怒ってる…それだけじゃない、顔に出てるように、きっと苦しんでる。悲しんでる。でも理由がわからない。どうしようか、話す気なんて毛頭ないみたいな空気だし、ここは一度出直した方が得策だろうか。

必死ななまえくんと違い、冷静な頭に少し嫌気がさした。歳を取るって嫌だな。

「…なまえくん、」
「トリコさんが、言ってた」
「え」
「あいつも前は人間不信みたいなとこあったけど、小松と関わって変わったって、言ってた。俺がココさんに助けてもらった時と一緒だと思った」
「………」
「本当は、小松シェフのことが好きなんでしょ?でも伝えられないから、俺を利用して、そうやって無理矢理関わり持とうとしてるんだ」
「…それ、本気で言ってるの?」
「俺を小松シェフの代わりにしないでください。あんたなら大丈夫でしょ。早く小松シェフのとこ行ってください」

噛み合わない話を聞きながら、僕の体を押しているせいで顔の見えないなまえくんを見つめる。どうしよう、泣きそうだ。勘違いされてるのもそうだけど、それって嫉妬だよね?小松くんに嫉妬してるんだよね?嬉しくて可愛くて愛しくて泣きそうだ。

「…わかった」
「!」
「じゃあ、小松くんのところに行くよ。いままでごめんね」

瞬間上げられたなまえくんの顔は、さっきとは比べ物にならないくらい悲痛に歪んでいた。

「……やっぱり、ココさんなんか、嫌いだ…っ」

そこで「行かないで」って言えない君が、照れ屋で不器用で素直じゃない君が、僕を想って泣いている君が、何よりも誰よりもいとおしいのに。

「馬鹿だなあ」
「っ!」
「僕は好きだよ。大好き。他の誰でもない、なまえくんのことが世界で一番好きだよ」

たまらず抱き締めると、いつもと違って抵抗しなかった。ぽろぽろと流れる涙が、床や僕の服に落ちてシミをつくっていく。ああ、なまえくんの服も濡らしてしまった。

「…そんなに泣くほど、俺のことが好きなんですか」
「ああ、好きだ。愛してる。だから涙が出るくらい嬉しい」

この子の前で泣くのは初めてだなあとぼんやり思った。愛する人と同じ気持ちになれた僕は、きっとこの世の誰より幸福者だ。

「なまえくんも、勘違いして嫉妬して、それで泣いちゃうほど僕が好きなんでしょ?」
「……嫌いでは、ないです」

仕方ないとばかりにそう言ってふにゃりと笑うなまえくんに、そっと口付けた。

(黙って受け入れるなまえくんも、照れて顔をそらすなまえくんも、やっぱり可愛くて、大好きだ)











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匿名さんへ愛を込めて!お待たせしましたすみません!

青鬼if話でココ落ちでした〜報われてよかったね!細かい設定を話すと、ブランチさんに構ってほしくて出ていった本編とは違い、ただ単に修行しに来てただけって設定なので、ブランチさんとはそういう関係は一切なしです。じゃないとこの話が成り立たないので…(笑)まあブランチさんの方は本当は好きっていう設定があればそれはそれで美味しい。とにもかくにも、恐らく番外編にも書いてるココとの出会いの時からお互い惹かれ合っていってこの話になったってことですね。めでたしめでたし\(^o^)/

大変お待たせしましたが、リクエストありがとうございました♪


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