リク一覧 | ナノ


「隙あり!」
「どわっはぁ!!」

文字通り背後から襲いかかった。すると目の前の男はいとも簡単にスッ転げてしまったので呆れる。いてて、と立ち上がる男にため息を吐き、そばにあった木にもたれ掛かった。

「ほんっとに間抜けだよね〜。また気付かなかったの?」
「ボーッとしてたんだよ…ていうか、毎度毎度会う度に奇襲してくるのやめろって!」
「修行つけてやってるのにひどい言い種だにゃあ」
「頼んでねえし!」

同郷で小さな頃から一緒に忍びとしての修行を積んできたあたしとなまえ。お互い将来有望だとか言われてたのに、昔はあたしの方が少しだけ弱かったのに、いつの間にこんなに差がついてしまったのか。

あたしは修行と称していつもなまえの背後から現れる。もう何十何百とそうしてきたのに、いつまで経ってもなまえはあたしの気配に気付かない。学習能力が無さすぎると同時に、少し寂しい気持ちもあったり。

「…あたし相手にこの様じゃ、風魔の旦那とか半蔵の旦那相手だと殺されちゃうよ?」
「うぐっ、怖いこと言うなよ…俺はまともに戦わないで逃げて逃げて繋げる側だから大丈夫なんだよ」
「捕まったら終わりでしょーが」
「……逃げ足には自信ある」

あ、目逸らした。本当にこんなんで大丈夫なのだろうか。しかしこの男、仕官先はなんとあの織田だと言うのだから信じられない。この調子じゃいつ首を斬られてもおかしくないのに、もう数年はあそこで働いてる。いったいどんなコネを使って…いやいや、この男にそんな器用なことできるはずもないし。謎である。

まあ斬首なんてそんなこと、あたしがさせないけど。

「にしても、びっくりするくらい成長しないね」
「うるせえ。大体、いいのかよ。武田のお前がこんなところにのこのこ現れて」

そう、何を隠そうここは安土城の城下町である。あたしの仕官先である武田は、織田討伐に向けて上洛中。敵地視察ということで足を向けると彼がいたので寄り道しているだけなのだ。

「平気だよ〜。どっかの誰かさんと違って華麗に逃げられるしぃ」
「…知らねえぞ。いま俺が取っ捕まえたらどうすんだよ」
「なまえ程度の力で押さえ付けられると思ってるの?あたしのこと?とんだ笑い話だぜい!」
「っ、お前なあ!」
「それに、そんなことできないってことも知ってるよ」

だからあたしも敵である彼のことは殺さない。殺せない。いずれ織田を倒して、そのまま武田に下ってもらうつもり。そして彼も同じ。あたしを殺さないし殺せない。そうして織田に引き入れようとしてる。嗚呼なんておかしな関係なの!

「でもねえ、あたし自分より弱い男は好きじゃないから」
「はっ、なん、なんでそんな話になるんだよ!」
「いつまでも成長の見込めないなまえくんなんかより、幸村様の方が男らしいしー、熱いしー、優しいしー、かっこいいしー」
「俺だって強い!」
「はあ?どこが?」
「気付いてねえのかよ、わざと気付いてないふりしてたって」
「!」

余裕の笑みが崩れた。そんなあたしの顔を見て、今度は彼の口角がつり上がる。やだなにその顔、すっごいムカつく。

「…なに強がってるの?全然面白くないよ」
「強がってねえよ。ただ、」
「………?」
「気付くようになったら、もう来なくなると思ったんだよ」

ただでさえ今は敵同士なのに、と顔を歪めるなまえに、恥ずかしくて死にそうになった。

じゃあなに?ずっと気付いてて、なのに気付いてないふりしてたの?なにそれ。あたしバカみたいじゃない!

「…っ、なまえのくせに!ムカつく!」
「いでっ!」
「もう知らない今度は殺すつもりで奇襲してやるから!乙女を辱しめた罪は重い!ばーかばーか!」
「子どもかよ…いいよ。じゃあ次は真正面から受け止めてやる」
「なんにもかっこよくないからそれ!」

無駄にかっこつけているなまえの顔に煙玉をぶつけてやった。ムカつくムカつくムカつく。だいたいそれだけの力を隠し持っていたなんて話自体、ただの虚言かもしれない。次からは本当に殺す気で襲ってみよう。

「ったく…俺がお前の気配に気付かないわけがないだろ…」

次は俺の方から会いに行ってやろうかな。













________________
夏子さんへ愛を込めて!恋人未満なくのいち夢でした♪

お互い両想いだということに気付いてるけど…というリクエスト内容でしたので、あえての敵同士に。しかしながらシリアスというよりも微笑ましい感じにしたいなあと思いながら書いてみました!その後恋人同士になるのかなあといろいろ考えてみたけどやっぱり他の軍にいた忍びを仕えさせるなんて難しいのかなとか思ってみたり。まあ恐らくこんな調子で無意識にいちゃこらして甲斐ちゃん辺りにどやされてると見た(確信)

遅くなりましたが、リクエストありがとうございました\(^^)/


140511