「はあっ、はあっ…!」

バチバチとかバリバリとか、体がうるさい。理由は単純にして明快。でんでんを使いすぎたせいだ。乱用しすぎたせいで体が混乱してるんだ。所々が電気化から元に戻らなくなってる。少し休憩しないと。

(くそ、なんでこんなことに…)

疲労とイライラがどんどん蓄積されていく。どれもこれも、あの人に追い回されてるせいだ。いつもなら軽く痺れさせて逃げればあっちも諦めるくせに、今日はおかしかった。痺れが回復するとたちまち俺の先へ回って待ち伏せてるんだ。それが四回くらい繰り返された辺りから疑問を感じたので理由を聞けば、これまたぶっ飛んだ答えが返ってきた。

『なんてことはないよ。ただ、もう捕まえてしまおうと思って』

そう笑って俺の腕を掴んだココさん。その言葉がいつもの軽い冗談に聞こえなくて、思わずいつもより強く電気を当ててしまった。そのまま逃げ続けて、今に至る。何度本気の電気を当ててもすぐ追いかけてくる。はっきり言って異常だ。

いま休んでいるこの場所も直に特定されてしまうだろう。でんでんを使えないこの状態で見つかれば非常にまずい。しかし充電するために必要な休養時間をとると追い付かれてしまう。

「……はやく回復させて、グルメ界に逃げるしかないか…」
「そんな物騒なところに行かせるわけないでしょ?」
「!」

だらしなく飛び上がってしまった。振り向いた瞬間、顔を掴まれて塞がれた唇。ドロリと口内に入ってきたのは唾液じゃない、毒だ。吐き出すことも出来ないくらいの大量の毒を一気に注ぎ込まれた。気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!

「ゲホッ、う、ぇ…!」
「っ…はは、キス、しちゃったね…!」
「ふ、ぐ、何、入れ、」
「安心して、死にはしないよ。ただ四肢の自由を奪うだけだ」
「ふざ、けん…っ…」

密着してくる体を突き放そうとしたのに、出来ない。力が弱ったとかそんなんじゃない、動かないんだ。まるで筋が切れたみたいに、ブランと投げ出されたまま動かない腕。次いで、膝からガクンと力が抜けた。倒れそうになった体を支えたかと思うと、また口付けてきたココさん。辛うじて顔は動くけど、後頭部を固定されてるせいで抵抗できない。

「んんっ、ふ、う、」
「はっ…可愛い…」

(可愛い。可愛い。好きだよ。大好き。愛してる。なまえくん、なまえくん、なまえくん、ああ、なまえくん!美味しいよ、もっと、もっとちょうだい、柔らかい唇も逃げ惑う舌も甘い唾液も全部全部全部全部全部全部、僕にちょうだい)

「も、やら……ぶはっ、!」
「はあっ…ん……色気ないなあ、なまえくん…」
「はあ…はあ…!」

しつこく貪った挙げ句、まだしつこく啄んできやがる。なすすべなくぐったりしていると、気が済んだのかやがて顔は離れていったが、その代わりとばかりに抱きすくめられた。

「……ふふ…ははは…やっと、捕まえた…なまえくん…」
「…っ…誰、が、」
「知ってるよ、しばらくでんでんは使えないことくらい」
「!」
「まあ、もし使えたとしても、その体じゃ自由に動くことは出来ないだろうけどね」

ひどく楽しそうなその顔をぶん殴ってやりたい。悔しさに顔を歪めると、それに気付いたのか、また触れるだけのキスをされた。

「そんな可愛い顔しないでよなまえくん。家まで我慢しようと思ってたのに、堪えられなくなる」
「……この…ゲス野郎が…!」
「いつまで強がってられるかな……ああ、言い忘れてたけどね、その毒は自然に治るものじゃないんだ。ある猛獣の毒で中和しなきゃ治らない。ちなみに僕にも作れる毒だ」
「…………」
「もちろん治してあげるよ。君が身も心も僕のものになればね」

耳元で囁いたココさんは分かってる。俺がそんなこと出来るわけないって。するわけがないって。きっと本当に身も心もこの人に捧げるまで、それこそこの人みたいに狂ってしまうまで解毒なんてしてくれないだろう。

頭のいいココさんは全部分かってる。どう転がっても俺はもう救われない。
 
「さあ、もう逃がさないよ、僕の可愛い人」









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