天狗様 | ナノ
 01


人間界に身を隠して数ヶ月が経った。相変わらずあの人は探しに来ない。それでいい。どうせ分かってたことだし。頭では納得してるくせになんだかイラつく自分がいた。


「考え事?」
「!」


そうだ、今俺はハント中。この数ヶ月で美食屋としてだいぶ成長したと思う。もともとハントは好きだったし、理不尽な依頼にも慣れてきた。今日のハントは協同作業。美食屋四天王の一人、ココさんと。

人間界にやって来た当初はこの風貌からかやはり避けられたり蔑まれたり中傷されたりまあエトセトラ。仕方ない。青い肌や頭に生えてる一本角は、どう見てもここに住む人間たちには受け入れがたいものだ。来る前から覚悟はしていたが、これほどまでとは…と内心しょげていた俺を見つけてくれたのが、ココさんだ。


「…少しだけ、故郷のことを」
「故郷…たしか君の故郷は、妖食界だったかな?」
「はい」


生い茂る植物をかき分け目的地へ急ぐ。ココさんはそれ以上は追及しなかった。

ココさんや他の四天王の皆さん、そして小松シェフなどなど、一部のコアな方々には天狗の城の料理人の一人だということは知られていたらしい。なかなか地味に過ごしてたのになあと思いつつ、味方はいないよりいる方がいいだろうということでお近づきになった。

人付き合いが得意な方とは言えない。というかむしろ苦手な方なのだが、皆さんの方からぐいぐいきてくれたのでなんとか今日まで上手い具合に生きてこれた気がする。いざとなれば妖食界へ帰れば、などという考えは俺のなかにはなかった。もう意地でも帰ってやるものか。


「おにくんは、あまり自分のことを話さないよね」
「…気に、なりますか?」
「ならない…と言えば嘘になるかな。でも話さないってことは話したくないってことなんだろう?なら僕から深く追及するようなことはしないよ」


にっこり。もう何度も拝見した紳士スマイルにそうですかとだけ返した。ここは俺も笑顔を返すべきなのだろうか。気軽に笑顔を作れる皆さん方が羨ましい。俺は普段から無表情というか、リアクションが薄い。自分では少なからず反応しているつもりなのだが周りにはそうは見えないらしく、それで反感を買ってしまう時もある。


「……ココさんは」
「ん?」
「よく、笑いますよね。疲れないんですか?もしくは、イラつくというか…」
「疲れる?イラつく?それは、君に対してということ?」
「はい。俺って、昔からどうもそういう反応が下手くそみたいで…改善はしたいんですけど、なかなか」
「…まあ、たしかに人付き合い苦手そうだよね、おにくんって」
(うわ見透かされてる)
「でもそれを申し訳ないと思ってたり、自覚があるだけマシだと思うよ。直したいと思ってるならなおさらね」


にっこり。ココさんはそう言ってまた笑った。ココさんを始め、いろいろな人と関わってきてわかったことが一つある。俺はこの人といる時間が好きだ。変な気を使わなくて済む。それどころか、使わなくていいよと言われているようにさえ思う。


「…ありがとうございます。少し楽になりました」


自然と顔の力が抜けた気がする。ちゃんと笑えてるだろうか、俺。


「……うん、やっぱり君、表情固い方がいいかもしれない」
「え」
「いやいいんだよ?僕の前ではどんどん笑って。むしろもっと笑顔見せてほしいし。ああでもそろそろ笑顔以外のいろんな表情が見てみたいな…ただ僕以外の人にはあんまり見せないでほしい。それだけ」
「…ココさんってたまに気持ち悪いですよね」
「なっ、ん、こ、今度は言葉攻めなんて…そんなどストレートな君も…ああいやいや、なんでもない!今はハントに集中しよう!」


顔を赤くしたり息を荒くしたり、かと思えばキリッとした顔に戻って歩みを再開したココさん。俺はこの人といる時間が好きだ。好きだけどたまに出てくる気持ち悪い一面は好きじゃない。イケメンさんなのに勿体ない。非常に残念だと思う。サニーさんの言葉を借りると、そう、きしょい。









鬼と毒人間












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