天狗様 | ナノ
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トントンとリズムよく食材を刻む包丁の音。ガチャガチャと食器の擦れる音が響く洗い場。ジュウと焼ける音と共に芳ばしく香る肉や魚。聞き慣れた音も見慣れた光景も、全部大好きだ。俺のすべてだ。今までも、これからも。







「ブランチさん」
「おう、どないしてん」
「俺、料理人やめます」
「おう、そうか。てかそんなことでいちいち呼ぶなや、今調理中……は?」
「俺、料理人やめて美食屋目指します」
「ちょ、待てやおに!ワレ自分が何言うとんかわかっ」
「今までお世話になりました」
「待てェおに!!まだ話は終わってへんぞ!!」


「でんでん」



怒号と共に素早く手を伸ばしてきたブランチさんから逃げるように、バチバチと電流化して厨房を抜け出した。そのまま天狗の城を、妖食界をも抜け出して、人間界へ。

一からやり直しだ。俺はその日から料理人を名乗ることをやめた。









消えた












140129

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