天狗様 | ナノ
 13


「……………………あっれ」


起きたらそこはベッドの上だった。いやいや、ベッドは寝るための家具なんだからなんの問題はないんだが。しかしなぜだろう、昨日の記憶が面白いくらい空っぽで、なにも思い出せない。おかしいな、俺何してたっけ。


(頭いてえ)


頭も体も重い。フラフラする。風邪でも引いたのだろうか。俺ほんとに何してたんだっけ。いつ寝たのかも覚えてねえ。

寝起きということも手伝って、おぼつかない足取りでリビングへ向かった。うん、やはりいつもとなんら変わりない。ここまでくるともはや怖いなと頭を掻きながら椅子に座ろうとしたら、テーブルに白い紙を発見した。


「……ココさんだ。来てたのか?」


どうやら置き手紙らしいそれを手に取り文字を読んだ。要約すると……どうやら俺は酒を飲んで潰れたらしい。うーわ最悪。よりによってココさんに介抱されたとか…なんにもしてねえだろうなあの人…。


「おそらく一日中しんどいだろうからこの食材を置いていきます。運が良いことに、二日酔いによく効く肉みたいだから、遠慮しないで食べてね……へー、ココさん太っ腹」


ならさっそく調理して…と思ったけどダルい。椅子から立ち上がれない。今日はずっとこの調子だろうな。どうしよう、もう一眠りしようかな。

ぐたりとテーブルにうつ伏せになる。あああああああああ、ダメだ、寝る。もう寝る。寝よう。お休みなさい。


「んだよおに、まだ寝てんのか?」
「…………不法侵入ですサニーさん」
「こんな時間まで寝るとか美容に悪すぎだし。ほら、さっさと起きろよ」
「(無視すんなよコラ)あー……実はちょっとしんどくって…」
「あ?」


うつ伏せのまま答えると、さすがに違和感を感じたのか、大丈夫かよとの声が聞こえた。大丈夫じゃないけど大丈夫だからさっさと帰れ。なんでこう嫌なタイミングにばっかり現れるんだろうか。でもこの人相手じゃ鍵かけても意味ないしな。ていうか四天王の皆さんならドアくらい軽く壊せるもんな。末恐ろしい。

返事の代わりに片手をあげて帰れのジェスチャーをしてみた。姿が見えないので反応がわからないが、足音からしてこちらに近付いてきている。なんでだよ。


「……ふーん、ココのやつと飲んでたのかよ」
(げっ)
「文面からして、さぞ楽しかったんだろな?それで二日酔いとか世話ねえし」
「(勝手に読んでんじゃねえよ)……俺もよく覚えてないんですよ…気付いたらベッドの中にいて」
「ベッド?」
「…変な勘違いしないでくださいね。なんにもされてませんから」


ていうかされてないと信じたい。いくらあの人でもまさか酔った相手をどうこうするような外道じゃない。はず。そう思いたい。しかし如何せん記憶がないので絶対とは言えないのが辛い。


「んで何もされてないって言い切れんだよ」
「だってココさんですよ?いくら普段ちょっと変な人とはいえ、一応常識くらい持ってるでしょうし」


不法侵入してくるサニーさんと違って。わざとらしくそう言うと、またふーんと返ってきた。あ、ヤバイ声低い。怒ってる。めんどくせ。


「……お前はんでそやっていつも無防備なワケ?」
「無防備って……むしろ警戒しっぱなしなんですけど」
「ふとした瞬間隙が出来る。そこをつけ込まれんだし」


こんな風に、と、サニーさんの声がすぐ耳元で聞こえた。


「……俺しんどいって言いましたよね」
「知らね。俺は常識的なココと違って、どんな些細なチャンスでも取りこぼすつもりねえし」
「そんなんだからサニーさんって、」
「嫌い?」
「……そこまで言ってないでしょ。ただウザいだけです」
「ザいだけなら何されても文句言えねえよな?」
「うぎゃっ」


ぬるりとうなじを這ったのはお馴染みの髪の毛じゃない、舌だ。だってちょっと濡れてる。気持ち悪い。きしょい。

慌てて起き上がろうとしたら髪を掴まれてそのまま額同士をぶつけてきたサニーさん。あまりの痛さに思わず変な声を出してしまった。


「ひっ、ぎ…いだあ…!」
「品無さすぎだし…美しくねえぞおに」
「知らねえよそんな、の…」


ギュッと閉じてしまった目を開けて睨み付けようとしたその時、サニーさんの顔が誰かの顔に重なって見えた。これは、ココさん?なんだこれ、なんか見覚えがあるぞ。たしか……と思い出そうとしたらひどい頭痛に襲われた。

もしや、昨日の記憶が何かだろうか。だとしたらなんでココさんの顔が重なるんだ。ココさん俺になにかしたのか?


「……ココ、さん…」
「はっ、この期に及んで名前呼ぶとか……俺のことなめすぎじゃね?」
「ちが、そうじゃ…いっ…!」


頭がズキズキと痛む。ていうか近いし。離れろよこの野郎。


「何度も、言わせんな」
「!」
「体は売っても心は売らない…!」


言葉が勝手に口からこぼれていく。言われたサニーさんだけじゃなく俺まで驚いてるって、いったいどういう状況だよこれ。


「……何の話してんだ?」
「……わからないです。口が勝手に」
「お前、ほんっとうにココに何もされてねえのかよ!もっとよく思い出せ!昨日どんな感じだった!?」
「う……思い出そうとしたら、めっちゃくちゃ、頭痛が……」


ほんとに何があったんだよ昨日。余計なこと言ってないだろうな俺。別の意味でも頭痛くなってきた。こわい。お酒こわい。次ココさんに会うのもこわい。もう絶対お酒飲まねえ。あとサニーさんそろそろ離れろ。









鬼と二日酔い










140216

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