ほわいとでー | ナノ
三成から貰う

「起きているか、なまえ」
「起きてるけどいい加減俺が返事してから部屋入ってもらっていいかな三成くんよ」
「断る」
「即答された…っと!?」

ふらふらになりながらたどり着いたなまえの部屋。廊下まで部屋の明かりが漏れていたので無駄な質問ではあったが、やはり起きていた部屋主に向けて手に入れた品を放り投げた。驚きながらも難なく受け取ったなまえは面を外し、布に包まれていた中身を見てさらに驚愕している。

今回の戦ですべての人間を抑えてもっとも多く手柄を上げたのは俺だ。高虎と吉継だけでなく清正や正則らも驚いていて、そのぽかんとした間抜け面がひどく滑稽だった。たしかに俺は武働きが不得手だしその自覚はあるが、その部分がまったく機能しないとは一言も言っていない。それに予め戦場の地形の確認や敵将の数、位置、動きなどを予測して考えていた策が面白いくらいにすべてはまったのが決定打になった。秀吉様ですら驚いていたが、ようやったと嬉しそうに褒めてくださったので良しとする。それに何よりちよこれいとが手に入ったのだ。自分でもらしくなく戦場を端から端まで駆けずり回っていたので体力も尽きそうだったが、疲れ果てて眠ってしまうまでになんとかこいつの元へたどり着くことが出来たのでよかった。

「ち…ちよこれいとじゃありませんか…え、なに、どした?また秀吉様?だから俺休んどけって言われたの?」
「かもしれんな。お前がいてはまた手柄を独り占めされていただろう」
「……つーことは三成が一番頑張ったってこと?」
「ふん。俺とてやれば出来るのだよ」
「マジかよすげえじゃん!なんかそっちのが嬉しいわ」
「!」
「そうかそうか…ほら、お前って俺とか清正とかに比べたらめちゃくちゃ華奢だろ?強いのはわかってたけどやっぱどっか放っとけなくてさァ…いつまでも子ども扱いしてちゃダメだよな。お前も立派な武将だもんな」
「………別に、お前たちのように馬鹿みたいに鍛えているわけでもないが」
「うわあ一言余計」
「それが事実だ」
「そうだけどさァ…まあありがとな。お前も食うか?」
「いらぬ。それより少し休ませろ」

じゃあ一人で食ーべよ、と言いながらちよこれいとを頬張るなまえを横目に机に突っ伏した。油断すればこのまま眠ってしまいそうだ。無茶をし過ぎた自覚はあったがまさかここまで疲労が溜まっていたとは。

「…はあー、ごちそうさまでした」
「………」
「…三成」
「…んん…」
「みつなり〜」
「…うるさい。なんだ」
「そんな疲れてんのか?」
「……察せ、馬鹿…」
「……よし、わかった!三成!」
「は?」
「ほれ」

あまりにしつこく呼び掛けてくるので仕方なく顔を上げると、そこには満面の笑みで腕を広げてこちらを見るなまえの姿があった。こいつのやろうとしていることが簡単に読み取れてしまい頭を抱える。この男はどうしてそう…ついさっき子ども扱いしてはいけないなどと自分で言っていたくせに。

そのまま素直にその胸に飛び込んでしまいたいけれど、今は駄目な気がする。ただでさえ疲れきっているのに、そんな状態で易々と密着しては、きっと良くないことが起こる。

「どした、なまえ兄さんがぎゅーしてあっためてやるぞ?」
「お前はおねね様か」
「すまんおねね様ほどの包容力はない」
「だろうな」
「ちぇー。ちっせえ頃はこれでよく甘やかしてやったのに…」
「子ども扱いしないのではなかったのか?」
「まあそうですけどォ…」
「………少しだけだぞ」
「えっ、いや別に嫌ならいいんだけど」
「嫌だとは言っていない」
「ツンデレ定期わろた」

寂しそうに見せている顔は演技だと分かりきっているのに、それでも結局耐えきれずに体を預けてしまった。よしよしよく頑張ったなと優しく抱きしめられる。怪我はしてねえかと頭を撫でられる。今日はゆっくり休めよと背中をさすられる。

そばにいるだけでも甘くて甘くて仕方ないのに、胸に顔を埋めてしまえば、もう駄目だった。思考回路がどろどろと溶けていくのが分かる。なにも考えられない。頭がなまえでいっぱいになる。体が熱い。ずっとこのままでいたい。じんわり侵食してくる体温が心地いい。離れたくない。着物越しでは物足りない。その肌に直に触れたい。触れてほしい。

「……三成?」

はあ、と漏れた息の熱さに気付いたのだろうか。俺の異変を感じ取ったなまえが体を離した。心配そうに俺を見つめている。額や頬にペタペタと触れる手が冷たくて気持ちいい。

「大丈夫かよ、熱あんぞお前」
「…なまえ」
「なんだ?」
「……なまえ、なまえ、」
「ああ、聞こえてるぞ、どうした?」
「…だ」
「え?」

俺の言葉を聞き取ろうと近付いてきた顔を掴んで無理矢理口付けた。

「…好きだ、なまえ」
「……三成、」
「好きだ、お前が。本当に。死ぬほど、好きだ、なまえ、あいしてる」

額を合わせたままひたすら愛を囁く。擦れる鼻先がくすぐったい。困惑しきった顔すらもいとおしい。

「……疲れ過ぎだわお前、一旦部屋戻って」
「拒むな」
「っ、」
「…俺を、拒むな。誤魔化すな。目をそらすな。俺は本気だ。お前以外何もいらない。他のもの全て失ったっていい。けれど、お前に拒まれてしまったら、俺は生きていけない」

優しいお前は、きっとこう言えば拒めないだろう?泣いてすがれば拒否できないだろう?狡いと言うなら言えばいい。気の迷いだと思うなら思えばいい。俺はただ疲れていて、正常な意識を保てていなかっただけ。そう解釈してしまえばいい。だから、

「俺はお前を愛してる。お前は、俺が嫌いか?なまえ」

だから、今夜だけは、

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