ほわいとでー | ナノ
高虎から貰う

「おい高虎お前いい加減にしろよおねね様使って会いに来んなって何回言えば分かるんだコラァ!」
「遅かったな、待ちくたびれたぞなまえ」
「何さらっと流そうとしてんだてめ…あ?」

おねね様に無理を言って呼んでもらったなまえを客間で待つこと数分。乱暴に開け放たれた襖が全開しきる前に怒号が飛んできた。たしかに最近おねね様のお手を煩わせることが増えていたかもしれない。内容はほとんどなまえとの逢い引きに関することだけだが、次回からは少し控えようと思う。

とりあえず落ち着かせようと先程手に入れたちよこれいとを見せるとぽかんとした顔をしてそれを凝視しているなまえ。当然ながら今回の戦でもっとも活躍したのは俺だった。三成はともかくあの吉継があそこまで本気を出すとは予想外だったが、それでも俺には敵わなかったようだ。らしくなくムキになりすぎたかもしれんが目的を達成するためなので仕方あるまい。

「………えっ、チョコじゃん」
「ちよこれいとだ」
「あーそうそうちよこれいとちよこれいと。貰ったのか?」
「先日の戦で大手柄を上げたからな。秀吉から贈られた」
「へー、よかったじゃねえか……なに、もしかしてお返しとか言う?」
「お前にしては察しがいいな」
「どういう意味だしばくぞ」
「口が悪いやつにはやらん」
「さぁせーーーん」

謝る気がまるでないなまえにため息を吐く。出会った当初はへこへこと腰が低い男だという印象しかなかったのに、今では会う度暴言暴力が飛び交うようななれなれしくて適当な印象が強い。しかし初めて会うような他人や目上の人間には相変わらず腰を低くして愛想よく対応しているところを見る限り、懐に入れた相手には粗暴で無遠慮な性格になると見た。けれど、ただそれだけの男なのであればここまで心惹かれることなどなかっただろうし、どんな手を使ってでもその心を自分のものにしたいなどと思わなかっただろう。

今だってそうだ。いたずらに笑うその顔を見ただけで、どうしようもなく胸が満たされていくのが自分で分かる。

「おら、ちゃんと謝ったんだからくれよ」
「欲しいならまず俺の前に座れ」
「は?やだよ」
「なに?」
「ふざけんなよお前…先月のあの悪行を忘れたとは言わせねえぞ…」
「なんのことだ」
「全力でちよこれいと俺の口に突っ込んだだろうがよ!」
「美味かっただろう?」
「全然味わえませんでしたけど!?」
「なら今回は突っ込まずに持ったまま食べさせてやる。口を開けろなまえ」
「なんでそうなるんだよ普通に渡せや自分のペースで食わせろや!」
「あまりわがままばかり言うなら俺がすべて平らげるぞ?」
「こっ、このやろう…!」

ぐぬぬ…と腹立たしそうに俺を睨み付けるなまえ。あくまでもちよこれいとは俺の物であるということから強く出られないのだろう。そういう変に律儀で真面目なところも面白い。そしてそれはこのまま押していけばいずれは折れるという証拠だ。

「さあ、どうするんだ?俺としてはお前に贈るために頑張ったのだから食わせてやりたいが、それが嫌だというのならこのまま俺が食べる他あるまい」
「高虎…いつからそんな意地悪な男になったんだ…俺は悲しいぜ…しくしく…」
「食べるのか?食べないのか?」
「タベタイデス」
「だったら素直に口を開けろ」
「………お前ほんと覚えてろよ高虎ァ…」

さながら鬼のような顔をしたままゆっくりと俺の前に座したなまえは、しばらく渋ってはいたが、やがて諦めたように口を開けた。その隙だらけな顔を見て思わず笑ってしまうと怒鳴られたが、約束通りちよこれいとを差し出せば大人しく食べ始めたのでそれにまた笑う。自分がそうさせたとはいえまるで赤子だな。屈辱的な行為とはいえやはり美味いらしく、怒り顔だったのがどこか嬉しそうに緩められているのが分かった。

手を地につけて俺の手から甘味を美味しそうに頬張る姿のなんと無防備なことか。時折口の端についたものが気になるのかぺろりと舐めるために出てくる真っ赤な舌がいやらしい。食べにくいのかたまに鬱陶しそうに見上げてくる目すら可愛らしい。体温が上昇していることに気付いたのは、持っていた箇所からちよこれいとが溶け出していたからだ。

「…ん!ごちそうさまでした」
「まだ残っているぞ」
「は?んぶっ!」

綺麗に完食したなまえはようやく俺の手元から顔を離して満足そうに両手を合わせていたが、まだだ。親指と人差し指に残ったそれもきちんと味わえと、そのまま口の中に突っ込んだ。熱くてぬめりとした舌を柔く掴んだり、口内にちよこれいとを擦り付けるように指で掻き回す。咄嗟に手首を掴んで抵抗してきたなまえを無視して続けようとしたが、

「いっ!」
「ぶはっ…こんの、鬼畜野郎が…!」
「…美味かっただろ」
「頭沸いてんのかテメエ!ああああ気持ち悪かった…オエエ…」

思い切り噛みつかれたので指を引き抜かざるを得なかった。思い切りといってもさすがに加減してくれたのか出血はなく噛み痕が残る程度だったので、やはりまだまだ甘いなと思う。甘いというか、油断しすぎというか、つまり逆に言えば、俺のことなどまったく意識していないということだ。

げほげほとわざとらしく咳き込むなまえ。最初はその演技なのかと感じるほどの鈍感さもいとおしかったが、もうそれを愛でる余裕も無くなってきている。

「…なまえ、そろそろ俺だって我慢の限界だぞ」
「いやそれ俺の台詞なんですけど?」
「やはりお前みたいな人間は直接伝えねばわからんようだな」
「なんか知らんけど遠回しに馬鹿って言ってる?」
「そうだ」
「おま、」

また怒鳴り散らそうとした口に噛みつくように口付けた。傷付けないように、そっと食むようにその感触を味わう。触れ合う箇所がすこぶる熱いのはこいつのせいか、それとも俺のせいか。

「……ずっとだ。ずっと好きだった。早く俺だけのものになってくれ、なまえ」

出てきた声は自分でも驚くほど掠れて震えていた。これではまるで懇願だ。それでももう後戻りは出来ないと、もう一度唇を重ねた。

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