ほわいとでー | ナノ
乱、再び

あいつと共に南蛮の甘味を味わったあの日から約一月が経とうとしていた頃。いつもの二人と共に秀吉様に呼び出されたので部屋へ向かうと、どこか上機嫌な秀吉様が座して待っていた。その手にはいつか見たあの不思議な甘味が。二人も何かしら察したらしく、静かに息を呑む音が聞こえた気がする。

「よう来たのう三人とも!待っとったで」
「…秀吉様、それはまさか」
「お、さすがに気付いたか三成。まあ高虎と吉継も気付いとるじゃろうが、そう!先の戦後に褒美としてからすにやった“ちよこれいと”じゃ!」
「また南蛮の使者から贈呈されたのですか?」
「うむ!しかも、その時にまた面白い話を聞いてのう」
「また新しいちよこれいとにまつわる風習ですか」
「おっ、ようわかったのう高虎!正解じゃ。まあ内容的には同じようなものらしいんじゃが…今回は前回ちよこれいとをくれた相手にお返しするっちゅう風習らしい。まあもちろん貰えてなかろうと普通に渡す者もおるらしいが」

側にいた二人が確実に反応した。前回の件でちよこれいとを貰ったのは俺だ。ならば当然その風習に則るのも俺であるのが筋なのだが、

「さて、ここからが問題なんじゃが…今回も手に入ったのはこの一つだけでな」
「「「!」」」
「そういうわけで前回と同じく、次の戦で一番活躍した者にこのちよこれいとを贈呈する!今回からすには休みをやっとるからその分お前さんらに頑張ってもらうで、ええな?」

その言葉を最後に俺たち三人は部屋を後にした。なるほど、この奇妙な人間関係をすべて把握している上でのこの案件か。頭の切れるあのお方らしい妙案ではある。たしかにあの甘味を餌にすれば効率よく戦を進めることが出来るだろう。恐らく二人もそれを理解しているはず。

襖を閉める音が静かな廊下に響き渡る。そうしてそのまま静まり返ったままでいるはずもなく、自然と三人で睨み合っていた。

「…分かっていると思うが、俺は一切手を抜かん。早々に諦めた方が賢明だと思うぞ。特に戦下手のお前はな」
「忠告は素直に受け取っておいてやろう。しかし秀吉様はなにも武功で活躍した者とは一言も仰っていない。つまりお前が馬鹿みたいに武功を立てたところで選ばれるとは限らんぞ」
「三成の言うことも一理あるな。恐らく総合的に見て一番功績を挙げた者を選ぶのだろう。というわけで俺も諦めるつもりは毛頭ないからな、高虎」
「ふん、まあお前たちがただで退くような人間でないことは知っている。その屈強な意思すら捩じ伏せて俺がちよこれいとを勝ち取ってやる。精々頑張るがいいさ」
「お気楽なものだ、もう勝った気でいるのか?その無駄な自信が裏目に出ないよう祈るのだな」
「本当に仕方のないやつらだな…好きなだけ二人で争えばいい。俺はその隙を狙わせてもらう」
「いくら吉継だろうと今回ばかりは譲れんぞ。ちよこれいとを貰うのは俺だ」
「口にするのは簡単だ。そのように勝ち誇った言葉は実際に手にしてから口に出すのだな。まああれを貰うのは俺なので実質無駄ではあるが」
「高虎も三成も遠慮なく潰しあってくれ。そうして俺の一人勝ちという流れだ。楽しみだな」

ばちばちという音が聞こえそうである。あくまで穏やかな声色で話してはいるがお互い絶対に譲る気も引く気もない。恐らく二人は前回貰えなかった分も含めて俺の邪魔をするつもりだろう。しかし俺も黙って負けるつもりはない。むしろ今回は自力で勝ち取り、またあいつとちよこれいとを味わうのだ。

あの時間がとびきり甘く感じたのはちよこれいとのせいだけでないことは分かっている。今度は俺からお前に贈ってやろう。この世でたった一人の大切なお前と、またもう一度甘くて幸せな時間を過ごすためにも、俺は必ず勝つ。

ちよこれいとの乱、再度開幕である。

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