ばれんたいん | ナノ
三成に渡す

「ふん、まあ当然の選択だな」
「そのドヤ顔が非常に不愉快だったのでやっぱり吉継に渡してきます」
「ふざけるな張り倒すぞ」

最後の一言は聞かなかったことにしといてやろうなぜなら俺はお前より大人でお前より寛大でお前より優しいからな!!

そんなこんなで熟考の結果、このチョコは三成に渡すことにした。熟考というか消去法というか…誰に渡せば一番実害が少ないかをよーく考えた結果やっぱり三成に渡した方がその後穏やかに過ごせるかなって…高虎はきっと本人も一番もらえる可能性が低いと自覚してるだろうから「やはりお前のことなど嫌いだ」程度で済むだろうし、吉継はまたぐずぐず泣き真似するかブツブツ拗ねたフリするだろうが少し構ってやれば何事もなかったかのようにけろりと元に戻るだろう。しかしもしも三成に渡さなかったらどうなる?ただでさえキングオブつっけんどんな上に思い通りにならないと舌打ち暴言睨み付けるのオンパレードだし自分より他の人間を選んだなんて知ったらそれこそ超スーパーハイパー不機嫌MAXモードに突入して最低でも数週間は無視されるか当たりがいつも以上に強くなるかのどっちかしか考えらんねえ。そんなめんどくせえことになるくらいならチョコの一つや二つくれてやるぜ。ストレスでなんて死にたくない死ぬならせめて戦場で戦って死にたい。いやまず死にたくないけど。

「で?せっかく選んだのにありがとうもなしかお前は」
「感謝してやる」
「てめえ」

いつものツンとした顔のままいいから早く寄越せと宣うのでさすがにカチンときた俺は三成の真ん前に座してお面を外した。懐から取り出したるは南蛮渡来の甘味ちよこれいとである。

「三成くんが素直に「なまえ兄さんありがとう(はぁと)」って可愛く言ってくれるまでこれは差し上げられませ〜ん」
「は?」
「せっかく一番可愛がってやってて付き合いも長いお前に渡そうと思ってたのにそんな態度じゃなあ?」
「………」

布からそっと取り出したチョコを揺らしながらそう言うと、ブスッと膨れると思っていた三成は表情を崩さずそうかと答えた。え、理解してくれたの?ほんとに?ちゃんと(はぁと)付きで言えよ?わかってんな?

「要は素直に甘えてやればいいのだろう?」
「いやまあそうなんですけどなんでどこまでも上から目線なの?」
「そんなもの簡単だ」
「えっ」

かんたん?聞き間違いか?いつもツンツンツンツンツンツン…デレ…なくせに一体何を。

すっかり困惑しきった俺を知ってか知らずか三成はすすすと膝歩きで近付いてきて、そのまますとんと俺の膝上に腰を下ろした。あまりの衝撃に今度こそ思考停止した俺である。

「どうした?お望み通り甘えてやったぞ、なまえ兄さん」

文字通り甘えるように俺の体に寄りかかりながらするりとチョコを持つ俺の手を取る三成。そうしてぱくりと独特な食感のそれにかぶり付いた。ひ、雛鳥かな…?

「…あー…美味しい?三成」
「………」
「ガン無視で咀嚼してるよこの子…まあ不味くねえならいいけど」
「…甘過ぎる」
「ふーん。食べきれねえなら貰うから無理すんなよ」
「平気だ」
「絶対言うと思った」

なんとか平静を取り戻した俺は茶化しながらもくもくとチョコを貪る三成を見つめる。サイズ的に言うと普通の板チョコの半分くらいなので恐らく一人で食べきれるだろう。ウン十年ぶりのチョコ、俺も食べたかったけどなあ…少し溶けて手についていたそいつで我慢するか。甘味だあいすき。

やはり甘過ぎるのか渋い顔をしながら食べていた三成だったが順調に食べ進めていき、残り一口分というところまできた。あとは口で咥えて食べるだろうと思っていたのだが

「おー、偉い偉い。ちゃんと全部食べ…ってえ!」
「うるひゃい」
「バカお前!それ!俺の!指です!痛い!」

何をボケてるのか俺の指にチョコごと噛みついてきた三成に悲鳴をあげた。キレる間もなくそのまま指先や手についたチョコもすべて舐め取ってしまったので呆気にとられる。俺の分が!じゃなくて、やめなさい三成意地汚いぞ!あと普通に汚い!

「なにお前、そんなに美味しかったの…?」
「甘過ぎるから好みではない」
「ふぁー????」
「しかしせっかくお前が一番大切な人間として俺に渡したものだ。残すのは気が引けたのでな」
「はあ、そうですか…」

……なんかもうつっこむのも疲れるからそういうことにしておこうと思う。三成がそう言うならきっとそうなんだろう。知らんけど。

満足したので離れるかと思いきやくたりと体を凭れさせたままで、すりすりと胸に頭を擦り付けてきた。まさかこれは、マジデレでは?佐吉きゅんモードでは?三成が本気出したのでは?

「…撫でていいの?」
「好きにしろ」
「じゃあ放置で」
「チッ……撫でろ、なまえ」

おおおおおおおおおおバレンタインパワーの恩恵だああああああああ舌打ちされたものの肯定されたああああああああああああああ。さよならつっけんどん三成。お帰り佐吉きゅん。いつもこうやって素直に甘えてくれりゃあ可愛いのになあと思いながら遠慮なく頭を撫でてやると、目を閉じてさらに顔を押し付けてきた。猫かよ。

口ではああだこうだ言ってたけどきっとチョコ美味しかったんだろうな。気を良くした三成のデレを久々に堪能できたのでバレンタインデー様々である。また機会があれば渡してみよう。




(やはりこの世で一番甘いのはなまえなのだと再確認した、とある冬の日)




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