ばれんたいん | ナノ
乱の発端

聞いてくれ。なんと本能寺の変もびっくりな歴史的大事件が起こった。

それはとある冬のとある戦の後のこと。今回一番頑張ってくれたから〜ってことで秀吉が褒美をくれたんだけど、その物体に俺は大変驚愕した。

「南蛮渡来の品でな、名を“ちよこれいと”というらしい」
(チョコレートだ…)
「なんでも南蛮ではこの時期に自分の大切な相手にこのちよこれいとを渡すっちゅう風習もあるらしいんさ」
(バレンタインデーだ…)
「ま、これはもうお前さんのもんじゃ!形や色は見慣れんかもしれんが、大変甘くて美味な甘味でな。自分で食うもよし、風習に倣うもよし。好きにすればええで。お疲れさん!」
「はい、ありがとうございます、秀吉様」

前世でよーく見慣れた小さなそれを受け取り頭を下げる。ヒエ〜そうかもう世で言うバレンタインの季節か。前世でも数えるくらいではあるが何度か貰えたな。懐かしいな。まあほぼ友チョコ義理チョコですけどね!いいんだよ最愛の彼女からは本命貰えてたから!貰うっつーか投げ寄越されてたけどな!素直じゃねーんだからまったく!

さて、事件が起きたのはここからだ。これがもし俺と秀吉の二人きりである場だったならばやったあご褒美うれしー久々のチョコマジうめー最高〜フゥ〜!ぐらい大喜びしてその場でバクバク食ってただろう。しかしここには俺と秀吉の他にも人間がいたのだ。そう、人気投票ベスト3のイケメン代表トリオこと三成、吉継、高虎だ。この三人も活躍していたので呼ばれていたのだがそれぞれチョコではなく茶器やらお金やらがご褒美として渡されていた。まあこいつらにはチョコよりもだいぶありがたいだろうなよかったな〜と思いながら三人と一緒に部屋を出て、さあ自室で味わうとするかと歩き出そうとしたらガシリと腕を捕まれたのである。犯人はもちろん我らがツンデレ代表三成様でしたなにその顔コワイ。

「…えーっと…三成殿?今日はもう疲れたんで部屋に帰してほしいんだが」
「先ほどの秀吉様の言葉をもう忘れたのですかからす殿。相変わらず物覚えが悪いようで残念です」
「あ?」
「その甘味、なんでも大切な相手に渡すものだとか」
「はあ、そうらしいな」

それがなにか、と続けようとして口が止まる。待て待て待て、なんか悪い顔してんだけどまさかこいつ、チョコ欲しいの?しかもさも自分が俺の一番大切な相手だとでも言いたげな顔よ。そうまでして俺がもらったやつわざわざ欲しがるほど甘いもん好きだっけこいつ。

「………三成殿ってそんなに甘味好きだったか?」
「嫌いではないですがどうしてもと言うなら受け取ってやらないでもないですよ」
「どうしてそんな上から…別にあげるつもりさらさら無いけど」
「はあ?」
「こわ」
「よせ三成、無理強いはよくない」

悪どい笑みが一瞬にして般若の面になったのでどうしようかと思ったがすぐそばにいた吉継が三成の腕を引いて味方してくれた。ナイス吉継ゥ〜よっしゃこの隙にそそくさと部屋へ…

「それに、からす殿がちよこれいとを渡す相手はお前ではなく俺なのだからな」

と思ったがここでトンデモハプニング。まさか吉継までもがチョコを狙ってやがる、だと…!?謎のドヤ顔ェ…いや美味しいけどさ。そんなに?そんなにチョコほしい?でもこれ俺がもらったやつだし〜お前らだって別でご褒美もらってるやん?それでよくね?

「おや、どうしたからす殿。まさかとは思うが…俺は貴殿にとって大切な人間ではないということだろうか…」
「前から思ってましたけど吉継殿のその言い方ほんと悪意しか感じないのでやめた方がいいと思います」
「ではそれを渡してもらえるという解釈でいいんだな?」
「どういう解釈」
「吉継、新参のくせに偉そうな口を利くな。お前がどう言いくるめようと最後に決めるのはからす殿だ。まあ結果はすでに見えているが?」
「ふっ、甘いな三成。絆の大きさに時間など関係ない。なぜならもうすでに俺とからす殿は互いに戯れ言を言い合えるほどの仲なのだからな」
「自慢するようなことなのかそれは」

ああだこうだと(多分ほぼくだらんことを)言い争う三成と吉継はどうやら本気でこのチョコが欲しいらしい。じゃあもうみんなで分けようぜって提案してみたけど即答で却下された。独り占めしたいの?子どもかよふざけんなよ妥協しろやめんどくせえな…

そろそろヒートアップしてきそうなのでさらっと自室に帰るかと目論んでいたのだが、それまでずっと黙っていた高虎が俺の前に立ちふさがった。嘘でしょお前もチョコ欲しいの?大っ嫌いな俺がもらったチョコ欲しいの?なんなのみんな南蛮のお菓子だからって興味津々すぎでしょ怖いよ。

「…勘違いするな、俺は別に二人と違って貴様からそれを受け取ることが目的ではない」
(ええええ…じゃあそこどけや…)
「ただ、その南蛮の風習とやらに興味がある」
「…高虎殿には誰か渡したい相手がいると」
「そういうことだ。どうせ誰にも渡さず自分で食べるくらいならこの茶器と交換しろ」

んーーーー…まあーーーー多分だけどーーーー…渡したい相手……俺(なまえ)の事だろうなァーーーー…こいつなんだかんだで俺(なまえ)の事大好きだもんなァーーーー…!だがしかしいくら嫌いな相手とはいえ頼み方ってもんがあるだろ高虎このやろう。そんな生意気なやつには絶対やらんぞコラァ。

「おいふざけるな貴様が一番相応しくないくせにでしゃばるな高虎」
「だから言っているだろう、俺はお前達と違って誰から貰おうとどうでもいい。ただあの甘味が欲しいだけだ」
「それならまた秀吉様が南蛮の使者と会う機会を待てばいい。運が良ければそのまま貰えるだろう」
「それはお前にも言えることだ吉継。分かったら両者ともさっさと去れ」
「そうはいかないな三成、俺はからす殿から貰いたいのだ」
「次の機会など待っていられるか俺は今この時期でないと意味がない。お前らこそ諦めろ」
「黙れ貴様らが諦めろ」
「すまんが俺も譲れぬ」

「…いや…だから、それなら小さくなるけど切り分けたらいいのでは」
「「「却下」」」



……以上が事件…いや、その名も「ちよこれいとの乱」が起こったきっかけハイライトである。くっそくだらんように見えるだろ?とんでもない。こう見えて三人ともものっそい殺気立ってたのだほんとこわいちょーこわいムリムリ。

そういうわけでなんとかその場を鎮めるために俺が急遽提案したのは、必ず誰か一人に渡すから一旦それぞれ部屋(高虎は秀長んとこ)に戻ってくれというその場しのぎのものだった。いやまあちゃんと選びますけど何が悲しいってその選択肢に「俺が自分で食べる」っていうのが無いことですよね…まあもう言っちまったもんはしょうがねえ。誰に渡しても恨みっこなしだと10回くらい伝えたので大丈夫だとは思うが、選択は誤らねえようにしないと。

さて、誰にこのちよこれいとを渡してやろうか。




>>