聖なる夜。お風呂上がりで一息ついていた僕の前に現れたのは… 「ククク…メリークリスマス…」 「………あのねえ小太郎くん、僕じゃなかったらビックリしすぎて気絶しちゃうから気を付けようね…それで、どうしたの?今日はサンタクロースの気分なの?」 「気分ではない。我の正体は実はサンタさんでした、ということだ」 「ええええ〜…仮にもしそうだとしたら世の中の子どもという子どもみんなトラウマ沙汰だよ…」 「クク、まさに混沌…」 「自覚があるだけよかったよ。さて、そんな混沌サンタの小太郎くん。僕へのプレゼントは用意してくれてるのかな?」 「何を戯けたことを…もうプレゼントなどねだるような歳でもなかろう」 「いや、その姿で現れといてそれはないでしょ…なんで僕がお子ちゃまみたいな感じになるんだ…」 「ワガママなお子ちゃまなまえくん、そんなに我からのプレゼントが欲しければくれてやる…」 「…わ!まさかのワンちゃん!?可愛い〜!」 「ククク…まだいるぞ」 「えっ、2匹…さん、え、ちょ、待って小太郎くん」 「クククククク…」 「やめて小太郎くん袋閉じて!どんだけ連れてきたの!?絶対その袋に入る数じゃないでしょ!なにこれ!どんどん増えてるよ!?」 「部屋中犬まみれでモコモコふわふわ暖かい…嬉しかろう?なまえ」 「限度があるし比喩でもなんでもなくほんとにワンちゃんまみれになってるんだけど!?」 「ワンちゃんが一匹…ワンちゃんが二匹…」 「小太郎くん聞いてる!?」 「ハッピーメリークリスマス…ククク…」 「小太郎くんってば!」 「さすがにそんなにお世話できないよ!」 「は?」 「って、え?」 気付けば部屋中を埋め尽くすワンちゃんの姿などなく、いつもと変わらない見慣れた静かな僕の部屋がそこにあった。まさか全部夢だったのか? 「お…恐ろしい…というか、小太郎くんいつ来たの?」 「まだ部屋に入って数分しか経っておらぬ。どこかのお馬鹿さんが髪も乾かさずに眠りこけていたので髪を拭いてやっておったのよ」 「あ、それはどうも」 なるほど、モコモコ触感がリアルだったのは小太郎くんがバスタオルで髪を拭いてくれていたからか。いつの間に眠ってたんだろう。少し温まりすぎて逆上せちゃってたのかもしれない。普段からいつ作られたのかも知らない合鍵を使って気まぐれに遊びに来る小太郎くんではあるが今回ばかりは助かった。じゃないとそのまま起きずに朝まで寝ちゃって確実に風邪引いてたな。 それにしても人に髪を拭いてもらうのなんていつ以来だろう。間違いなく子どもの頃が最後だったと思う。気持ちいい。なんだかまた眠たくなってきたな。 「…なんかねえ、すごい夢見たんだ。小太郎くんがサンタさんになってた」 「クク…そんなに疲れておるのか」 「僕もそう思うよ…ということで、このままドライヤーで髪乾かしてくれると嬉しいなあ」 「どうした、甘えているのか?」 「んー、まあ、クリスマスだし?」 「まるで子どもだな」 「子どもで結構。たまには甘やかしてよ小太郎くん」 「…珍しく甘えん坊だな、ワガママなお子ちゃまなまえくん」 「うわ、それ夢でも言われた」 「ククク…」 それでも優しく頭を拭いてくれている小太郎くんはきっと最後まで僕のワガママに付き合ってくれるだろう。後日必ず来るであろう見返りの要求も素直に聞いてあげようと思う。ただし大量のワンちゃんだけは無しね。 「…ね、もしこのまま寝ちゃってたら、ベッドまで連れてってもらってていい?」 「眠いのか?」 「んー…なんか気持ちよくて、また眠たくなってきた」 「…考えておいてやろう」 「とか言って、ちゃんと寝かせてくれるの知ってんだからね僕」 「それはどうかな?ただで寝かせてやると思っているのか?」 「…添い寝くらいなら許してあげる」 笑ってそう返せば、気に入らなかったのか拭き方が乱暴になった。それでも僕が同意しない以上無理強いしてこないのがこの子の良いとこだと思う。ごめんね、まだ本気になれない僕を許して。 |