聖なる夜。いつもと変わらず受験勉強に打ち込んでいた俺の前に現れたのは… 「メリークリスマス!」 「………は…?雪、成…!?」 「そうだよ!兄さん、黙っててごめんね?俺ほんとはサンタクロースだったんだ!どう?ビックリした?」 「サンタクロース……そう、か、そうだったんだな、驚いた」 「あー、その顔、信じてないでしょ。ほんとなんだよ?母さんや父さんにも黙ってたけど、兄さんにだけは特別に教えてあげる」 「(…あまりつっこんでしまったら拗ねるか…)そうか、ありがとう。雪成はすごいな、ずっと昔からサンタさんだったのか?」 「うん!去年の兄さんのプレゼントだって、俺が用意した物なんだぜ」 「そうなのか、どうりで俺の好きな物が毎年届くわけだ」 「だろ?俺が兄さんのことで分からないことなんて何一つないからな」 「……それで?今年は俺のために何を用意してくれたんだ?」 「今年のプレゼントは……って、あれ?」 「どうした?」 「あれ、おかしいな、ちゃんと袋に入れてきたのに…あれ…?」 「………」 「……ごめん兄さん、プレゼント…」 「…忘れてきちゃった?」 「………」 「ふ…そんな顔するなよ。そういう時もある」 「けど、俺、」 「プレゼントなんてなくてもいいんだよ。お前がこうして、俺なんかのことを思ってくれるようないい子でいてくれたら、それでいいんだ」 「……俺、いい子でいれてる?兄さんは、俺のこと、好きでいてくれる?」 「当たり前だろ、プレゼント忘れたくらいで嫌いになったりするもんか。だから、」 「な、くなよ、雪成…」 「!」 「………あれ…?」 さっきまで普通に出せていたはずの声は掠れていて、座って雪成と話していたはずなのに机に顔を伏せていた。眠っていたのだろうか。しかし冷静に考えれば分かることだ。 「よう、起きたかよ」 「……なんで部屋にいるんだ」 「母さんがケーキ食べるから呼んできてって。起きたんならさっさと降りてこいよオニイチャン」 夢に雪成が出てきて驚いたのはなにもサンタの衣装を着ていたからではない。明らかに今よりも幼い、それこそ小学生くらいの年齢の姿だったからだ。けれど俺の部屋の扉の前で可愛いげのない笑みを浮かべているのはどう見ても中学二年生の雪成だし、もちろんサンタの衣装なんか着ていない。 「つーか、なに?俺の夢でも見てたのか?」 「…そんなわけないだろ気持ち悪い」 「ひっでぇ。じゃあなんで俺の名前呼んでたんだよ」 最悪だ、聞こえていた。舌打ちしそうになったのを堪えて気のせいだと濁すが、ニヤニヤとした笑みは崩れない。 「隠しても無駄だぜ。俺がお前のことで分からないことなんて何一つないからな」 「……ケーキ食べるんだろ。行くから先に行っててくれ」 「へいへい」 半ば追い出すようにそう言えばようやく出ていった雪成。さっきの台詞、偶然だろうか。夢に出てきた幼い雪成もそう言っていた。サンタ姿のあの子はあんなにも可愛くて純粋だったのに、何がどうなってあんな憎たらしい弟になってしまったんだろう。今さら答えなんて出てこない難題に知らず知らずため息がこぼれた。 あいつも同席するのだから気が重いが、このまま行かずにいれば両親が気にしてしまう。仕方ないからリビングに行こうと立ち上がったら、肩から何かが落ちた。毛布? 「どうしてこんなところに…」 寒いから体に掛けながら勉強を…いや、記憶にない。だからといって毛布が勝手に動くわけでもなし、それならどうして俺の体に掛かっていたのだろうか。 「……まさかな」 一瞬浮かんだ馬鹿な考えを振り払い、毛布をベッドに投げて部屋を後にした。 |