聖なる夜。運よく座れた揺れる電車でうたた寝しかけていたおれの前に現れたのは… 「め、メリークリスマァス…」 「……………あ、らきた、先輩…?」 「っ、だよなァそんな反応するよなァわかってたけどォ!別に泣いてねえし!」 「だだだだだってこんなとこにそんな格好して現れるから何事かと…!そりゃ今日はクリスマスですけど、え、う、なん、なんでサンタの衣装なんか…そんなお茶目さんでしたっけ…」 「…いいかァなまえ、落ち着いて聞けヨ…?」 「(し、真剣な眼差し…これはなにか深いわけが…?)は、はい」 「俺らが付き合って、今日が初めてのクリスマス、だよネ?」 「はい、まあ…そうですけど…」 「だからその記念に、俺の正体を教えてやろうと思ってさァ」 「正体?」 「ウン」 「……実はコスプレが好きなお茶目さん…?」 「ちっげーヨここにきて大ボケかますなヨコスプレでもなんでもねえんだヨ!」 「…と、いうことは」 「いいかァ?他の奴らには内緒だぜ?…俺、実はサンタクロースなんだヨ…」 「(こしょこしょ話で言われてもなあ…今日の荒北先輩はお茶目さんだな…でも本人は至って真面目なフリしてるし、ここは乗っておくか…)そ、そうだったんですね、ビックリしました…!」 「ホントォ?へへ、そりゃずっと隠してたからな」 「(嬉しそう…可愛いなこの人…)それで、サンタさんな荒北先輩はおれにプレゼントを?」 「そう!オメーはずっとずっとイイコチャンだったから、いいもの選んでやったんだ…ほら」 「……こ、これは…サンタ衣装…?」 「これで俺とお揃いだぜ!今日は他にも回らねえといけない家がたくさんあっから、それ着て一緒に行こうヨなまえチャン」 「(いやいやいやいやどこまでガチなんだ!?)さっ、さすがに冗談ですよね!?荒北先輩!」 「エッ、冗談?」 「実はサンタだったとか、家回るとか、そんな…へっ!?」 「……オメーなら、信じてくれると思って、話したのに…」 「ちが、待ってください先輩、だってそんな」 「俺が、俺がオメーに、嘘なんかつくわけないじゃナァイ…っ」 「わかりました嘘です荒北先輩はサンタさんですいやあサンタ衣装嬉しいなあ!」 「そのプレゼントだって、ほんとは、微妙だって思ったのォ…?」 「いやいやいやそんなわけ…ちょっ、話聞いてください先輩!おれが察し悪いせいです荒北先輩はなにも悪くないです!先輩!」 「だから泣かないでください先輩っ!」 「ヘェッ!?」 「う!?」 ついに目からポロポロと大粒の涙を流し始めた荒北先輩を落ち着かせるため叫んだけれど、目の前にいたのは見知らぬサラリーマンのおじさんだった。あれ、先輩が前じゃなくて隣にいる…あれ!? 「どっ、どしたの…俺泣いてたのォ…?」 「……サンタ…あれ…?」 「サンタ?」 「…………いえ、あの…大丈夫ですすみません…」 この状況を見て静かに察したおれは苦笑いして先輩を見つめた。そうか、夢だったんだな。そうだそうだ、今日はクリスマスデートしてて、その帰りだったのだ。ああああああほんとビックリした…そうだよな、こんな満員電車の中でそんな唐突にサンタコスしたりしないよな…しかし面白い夢を見たものだ。荒北先輩が本当にサンタクロースだったなら、今日のこのデートが彼からのプレゼントに違いない。本当に楽しかった。 「俺が泣いてて、サンタが出てきた夢…?」 「ふふっ、違います。それはそれで面白いけど」 「…どんな夢見てたのォ?」 「すごかったですよ。サンタのコスプレした荒北先輩が、実はサンタだったんだっておれに言うんです」 話しながらクスクス笑うと、荒北先輩もナニソレェと笑ってくれた。 「…でも、荒北先輩がもし本当にサンタだったら嫌だなあおれ」 「へ、なんで?サンタ嫌い?」 「なんでそうなるんですか、違いますよ…だってもしサンタだったら、おれだけの荒北先輩じゃなくなっちゃうじゃないですか」 サンタクロースは夢見る子ども達の人気者だ。誰しも小さい頃はみんなサンタが好きだったろう。その対象が荒北先輩となると誇らしい反面嫉妬だってする。 …と、ここまで考えて顔が熱くなるのがわかった。なに恥ずかしいこと言ってんだろ。堂々と嫉妬するから嫌だって宣言してるのと同じだ。 「な、なーんて…」 「実はホントにサンタだっつったらどうするゥ?」 「えっ、」 「ま、もちろんオメー専用のだけどネ」 「!」 「…他の奴らには内緒だぜ?」 まるで夢の時と同じように耳打ちされた台詞。いつもは女々しいはずなのにその時見せた不敵な笑顔がどうしようもなくかっこよくて、この人には敵わないなあと頭を抱えた。 |