三成失踪事件


それは突然のことだった。いつものように政務に追われていた三成が姿を消したらしい。ただそれだけならば俺や左近だけでなく、清正と正則、幸村や兼続まで動くことはなかっただろう。突き止めていくと、犯人は謎の黒覆面集団だとか。

「ただでさえ人から恨みを買いやすいってのに、今度は何をやらかしたんだあの馬鹿…行くぞ、正則」
「おうよ!ったくしょうがねえんだからよォ頭でっかちは…」
「我々も向かいましょう兼続殿。友の窮地、必ずお救いせねば!」
「よくぞ言った幸村!我らが三人揃えば出来ないことなど何もない!倒せぬ敵などどこにもいない!!」



「……気付いているか、左近」
「ええ、もちろん。そう聞くってことは、吉継さんも?」
「ああ…このような事態になったというのに、一番にすっ飛んで来るはずのあの男の姿がない」
「…あの人のことです。もしすぐに動いていたとしたら、殿はすでにお帰りになられているでしょうねえ」
「考えにくいが、黒覆面とやらにやられてしまったか…もしくは、」

からす本人が、連中と繋がっているかもしれない。













「くらえ三成日頃の恨み!頬っぺた摘まみ攻撃!」
「いひゃいいひゃいやめりょくじゅが!」
「はーっはっはっはっは!その姿では手も足も出まい!やりたい放題だぜヒャッハー!」
「き、さま、なまえ…この縄さえなければ…!」
「えっうそもうバレたの!?声変えたのに…」
「その程度で誤魔化せると思うな俺が何年何十年お前の声を聞いてきたと思っているのだよ!」
「その愛の深さに全俺が泣いた…だがしかしおねね様の命によりお前を苦しめねえといけないから許せ三成!ていっ!」
「うぶっ」
「ぶははははははははブッサイク〜!!!」
「ククク…まさに混沌…」
「なまえも小太郎も、やり過ぎはダメだからね?特に小太郎、さっき間違えて火計早めようとしてたでしょ!」
「は?マジかよお前やめろや俺たちまで巻き添えになるだろうが!」
「はて、なんのことやら」
「うわあ…おねね様これ絶対間違えてじゃないですよわざとですよこれ…」
「もう、あんまり悪戯するようなら三人まとめて折檻だよ!?」
「アレェおかしいな俺も混ざってる、だと…!?」
「クククク…」
「とにかくあたしが指示を出すまで勝手に暴走しちゃダメだよ!」

そう言ったあと、次の作戦があるからと姿を消したおねね様を見送った。いや〜急に頼みがあると言われたから来てみたら黒い覆面被せられてマジ焦ったわ。まあ用件聞いて即答でオーケーしたけどね。いつもの澄まし顔を引っ張ったり押し潰したりして強制変顔させる遊びが最高すぎて腹筋が死ぬ。

「…どうせ、こんなことをしても誰も来ない」
「……なんだ三成、もう弱音吐くのかァ?」
「吉継や左近、幸村と、兼続ならば、まだ来てくれると思う。だが…」
「………」
「……それなら、最初から期待しない。するだけ無駄だ」
「…ったく…可愛いやつめ」
「はっ、な、なぜそうなる!やめろ!」

わしゃわしゃと頭を乱暴に撫でまくる。ほんとに期待しないってんなら、わざわざ口に出して言ったりしねえだろ。本当は誰よりもあの二人に来てほしいくせに。ちいせえ頃から苦楽を共にした、あいつらに。

おねね様の伝えようとしていること、こいつら三人に理解してほしいと思っていることはよくわかる。そこさえしっかり繋ぎ止めて置けば今後も泰平の世は続いていく。そう考えるのが普通だ。けど、それでも、道を違えてしまう日は必ずやって来る。やって来てしまう。

だからこそ今この瞬間くらいは、この馬鹿で意地っ張りですぐ喧嘩をするどうしようもない三兄弟を、見守ってやっていきたい。

「…というわけで、素直になれない三成くんにはお仕置きだよ!小太郎、化粧道具」
「は?」
「ここに」
「よしよし…喜べ三成。俺が超絶美人ちゃんに変身させてやるぜ。手伝え小太郎」
「おい待て何を考えている俺に近付くな!」
「ククク、みつこちゃん…」
「誰がみつこちゃんだいい加減にしろ貴様ら冗談にもほどが…待っ、やめ…うわあああああああ!!!」















…まあ、結局みつこちゃん(笑)が完成する前に火計が始まったからそれどころじゃなくなったわけだが。その後俺と小太郎はおねね様の指示通り、ちゃんと助けに来てくれた六人に対して倒さない程度に相手したり(多分左近と吉継は俺って気付いてたな)、チーム徳川さん方を誘導したりと大忙しだった。最後は無事おねね様を倒し、三成を救出した清正たち。今はなんか鬼の形相した清正が三成と正則を追いかけ回してるけど、まあ終わりよければすべてよしってやつだな!うん!

「……皮肉なものよな」
「!」
「すべてを見通しているうぬが、このような戯れ事に自ら関わるとは」
「…知ってるからこそだよ」
「………」
「だからこそ、今こうして馬鹿みたいなことで笑ってられる時間を、大切にしたいんだ」

俺の言葉を聞いた小太郎は鼻で笑った。失礼なやつめ。分かってるよ、傷付いてるんじゃないかって心配してくれてるんだよな、多分。ありがとな。

おねね様、心配しなくてもあいつらはまだ大丈夫ですよ。その先のことはなんとも言えねえけど、でも、せめてあんたや秀吉が出来るだけ悲しまないように俺も動くからさ。だから、あいつらのこと、ちゃんと信じてやってください。







「ところでからす、お前の被っていた黒覆面はどこだ?欲しいのだが」
「………吉継、今俺がどんな顔してるかわかる?」
「見せてくれるのか?」
「見せなくても分かれよ死ぬほど引いてる顔してんだよ!そんなもん手に入れて何する気だ!」
「清正がおねね様の黒覆面でやろうとしていることと同じことだが?」
「やめて!!!こわい!!!」
「そして偶然我の手に例に覆面が…」
「よこせ風魔!!」
「てめえやめろ小太郎今すぐ処分しろ早く!!」
「ククク…」






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