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『風魔の忍びが我々の邪魔をした!』
『きっと三成を庇っていたのだ!』
『あの烏天狗が手を回していたに違いない!』
『やはりお前は裏切り者だ!』

などなど、家康との楽しい()お話をした翌日そう罵られまくった俺ことからす殿なんですけど俺その日おもくそ家康と話してたからなんにも知らないんですよね〜あと俺がいつでもどこでも小太郎とかいうフリーダム人間を完璧に支配できてるとか思われても困るわそんなのハードすぎて無理無理〜!ということを遠回しに伝えた結果火に油を注ぐだけだったみたいでわろた。しかし家康がちゃんと俺のアリバイを説明してくれたのでそれ以上責められることはなく無事解放されたのでした…ざまあみろ!!小太郎ですか?小太郎は小太郎でなんか適当に徳川のために動いただけだみたいなこと言ってたよ。俺より口が達者だからうまく丸め込めていたらしい。ボキャブラリーの差よ。

まあ、なんにも知らないってのは嘘だったけど。そうか例の三成暗殺だか襲撃だかっていうやつ昨日だったんだなあ。そうぼんやり考えながら、現場を見てない俺ですら苦笑いするほどに大暴れしたらしい小太郎によしよししたのが去年の話だ。





「小太郎〜、準備できたァ?」
「人の心配よりも自分の心配をしろ」
「辛辣」

数年ぶりに身につけた防具は相変わらず重くて、けれどチートパワーなのかなんのか未だに新品同様に傷一つなかった。部屋の外からたくさんの声が聞こえる。時おり怒号が聞こえるのは気のせいではないだろう。

兼続がついに直江状を送ってきた。怒った家康が上杉討伐へ向かうため俺達を引き連れ城を出る。それをつくように三成が、幸村が挙兵する。挟み撃ちを恐れた家康は手勢を分けて対応する。俺は家康率いる本隊とともに三成ら西軍が待ち構える関ヶ原へ向かう。

全部、そのままだ。すべてゲーム通り。すべて史実通り。流れ流れて、ついにこんな大戦にまで参加することになるとは。

「ククク…」
「あ?」
「楽しみでな。天下分け目の大戦が、もう目前よ」
「こんの混沌オバケめ」

楽しそうで何よりだよ吐き捨て、小太郎が持ってくれていた双剣を受け取る。お前と会うのも久しぶりだな、頼れる相棒よ。また俺にちょっとだけ力を貸してくれ。

「…お前もだぞ小太郎。今さら裏切んなよ」
「…クククク…」
「いやどっち?そこはちゃんと返事して?」




「からす」
「!」
「…入るぞ」

相変わらず不穏な返事しかしてくれない小太郎に半泣きでツッコミを入れていると、部屋の外から名前を呼ばれた。返事をする前に入ってきたこの声は…

「…清正、それに正則まで」
「……からす、家康殿からの命令だ」
「!」
「三成率いる西軍との戦いでは、俺と正則と共に前線で動いてもらう」

あー……なるほど、監視か。去年のこともあるからなんだかんだでまだ疑ってんだな。それもそうだわ。よりにもよってここ二人とセットにされる辺りものっそい辛いんだけどね。恐らくそこも家康の策略なんだろうけど。

そのまま三成を討てるなら合格。討てないならやはり裏切り者だということで処分。そこを判断するってのがこの策略の真意なんだろう。多分だけどな。

「…ああ、分かった。ならその通りにしよう」
「……すまん、からす」
「どうして謝るんだ?家康殿の命令なのであれば従う他ないし、別にお前たちと行動するのに不服なことなんてないぞ」
「そうじゃねえよ!お前だって分かってんだろ!?俺らは、今から、」
「正則」
「っ」
「…それから、清正」

あれまあ二人とも、ひどい顔してんぞ。正則なんか泣きそうじゃん。おねね様が見たらなんて言うだろうな。

「きっとこれで最後だ。悔いなく戦おう」

昔みたいに二人の頭をわしゃわしゃと撫でて、先に部屋を出た。そう、これが最後だ。俺も頑張るから、お前らも頑張れ。

何が起きようが、どんな手を使おうが、俺は全力で約束を果たす。それだけだ。







190518


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