高虎と感動(大嘘)の再会を果たしてから数ヵ月。あの近辺には近付かないでおこうと思っていたが翌々考えると下手に動くよりはここらでしばらく過ごしている方が楽なのでは…?と思い長屋の一室を借りてのんびり暮らしている俺なのであった。聞けばここ長政の城の城下町らしいしな。あれからなんとか思い出した城の名前は小谷城。あと数年したら織田軍に攻め入られて、落城してしまう城。淡々と必ず来るであろう未来を想像していることがなんとも虚しい。長政のことは嫌いじゃないから余計そうだ。というか嫌いなキャラいねえし。まあ、それはそれ、これはこれってやつだ。もう割り切るしかない。

少しの金を手に夜の町を歩く。お腹空いた。ゲーム上では主に戦場と化している場面しか見たことなかった城下町だけど、普段は商人や町人たちの活気で賑わう明るい場所だった。これが泰平の世…か…みたいな。みんながみんな、日本中がこんな風になることを目指して戦ってるんだなあと思うと、なんか、感慨深いな。長政だってその中の一人だ。

「…世知辛いなあ」
「何が」
「ヴァッッッ」

お分かりいただけただろうか。背後から突如声を掛けられしかもそれが聞き覚えのある低音ボイスだったため思わず飛び跳ねてしまった俺のチキンハート具合を。

「なっ、なん、」
「久しぶりだな、なまえ。また来ていたのか」
「突然声かけんの止めてくださいよめっちゃビビったわ!」

俺の怒号に目をまあるくしている手ぬぐいオバケもとい高虎は、やがてなぜか面白そうに笑った。なんでやねん。ていうか何この遭遇率。そらまあ久々だけどこんな頻度で無双キャラに会えるもんなの?あと俺のこと覚えてたことにもびっくりなんだけど。

「なんだ、初めて会った時とはえらい違いだな」
「あっ、いえ、えっと、あー…す、少し驚いて…スミマセン…」

そうだそうだまだはちゃめちゃに若いとはいえ一応武将だもんな武器も持ってねえ旅人(仮)ごときにタメ口きかれたら怒…いやでもこいつ笑ってね?失礼じゃなかったのかな。もしくは一周回って笑ってるパターン?OMG。

「なぜ謝る?別に敬語でなくて構わない。俺だって使ってないだろ」

しかしそんな俺のガクブルもむなしく、高虎はまた不思議そうに目を丸くしていた。あ、そう?別に平気な感じ?なら遠慮なく。

「…じゃあお言葉に甘えて普段通りの感じで言わせてもらうけど、よく俺のこと覚えてたな」
「ああ…なんだか不思議な奴だったからな、顔を覚えていた」
「は?」
「ただの旅人のくせに一侍である俺を恐れず、それどころか食べかけの団子まで寄越しやがったからな」
「食べかけじゃねえよ綺麗だっただろうが!」
「言葉のあやだ。で?そういうお前こそ俺のことを覚えていたようだが」

まあ前世でよくプレイしてましたし多少は、ね?それにしてもなんだかんだでリアルでもイケメンなんだなあ腹立つわこいつ。でもゲームの時より断然若いよな…若いっつーか今現在の俺と同い年ぐらいじゃね?14、15くらいか。なのにこの顔の作りの差よ。イケメン◯す。

「覚えてるよ。高虎…さん」
「なんでそこで遠慮するんだ」
「いやさすがに呼び捨ては…」
「ふっ、本当におかしな奴だな」

さりげなく気を遣ってみた結果鼻で笑われたんだけど殴っていい?それどころかおかしな奴認定されたんだけど殴っていい?殴っていいかな?またフルボッコにすんぞアーーーン?と思ったけどダメだわこんなとこで暴れたら長屋からも追い出される落ち着け落ち着け。それ以前の問題だなんてツッコミは無し。

バカにされてる感しかないけどもこれが高虎なりの絡み方なんだろうなと適当に納得し、次いでこの状況をどうやって切り抜けるかを考える。あまりキャラと絡まないようにしたいってのもあるけど本心は腹減ったからの一言に尽きる。飯屋が俺を呼んどるんじゃあああ…!ということで、会話ぶったぎり作戦を決行す。

「ははは…あー、久方ぶりに会えたところ悪いんだが、少し急いでんだわ。またな高虎」
「どこに行くんだ?ここらなら俺の方が詳しいぞ」
「(なっ、食い下がる、だと…!?)い、いや、なんつーかその…」
「時間帯からして、宿探しか?ならちょうどいい。お前には団子の礼がある。うちに泊まっ」
「ちがーーーーーーーう違う違う違います結構です俺いま流浪演舞中断してこの城下町の長屋に住んでんの!今出歩いてんのは飯屋行く途中だったからだ!以上!解散!」

つーか団子ごときの礼で易々と旅人(仮)を一侍の部屋に上げようとすんな上下関係ガバガバかよこえーよ!てかサラッと長屋住んでること暴露しちゃったじゃねえか俺のバカ!おっちょこちょい!けど解散宣言したからまだ間に合うちゃっちゃと走り去って撒こう。唸れ俺の黄金の両足!さらば高虎!

「…なら、ついてこい。俺も夕飯はまだだったからな」
「ぐえっ」
「いい飯屋を教えてやる」

もちろん俺の奢りだ。そう言った高虎の顔は今の年相応らしい子どもっぽい笑顔を浮かべていたがそうじゃない。俺は、一緒に、飯屋へ行きたいなんて!一言も!言ってない!!あと襟元引っ張んな首しまる!!ちくしょう!!!




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