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三成(というか左近)に呼ばれたので伏見城に訪れた俺もといからす殿。てっきりあの有名な佐和山城に住んでんのかと思えばなんか政務とか奉行のお仕事とかでここにいることの方が多いらしい。まああそこの大名であることは変わりないらしいけどな。戦国豆知識の一つだ。知らんけど。

まあそんなこんなで城についたのでお邪魔しま〜すと入ったがタイミングが悪かったらしくまだ仕事中らしい。通された客間に足を運ぶと、そこには遊びに来ていたらしい吉継とその相手をしていた左近の姿もあった。なんかこのメンバーで揃うの久々だなあ。積もる話もあるのでとりあえず三成が来るまではと世間話に花を咲かせていた。

と、しばらく話し込んでいたのだがここであることを思い出した。そうだそうだこいつらに言わなきゃいけねえことがあったんだった。ずっと言おう言おうと思っていたのだがなかなか機会が訪れず忘れていたのだ。今日こそは言ってやる。

「…時に左近殿、そして吉継」
「なんです?」
「どうした?からす」
「ずっとずっと言いたかったのだが…二人とも、三成殿を甘やかしすぎではないか?」

スコン…という気持ちいいししおどしの音が聞こえた気がする。

そうだよそうだよこれずっと言いたかったんだよ!お前ら!マジで!あいつのこと甘やかしすぎだろ!!さすがにゲーム内でのあれは盛りすぎてるだけだろうな〜と甘く見ていた俺が浅はかだった。こいつらゲームのまんまだったわ。いやゲーム外の部分を見れている分このリアル世界の方が酷く感じる。そりゃまあ三成の言うこと成すことハイハイ喜んで〜ってほどではないけどそれにしたってあいつの言うことの九割はなんでも従おうとするのほんとやめろおねね様以上に過保護な母ちゃんになってんぞおい。

具体例を挙げるとキリがないのだが、まず吉継!お前はなんでもかんでも三成の言いたいことやりたいことを汲みすぎるな!言わずとも伝え合えるのはいいことかもしれねえがそれだとあいつどんどん孤立していくだろうが!全員が全員お前みたいに察しのいい人間じゃねえんだぞ!「仕方のないやつだな…」じゃなくてたまにはちゃんと口で伝えろって言ってやれ!あと言葉遣いと態度も注意しろ!無駄に敵増える一方だぞ!

それから左近!お前に特に言いたいのはあの手この手で頻繁に三成に会わせようとするなということだ!今回もそうだ!いくら気心知れた兄弟分といえど毎週のように会ってたら疲れるだろ!殿が会いたがってるので〜とか殿がお呼びなので〜とか三成の要望を優先してえのは分かるけどそれにしたって限度ってもんがあるだろ!俺に会う暇があんならその分仕事に集中させろ!ぶっちゃけ普段暇人だから会おうと思えば毎日会えるんだけどめんどくせえ日もあるんだよ察して!

「……ふむ、なるほど。たしかに言わんとしていることは分からないでもないが」
「そうですねえ…俺たちから言わせてみれば、殿を一番甘やかしてるのは…烏天狗さん、あんたなんじゃないですか?」
「えっ」

それからそれから…と他の具体例を挙げようとしたらそう返されたので思わず素の声を出してしまった俺である。え、俺?甘やかしてる?三成を?俺が?いやいやまさかそんなバカな…

「どれだけ暴言暴力を受けようと変わらず接しているし」
「なんだかんだで呼べば殿にお会いしてくれるし」
「無理難題を押し付けられようと嫌々ながらも必ず達成させるし」
「戦中も、たしか殿に危険が及ぶと真っ先に飛んでいってましたしねえ」
「そうだそうだ。三成ばかり甘やかすのは如何なものかと思うぞ。俺のことももっともっと甘やかせ」
「あー、論点がずれ始めてるんですが…まあそういうわけで、あんたの過保護具合に比べれば俺たちの行動なんて可愛らしいもんですよ」

俺がすっかり沈黙してしまったのをいいことに、二人はその後もあれやこれやと俺の過保護具合とやらをつらつら述べている。いや、でも、それはさ…ほら………いや!俺も男だ言い分けはしねえ。そうだ、たしかに、俺も若干あいつのこと甘やかしてるかなァ〜っていう自覚はある。少しだけな。ほんのちょびっとだぞ。あくまでちょっとだけだ。それに元祖過保護組のお前らに比べれば俺なんかまだぺーぺーだしな!

「…ああ、そうか。わかりましたよ烏天狗さん」
「え?」
「あんた、俺と吉継さんに嫉妬してるんでしょ」

………………しっ、と?

「…おい待て左近何を」
「自分が一番甘やかしてた殿を俺や吉継さんが同じように甘やかすのが気に入らない…違いますか?」
「し、嫉妬…えええ…?二人に嫉…うそ…ええええ…?」
「落ち着けからす所詮左近の戯れ言だ聞き流せ」
「なんです吉継さん、邪魔しないでいただけますか?」
「断る。一体どういうつもりだ左近」
「どうもこうも、俺はただ殿に幸せになってもらいたいだけですよ」
「…ということは九州での一件もやはりお前の策だったか……からす、嫉妬は嫉妬でも俺と左近に対してではなく、三成に対してではないか?俺に甘やかされまくる三成に嫉妬しているのではないのか?」
「いや吉継さん…さすがにそいつは無茶ですって…」

俺の肩を揺すりながらそうだろうからすそうだと言えってなんかぶつぶつ言ってる吉継を他所に、俺の思考回路はショート寸前であった。なに、どういうこと、嫉妬?ジェラシー?嘘でしょ俺まさかこいつらに嫉妬してたの?たしかに三成の甘えどころが増えたわけだから素直に喜べばいいのにこうしてほとんど文句混じりに指摘してしまうのは嫉妬してるからなのか?ええええええ〜そんなアホな。

でも、そうか、まあ、たしかにちっせえ頃からあいつの相手してきた身からすると、嫉妬というかちょっと寂しい気持ちにはなるな…そう考えると、大まかにではあるが嫉妬していたと言えるのかもしれない。前世から知ってたけどあんなに人間付き合いへったくそだったのにこうして甘やかしてくれる人間が増えたわけだもんな。成長してくれて嬉しいってのと寂しいってのが混ざりあってるんだろう。そっか〜そう思うとなんか感慨深いな。

「騒々しいな、何事だ」
「!」
「おや、ようやく終わりましたかい、殿」
「吉継も来ていたのか…少しからす殿を借りていくぞ」
「嫌だ断る俺も連れていけ三成」
「はあ?」

静かに開けられた襖から三成が現れた。途端に俺を隠すように抱きすくめてきた吉継をはいはい殿がお呼びなんでねと引き剥がす左近。

「…お待たせしました、からす殿。こちらへ」
「ああ」

呼ばれるままに立ち上がり、そのまま三成と共に客間を出た。そうして襖を閉めた瞬間、先程の吉継のように抱きついてきた三成に驚く。

「おま、誰かに見られたらどうすんの。あの冷静沈着な三成様が…!?って噂されるぞ?」
「…吉継はいいのに俺は駄目なのか」
「いやそうじゃなくてさァ…とりあえず用があんなら部屋行こうぜ」

小声で軽く諭して体を離す。客間で見せていたいつもの落ち着き払った表情から一転、今はブスッとした膨れっ面を晒していた。ほんと分かりやすいなこいつ。

左近は俺が嫉妬してるって言ったけど、なんだかんだで嫉妬しいなのは三成の方なんだよな。ため息を吐いた割には頬が緩んでいる気がしたので、結局二人の言う通り俺もこいつに心底甘いんだなあとお面の下で自嘲した。







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