「はいお待ち、串団子」
「あざまーす」

差し出された三色団子の乗った皿を受け取り代わりに代金を支払った。そのまま一口頬張る。んまい。

結論から言うと、恐らくレベル1(無双で言うと階級か)だった俺だがなんとかがむしゃらに高虎をぶち倒し、事なきを得たのである。がむしゃらという名の無双奥義連発。あとさっきの代金は高虎をぶっ飛ばした時に出てきたお金ね。あっすごいゲームっぽーい!と思いながらありがたく拝借しそれ以上目立たないようにダッシュで戦線離脱した。多分他の無双キャラには見られてない、はず。けど世界事情を知ってしまったからには否応なしに絡んでいかなきゃいけねえんだろうな…神様の詳しい狙いまではわかんねえけど、どうやら俺はこの世界に干渉して歴史を史実通りに攻略しなければいけないようだ。さすがに全ての戦に参戦するなんて無茶なことはできねえだろうけど、出来る限りは介入しないといけねえな。知らない内に昨日みたいなことが起きたら貯まったもんじゃない。モブまでは気にしなくていいだろうけど、無双武将たちはちゃんと史実通りに導かないと。俺マジ歴戦の勇士殿。リアルクロニクル。ウケる。

(となると、身軽に動けるように一つの軍に留まらねえ方がいいかもな…)

仕官先を決めちまったら敵将助けた時に謀反だなんだって殺されるかもしれねえし。あとオンオフきっちり別けとくか。念じたら自動的に服装が変わって武器も手にしていたが、戦線離脱してからもっかい「戻れ!」って念じたら元に戻った。何この自動変身システム。かっこよすぎでは?今後は変身する時なにか決め台詞使おう。メタモルフォーゼ的な。そういや変身中に付けてたお面…あれなんていう生き物だっけ。カラスみたいな顔してたけど人面っぽいしなぁ…団子美味しい…ほっこりじゃ…

とりあえず昨日が姉川の戦いだったから、史実通りであればもうすぐ織田包囲網とやらが結成されるはず。ということはなんだっけ、長篠…じゃねえや、あれだ、えっと、その前に浅井の城を攻めてたはず。城の名前忘れちまった。

はてさて何だったかなあとお茶を飲みつつ記憶を手繰り寄せていたら、腰かけていた縁台の隣に誰かが座った。

「饅頭を一つ頼む」
「はいよ」
「ブフォ!!!」

TA KA TO RA !?

思わぬ人物の登場にお茶を吹いてしまった汚ねえ。おばちゃんすまん。いやしかし昨日の今日でまた遭遇とはなんというバッドタイミング。昨日お面しててよかったァ〜〜〜これで素顔バレてたら即殺されてたわ危ねえ〜〜〜!!まあ怪訝な顔はされちゃったけど殺されるより断然マシだわ戦国時代狭すぎ。

「…どうかしたのか?」
「ゲホッ、いや、なん、なんでも、ないです、うえっ…」

げほげほと咳払いをしながらなんとか誤魔化す。正体がバレてないとはいえ戦でもないのにキャラと関わるのはあまりよくないかもしれない。昨日ゲットした大金でちょっと豪華な宿屋に泊まろうと思っていたしさっさと団子食って帰ろう。

「……あんた、見ない顔だな。旅の者か?」
「エッ、あ、ああ、まあ…諸国巡りをしておりまして…」

まさか話しかけられるとは思ってなかったので焦る。というかよくよく考えるとなんでこいつ隣座ってんだ?店内満席だっけ。野郎と縁台に並んで座ってお茶するとかなんか変な奴だな。

そうか、とだけ返した高虎はそのまま俺から目を逸らして饅頭を待っていた。顔見ただけで余所者ってわかるってことはここら辺はこいつのテリトリーなの?地元なの?よくわからんけどメモメモ…二度と近付かないでおこう…どんなヘマしていつバレるかわからんからな…いや待てよ、そう考えたら今後はもっとたくさんのキャラと対峙することになる可能性がある。そうなったら易々外も出歩けなくなる。うわあ。やっぱオンオフ切り替え不可避だわ。口調とかも意識してた方がいいかもしれねえな。

「つっ…」
「!」
「くそ…あの烏天狗め…!」

ふと聞こえた痛みを堪える声。そのあと呟いたのは…烏天狗…ああそうだ!あのお面烏天狗のお面だそうだそうだそういえばそんな名前だったわスッキリしたありがとな高虎〜あと昨日の件は本当にすまんかった加減わからずに暴れたおしちゃったもんな今後は気を付ける。たぶん。

「あ、あの…烏天狗って?」
「…昨日の姉川での戦で、烏天狗の面を付けたふざけた男に打ちのめされてな。俺としたことが不覚をとってしまった。次に会った時こそ、容赦はしない」

う、ウワアアアアそれとなく話聞いてみたらめっちゃ恨まれてるゥウウウウ。これ次会ったら確実に集中攻撃受けるやつ。出来たらこいつが敵側として出てくる戦は避けたいけどこのあと浅井の城攻めるもんなあ〜〜〜激突不可避だし俺の行動次第では一生恨まれる可能性あるもんなあ〜〜絶望的すぎる未来しか見えなくて辛い。

「しかし、良いこともあった」
「へ?」
「昨日の功が長政様…大将に認められてな。下級の武士であるにも関わらず、なんと直々にお褒めいただいた。あの人こそ、俺が一生をかけてお仕えする存在だ」

その憧れの存在が、あと数年で居住する城と共に討死してしまうだなんて夢にも思わないだろう。結末はわかってたけど近畿の章ほんとしんどかったもんな。長政は高虎も尊敬しているように本当に素晴らしい人物だと思う。あいつが天下を治めていたらきっと優しい世界が出来上がっていただろう。

だけど、数年後には死ぬ。そう決まっているのだ。そしてそれを守らないと俺が死ぬ。歴史を守るためだなんてきっと建前にしか聞こえないだろう。隠す気もねえけど俺はもちろん保身のために戦うぞ。たとえそれで傷付く人間がいたとしても、だ。

「っと、つい話しすぎてしまったか…急にすまんな。初見の相手だから、話しやすかったのかも知れん」
「いえ…貴方は、お侍さんだったんですね」
「…怖いか?」
「いいえ。だって、世を平和にするために戦っているんでしょう?怖いと言うか、素直にすごいなあと」

でもあまり無理はしないでくださいね、と当たり障りなく返して腰をあげた。団子一本残しちゃったからこいつにあげようとそばに皿を置いておいた。昨日のお詫びってことで何卒。

「……おい」
「!」
「…俺は高虎。藤堂高虎だ。あんたの名は?」

な、名前聞かれた。まあ今は変身もしてないし、別に不利益なことはないか…。

「……なまえといいます」

じゃ、とほとんど無理矢理会話を切った。声とかでバレたりしたら嫌だもんな。さっさと退散するに限る。

歴史を忠実に進めるということは、当然それだけの犠牲も出てくる。成功する人間も喜ぶ人間も、悲しむ人間もいる。ゲームでもそうだった。ifエンドとかで救いがある場合もあるけど、これはあくまで現実なのだ。セーブデータもなければリセット機能もリトライ機能もない。もちろんifストーリーだってない。

(…結構、酷だなあ、これ)

例えば見知ったキャラたちと仲良くなったとして。そいつとずっとずっと仲良くつるんでいることすら許されない場合だってある。だからって歴史を改変させたら俺の身が危ぶむ。自分のためにも、キャラとは極力親しくならねえ方がいいのかもしれないな。気を付けよう。





181126


|