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今日は何の日?そう!今日は高虎との甘味バクバクデー!既視感?気のせい気のせい。というわけで楽しみ半分恐怖半分で今日という日を迎えた俺はいつものように軽く支度をしてこそこそと城を出た。向かうは前回のバクバクデーでの帰り道高虎が次はあそこへ行こうとチェックしていた少し大きな甘味処だ。もうすぐそこへたどり着くのだが、今日は会って早々あいつに謝らなければならない事件が発生した。ぶっちゃけものっそい足が重い。会いたくない。叶うなら帰りたい。セクハラ行動が増えたからとかそういうわけではなくどちらかと言えばもっと深刻な問題だ。

例の甘味処が見えてきた。ちょうど高虎も来たところらしい。向こう側から歩いていて、そして俺を見つけた。ふわりと笑って手を上げたけれど、その顔はすぐに固まることになる。そして一瞬で不機嫌面に。それを見て苦笑いする俺である。デスヨネー…。

「……よう、高虎…」
「…なまえ、これは何の冗談だ?」
「冗談?それはこちらの台詞だ。人目を盗んでこそこそと、まるで鼠だな」
「お前には何も聞いていない。俺たちは今から忙しいんだ邪魔だから帰れ三成」
「残念ながらなまえは今日俺と出掛ける予定があるのだよ。邪魔者は貴様の方だ分かったら帰れ高虎」

…はい、あの…あんだけ必死こいて隠してたバクバクデーがついに三成様にバレちゃったんですよねえ…おかしいなこんなはずでは。あんなに完璧に隠してたのに。三成、お主もすっかり強くなったものよな…もう俺から教えることは何もないぜ免許皆伝だわなので高虎はともかく俺のことは怒らないでくださいお願いしますあとはやく甘味食べたい。

げっそりモードの俺を挟んでバッチバチに睨み合ってる三成と高虎にバレないようこっそりため息を吐いた。本来なら三成にバレた時点で中止にするべきだったのだが、なんと三成本人が行くなら行けばいいだろうって言うから素直に行けばこれですよ。普通についてくるやんこいつ…なるほど直接俺ら二人揃ってお説教ってわけか……いやでも冷静に考えて怒られる要素なくない?まあたしかに隠してたのは悪かったけど三成が勝手にプンスカするのが面d…機嫌直すの大変だから隠してたんだもん。むしろこんだけ気を遣ってたんだから感謝してほしいくらいなんですけど?ちなみにどうしてあんだけのアプローチ()を受けながらも未だにバクバクデーを決行しているのかというとただいま全お会計を高虎くんが支払ってくれてるからですこれだけ見ると俺がどうしようもねえクズ野郎に見えるだろ?違うんだぜあいつ俺が払う前に勝手に払っちまうくせに今後も会わないと今までの分全部払ってもらうからなとかいうジャイアンもビックリな強行手段に出やがったんだぜ信じられねえだろ?まあぶっちゃけタダで甘味食えるしあの無駄アプローチさえ無視すれば普通に過ごせるのでそのまま続けているというわけだ。あれ?やっぱり俺クズでは?いやいやいやそんなことねえもん甘味に罪はないもん…震え声…

そんなこんなでバレちまったもんはもう仕方ねえ!未だ文字に起こすのも躊躇わされるような恐ろしい言葉で威圧し合っている三成と高虎をなんとか説得してさっさと甘味を食したいところである。開き直り大事よ。もしくは二人を放置して俺だけしれっと甘味処に逃げる作戦も有りだな。あとそろそろ周りからの視線が痛い。

「あ、あのさ〜、とりあえず腹減ったから早く店入r」
「ええい埒が明かん。これ以上言っても分からん馬鹿なら俺にも考えがあるぞ」
「奇遇だな、俺もそろそろこの不毛な言い争いには飽き飽きしていたところだ」
「貴様が選んだという店など甚だ不愉快だが、仕方あるまい。ここで勝負するぞ」
「内容は?」
「なまえを満足させた方が勝ちだ。手段は問わぬ」
「乗った」
「待って三成どういうこと」

高虎も簡単に乗ってんじゃねえなになに勝負ってなにもう普通に三人で甘味楽しめばいいじゃんなんでなんでもかんでも勝敗つけたがるんだこれだから戦国男子は!あと確実に俺が勝者決める感じですよねこれ〜やだ〜引きずらないでください助けておねね様〜!!








 

「お待たせいたしました!」
「うーーーーわ…」

抵抗もむなしく引きずり込まれた席は個室のお座敷とかいうえらくVIPな場所だった。恐らく三成と高虎の恩恵のおかげだろうが結構広いのにわざわざ両隣占領してくるのほんとなんなの?子どもかよ。襖で周りから見えねえからよかったもののこれオープン席だったらまた周りからの視線がやばかったとこだし戦国イケメントップ3のうち二人を侍らせてる俺一体全体何者だよって噂されるわ。

来店前よりも倍ぐらいげっそりしていると明るい掛け声と共に運ばれてきた甘味の数々。みたらし団子にどら焼きに饅頭にお餅、なんなら洋菓子まであるじゃねえかカステラあるぞカステラ…マジかよここ絶対めっちゃ高い店じゃん…こんなとこでご馳走になったら後でどんな無茶ぶりをさせられるか…

「すべて俺の奢りだ。好きなだけ食え、なまえ」
「金にものを言わせるとは、狡い男だな」
「何とでも言うがいいお前の分はここにはないから食べたければ自腹で頼め」
「金云々に関してはお前人のこと言えねえだろ高虎…まあいいや。いただきm」
「待て、なまえ」

よりにもよって三成様の奢りということで白目を向きかけたがもう覚悟を決めるしかねえ。何より目の前に美味そうな甘味を出されて無視できるほど人間できてねえからな!!まずはお前だどら焼き!!と手を伸ばした瞬間右隣の高虎に制された。あ?とそちらを睨むと、俺が取ろうとしていたどら焼きを先にかっさらわれる。え。

「お前の手を煩わせるわけにはいかん。口を開けろ」
「…………………ごめん理解に遅れたんだけどもしかしてあーんしようとしてる?嘘でしょ?」
「あーんというのか?なら、あーんしろ」
「いや結構です自分で食うわ」
「三成の前だから照れているのか?いつもやっていることだろう」
「いややった覚えなブゴフォッッッ」
「そうかそうか美味いか、よかったななまえ」

狂気を!狂気を感じます!!真顔であーんという名のどら焼きアタックを食らった俺ですがもちろん超高速でぶつけられたものを食えるはずもなく口回りにおもくそ餡が飛び散ってるので帰ってやろうかなとぶちギレそうなんですが。結構だっつったじゃん馬鹿なの?阿呆なの?俺の声聞こえてる?大丈夫?

「ガハッ!ゲホッ!ぐっ、くそ、高虎…けほっ…お前、マジ、しばく…!」
「む、じっとしろなまえ。口の回りが汚れている」
「棒読みじゃん!誰のせいだと!?」
「俺のせいだななので責任をとって俺が綺麗にしてやる」
「いらんわ触んなおま、むぐっ、んっ、」

顔を鷲掴みにされたかと思うとそのまま手ぬぐいで無駄に優しく餡を拭き取られた。なんなんだよ結局何がしたかったんだよこいつ…あと一連の流れをだまーって見ている三成が怖くて怖くて仕方ないんだけど。ツッコミ待ちなんですけどまだですか三成様。

ようやくすべて拭き取れたらしく、すまなかったなと謝る高虎。だからお前さあむっちゃ棒読みじゃん謝るならせめてもう少し感情込めて謝ってくれる…?と睨み付けると、あ、と声を漏らした高虎の顔が近付いてきた。

「動くな、まだ残っていた」
「は?待って待って待って待って自分で取る!自分で取るから口で言え!近付くなやめろ高と」

ら、と続けようとした瞬間ガァン!!と痛々しい音を立てて机が跳ねた。その衝撃のせいで俺の着物にお冷やがぶっかかり、突然の騒音にさすがの高虎も止まる。一時思考停止したが待てお前コラ確実に今舐めようとしただろほんとやめろ!あーんだけでもダメージでかいのに!!三成の前だぞ!!!

騒音の原因?そんなもん左隣の三成に決まってる。びしょ濡れの着物が気持ち悪いがそれはもう二の次だ。恐る恐る三成の方を見ると、鬼の形相でこちらを睨み付けていた。鬼の形相というか鬼だなこれ。殺るなら高虎オンリーで殺ってくださいどうぞ。

「み、みつ、なり、さま…」
「…すまん。足が長いゆえに机を蹴りあげてしまったようだ」
「なにそれ嫌味?」
「俺のせいで濡らしてしまったか。こちらを向けなまえ。拭いてやる」
「は?なに!?もしかしてこれ拭く拭かないで勝敗つけるの!?」
「そのままでは風邪を引くぞ。いいから黙って言う通りにしろ」
「いいよ自分で拭くわなんなのお前ら俺のこと何歳児扱いしてんだよなめてんじゃねえぞコラァ!」
「黙 れ と 言 っ て い る」
「ヒエッ」

でた〜〜〜有無を言わせぬその瞳(マジ殺意2000%)〜〜さっきの高虎の件も含めて大層ご立腹みたいなのでここはお口チャックで言う通りにしておく方が賢明か…ま、まあ高虎と違って着物拭いてくれるだけだし多少は…

と思っていたがその考えは着物をガバッと脱がされた瞬間に撲殺された。

「…えっなになになにちょっと待ってお前なにしてんの?」
「水がかかった場所を拭いている」
「着物だけでよくない!?なにしてんの怖いわ離せ!」
「何をそんなに怒っている?いつもやっていることではないか」
「してねえよどこまで張り合おうとしてんだよさっきのあれ高虎の嘘だからね!?変なとこ競い合おうとすんなよ正気に戻れ三成!」
「そうだぞ三成。こんな場所で着物を脱がすやつがあるかさっさと離れろ」
「高虎お前はマジで黙ってろ人のこと言えねえだろボケェ!あとちゃっかり背中なぞるのやめて気持ち悪い!!」
「おい何を考えてる触るな離れろこの変態め!」
「わざと濡らして肌に触れようとしたお前に言われる筋合いはない」
「五十歩百歩って言葉知ってる!?」

もしくは目くそ鼻くそって言葉知ってる!?知らない!?今すぐ調べて五万回書いてこい!そんですぐさま離れろ大声出してこの意味わからん事故現場を世間様の目に曝すぞ!!!

前方には前のめりで俺に凭れながら高虎を睨み付ける三成。後方にはいつの間にやら俺の腰に腕を巻きつけていた高虎。な、なにこの地獄絵図…甘味バトルは?甘味バトルじゃなかったの?

「高虎…俺はやはり、お前のことが、嫌いだ…!」
「今日はよく気が合うな三成。俺もお前が嫌いだ」
「俺はお前らどっちも大嫌いだわ!!」

とりあえずまず服着せろコラァ!!!









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