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(………ん、)

ものっそいいい天気だったので縁側でこっそりグゥ…と眠っていたのだが唐突に意識がはっきりしだした。恐らく近くに人がいるのだろう。そして間違いなく俺に近づいてきている。誰だろ、正則清正コンビかな。最近狙ってこねえなと思っていたがついに来たか。残念だったなからすパイセンのチートパワーは今日も冴え渡っておるのじゃよ〜。このまま目を開けてしまってもお面越しだからバレはしないのだが、せっかくだからクイズにすることにした。現れたのはだーれだ!ズバリ、正則!しかし腕を上げたな、ほとんど足音がしない。気配もだいぶ隠しきろうとしているが、相手が悪かったな。今回もお前の敗けだぜ。

そうしてそろりと伸ばされた手を、すんでのところで素早く掴んだ。

「…………あれ?」
「なんだ、狸寝入りだったのか。意地悪だな」

よっしゃ残念だったな正則!!と思って目を開くと、そこにいたのは吉継だった。お前かーい。なんだなんだ、スーパー戯れタイムか?

「…寝込み襲ってんじゃねえぞコラ」
「狸寝入りではなかったのか?」
「気持ちよくガチ寝してたのに誰かさんが来るから起きちゃったんですゥー」
「ほう、つまり俺のせいだと?」
「そう言ってんだよ」

あーあーせっかくポッカポカの中グースカピーしてたってのに。あからさまに不機嫌です〜って声で対応すると、吉継もあからさまに眉を下げしょぼーん状態でそうかと答えた。そ、そんな顔したってなぁ、俺の貴重な睡眠時間(昼寝)を邪魔した罪は重いんだからな!あと何気にお面取ろうとしてただろお前!ったく油断も隙もありゃしねえぜ!

「ま、これに懲りたらもう俺のお面は諦めるんだな」
「…どうしても、見せたくないものなのか?」
「そうじゃなきゃ注意しねえだろ」
「そうか……それは、すまないことをした」
「いーよ。まあ誰だろうと俺のお面奪えるやつなんざいねえからな」
「さぞ嫌悪感を抱いたことだろう。本当にすまない、からす」
「え?いや、別になにもそこまで言ってn」
「人に見せたくないものを無理に見ようとした、それどころか寝ているところを突くなど悪行以外のなにものでもない」
「吉継?なんか急に饒舌になってない?大丈夫?」
「お前は優しいから強く咎めはしないが本当は心底怒っているのだろう?もしくは深く傷ついてるはずだ。俺は、大切な男になんてことを…っ!」
「無駄な演技派ェ…」

なん、だ、こいつ…なにこのコッテコテの演技。なんなの今度はなに企んでんの?初対面の人だとすっごい気ィ遣ってくれるだろうけど俺からしたら真顔案件だぞ吉継。

どうにもこうにも嫌な予感しかしないし誰かヘルプが来てくれる様子もないので適当に切り上げて自室に戻ろうかなあとこっそり思案していたら、投げ出していた手を徐に掴まれる。やべ、捕まった。あれかな、お詫びをさせてくれとか言って城下町にでも連れ出される感じかな。別にマジで気にしてねえけど甘味奢ってくれるんなら喜んでついてくぞ。

どうするつもりだろうと掴まれた手を見つめていたら、その手はやがて吉継の口元の布へ……おい待て待てちょっと待て。

「よ、しつぐ?なに?何のつもりだ」
「誰にだって見られたくないものの一つや二つある。大きさに関わらずな」
「…まさかお詫びに自分の素顔見せるとか言う?」
「この程度でお前の傷が癒えるとは言えないかもしれないが、今の俺に出来る最大限の詫びだ」
「いーよそんなの!気にしてねえから別に!」
「いいや、それでも俺の気が済まない」
「んなもん知らねえよ反省してんなら一人で反省してろそれとこれとは別問題だろうが!」

なるほどそうかそういうことか!自分の素顔見せるからって下手に出たら優しい俺が申し訳ないからとお面を外すとでも思ってるんだろ!そう上手くいくと思うな吉継お前の見せたくないものと俺の見せたくないものは理由も重さも段違いだぞ!同レベルならまだしもお前のやつはガチだろダメだろ!お前がよくても高虎になんて言われるか!

「あれだろ吉継、そう言えば俺もお面取るとか思ってんだろ!そんなことしても見せねえもんは見せねえからお前も無理に見せようとすんな!」
「何を言っている?俺はたしかにお前の素顔を見たくて仕方ないが、そのために自分をさらけ出すわけではないぞ」
「はあ?」
「いずれお前には俺のすべてを見てもらうつもりだった。ただ時期が早まっただけだ。お前の素顔は、お前がいつか俺にも見せられると判断した時に見せてくれればいい」
「いやいやいやいや駄目だって!そんなん!フェアじゃねえだろ!」
「ふぇあ?」
「あー……対等じゃないじゃん!俺が見せれる時に一緒に見せ合えばいいじゃん!」
「ふ、律儀な男だな…しかしそれではいつになるかもわからないだろう?俺はお前にならば構わないと、そう言っているんだ」
「いや、だからって…別に素顔見せ合えたからってそれだけ仲良しだってわけでもねえだろ。無理にそんなことしなくても俺たち親友じゃん」
「……そうか、やはり、見たくなどないか」
「え」
「それもそうだな。川で助けられた時に少し見られてしまったし、その時に内心参っていたとしてもおかしくない」
「ちが、おい!その言い方ズルいぞお前!」

くっ、さすがは大谷吉継…三成よりもはるかに柔らかい口調だから分かりにくいが三成に負けず劣らず頭いいし意地悪だし果てしなく俺の頭と相性悪い。みんな正則並みの頭だったら敵無しだったのに!今のは悪口じゃねえぞ正則いい子!

すべてを諦めたように目を伏せる吉継が憎たらしい。きっとすべてがすべて本心じゃねえってことは分かってるんだが、無駄に演技力発揮してくるし人の優しさにつけこむような言い回ししてくるし油断ならん。だからといってこのまま簡単に素顔を見せられても困る。見たい見たくないの話じゃなくて、そんな簡単な理由でこいつの心の傷に触れていいのかって話だ。口では淡々と話しているが、実際はどうなんだ?本当に心から俺になら見せてもいいと思ってんのか?いつもの戯れ言なんじゃねえのか?

…ああ、ダメだ。こうやって疑心暗鬼に陥ってる時点で吉継の作戦通りな気がしてきた。

「違うのなら、なにも問題はないのではないか?」
「そうじゃなくて、」
「ほら、からす」

す、と目を閉じたまま俺の前に顔を寄せた吉継。好きにしてくれという言葉に眉をひそめた。どうする。このまま無視するかもしくは断ってしまえば「やはり見たくなどないんだな」と容赦なく良心ズタズタにしてくるだろうし、だからといって素直に見たら絶対お面外さざるを得なくなる。吉継は見せなくてもいいっつってるけどやっぱり俺自身がそんなの許せねえ。うーーーーーんどうしよっかなあーーーーーー…!

ふと、部屋の外から人の気配が。


「吉継、からす殿を困らせるな」
「「!」」

ヘルプキターーーーーーー!!!しかもヘルパーランク最強クラスの三成様!!!アリガトウゴザイマス!!開かれた襖の先で眉間にシワを寄せながらこちらをじとりと睨む三成に土下座する勢いだわ。サンキュー三成助かったぜ!!

「なんだ三成、盗み聞きか。いいところだったのに」
「毎度毎度くだらん戯れ言で困らせるなと言っているのだよ。頭の弱いからす殿が本気にしたらどうする」
「ちょっと?」
「俺はそれならそれでよかったのだがな。お前が来なければきっと上手くいっていただろう」
「まったく…からす殿、おねね様が頼みがあると探しておられました。すぐに向かってください」
「あ、はーい…」

おいさらっとスルーしてっけどお前また俺の悪口言ってたからね?頭の弱いって酷くない?間違ってないけど普通それ堂々と本人の前で言う?いやまあ助けてもらったことに変わりはないからあえて俺もスルーしとくけど…こいつだけはほんと…

なんかいずれはすべて見てもらうつもりだとか言ってたけど、うーん、どういうことだ。そういう年頃なのか?すべてをさらけ出したい年頃なのか?もはや戯れ言なのか本心なのかそれすらもわかんねえけど、もっと自分のこと大事にしろよ吉継。ちょっと助けてもらったからって簡単に心許すんじゃねえぞ。

俺はお前が思うほど人間できてるわけじゃねえんだから。





190421


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