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「あっ、おいそれ俺が頼んだやつ!」
「そうだったか?」
「そうだよお前のこっちだろが」
「どちらも同じだろう。子どもみたいなことを言うな」
「同じじゃねーよ俺が頼んだやつあんこ多めって言っ…ああああああ!!」
「美味い」
「当たり前だろぶん殴るぞ!」

俺の叫びも虚しく、裏メニュー(俺考案)であるあんこマシマシ饅頭は呆気なく高虎の口の中へと消えていったのでした…なにそのドヤ顔ほんまこいつ一生恨む。

天下統一前よりものんびりと甘味バクバクデーを満喫できるようになった現在。相も変わらず高虎とこうして密かに会っては甘味や下らん世間話を共に楽しんでいるのだが、ここ最近また地味に頻度を上げられているような気がする。いや、もはや気のせいではないだろう。この男、確実に俺との距離をさらに縮めようとしている。絶対だわ命賭けるわ。これがな、ただ単に親友としての親睦を深めたいとかそういう類いのやつなのであれば俺だって気兼ねなく喜んで応じていたんだけどな?ほれこいつ前に盛大な約束ぶっこんできたじゃん?直接言われたことはなかったしまだ想定でしかないけどこいつそういう意味で俺のこと好きじゃん?なんか自意識過剰キャラみたいになってるけどそこは目を伏せてほしい。

断っておくが、俺は別にこいつのことは嫌いじゃないしむしろ好きな方だ。でもそれはあくまで親友としてってことだし、男同士だから云々というわけではなく気持ちにズレがあるのに軽々しく受け取るわけにもいかんでしょ。だから今後いつ直接告白みたいなことをされてもいいように警戒してはいるのだが、不思議なことにそういったアクションがないのだ。スキンシップが強めなのも無駄に過保護発動してくるのも距離が近いのもいつも通りなのだが、はっきりとした言葉を紡ぐことはない。いや別に期待してるわけでもねえしこれが全部俺の気のせいだったのであればそれに越したことはねえんだけどな。

(まあ気のせいだとしたら俺めちゃくちゃ恥ずかしいやつなんだけど…)
「そうカッカするななまえ。今日はお前に贈り物がある」
「えっマジ?当ててやろうか手ぬぐいだろ」
「よくわかったな」
「は?」

マジかよ俺察しよすぎでは?もしくはこいつのセンスが安着すぎるんですね分かります。

そうして高虎が懐から取り出したるは真っ赤に染まった綺麗な手ぬぐい……あれちょっと待ってなんかそれ、それさあ、あの…ただの色違…いややめようこれ以上深く詮索するのはやめるんだ俺。ただの贈り物だ深い意味などない。

「受け取れ。俺のものと色違いの手ぬぐいだ」
「(こいつ自分から言いおった!!!)お…おう、ありがとな…お前ほど使いこなせるかわかんねえけど…」

思わず頭を抱えそうになったが耐えた。耐えたよ。俺頑張って耐えたよ。そうだよそうなんだよこういうとこなんだよなァ〜こういうことすっから油断できねえんだよなァ〜…色ちの手ぬぐいて…ペアルックみたいな…こいつ…!

「心配するな。数ある手ぬぐいの便利な使用法くらい俺がいつでも教えてやる」
「いや結構だわ普通に首に巻いとくお洒落お洒落」
「遠慮せずともよいものを…まあいい。じっとしてろ」
「えっやだ断る不用意に俺に近付くな怖い離れろ馬鹿野郎」
「なんてこと言うんだお前は」

超絶拒否攻撃を総無視して椅子に座る俺の背後に回った高虎。するすると手慣れたように巻かれていく手ぬぐいにため息を吐く。彼氏かお前は。

やがて高虎と同じように巻かれた手ぬぐい。たしかに首もとが温かくなるので今の季節的にありがたいが手放しに喜べないのが辛い。肌触りめっちゃいいからこれ多分めっちゃ高級なやつなんだろうな…オートクチュールってやつなんだろうな…手ぬぐいは消耗品じゃなかったのかどうしてよりにもよってこんな高価そうなものを…

「どうだ、温かいだろう」
「うん…あとなんだ、すっげえ高虎の匂いする」
「だろうな。昨夜店に引き取りに行ってから今までずっと懐で温めていた」
「ブッッ」

あまりの衝撃告白に食ってた饅頭を噴いてしまった俺です。汚ないなじゃねえぞお前は秀吉かよ!キモチワルッ!と言わなかった俺を褒めてほしいとこだわ。正直冗談かな?と思ったけど多分違うなガチだなこれ末恐ろしい。吉継相手だったらまだ救いがあったのに。あいつミスター戯れ言マンだから。

「だが…嬉しいな」
「うひっ、」

とりあえず茶を飲もうと湯飲みに手を伸ばした瞬間、高虎の長い指がするりと耳の輪郭をなぞった。そのまま伸びてきた両腕が手ぬぐい越しに俺の首に巻き付く。

少しでも顔を傾ければ触れる距離に、高虎の顔が。

「俺の匂いを覚えてくれているのか?」
「……物覚えは良い方なんだよ」

横目で高虎を見つめながら淡々と答える。ここで動揺して見せたら絶対思う壺だ。全然平気です〜動揺なんかしてません〜と脳内で自己暗示していると、ふ、と笑ってゆっくり離れていった高虎。なにわろてんねん。

「なら、これを巻く度俺のことを思い出してくれるともっと嬉しいのだが」
「ははははは」

もうこれ以上つっこんだら確実にこいつのペースに巻き込まれる。適当に話流さねえと。とりあえず周りのお姉さん方もきゃあきゃあヒソヒソしながらこっち見るのやめて!!代われるものなら全力で代わってあげたい!!

ここまでしてくるくせに決定的な一言は一切言ってこないっていうな。そして俺が感付いていることにはきっと気付いてる。それなのに、あえて明言を避ける理由はなんだ?こんだけアホみたいにアピールしてくるんだから自信がないとか勇気がないとかいうありきたりな理由ではないはず。むしろお前その顔面で落とせん女の子なんかいねえだろってくらいの高偏差値だしスペックも高めだし手ぬぐい饅頭馬鹿野郎ってところを差し引いてもモテるはずだ。たとえ相手が男で、そんでもって振り向く可能性の欠片もない俺だとしても高虎ぐらい肝が据わってるやつなら玉砕覚悟でアターック!!してくると思うんだが。俺の買い被りすぎか?それとも何かしら策があるとか?

どちらにせよお前が何も言わねえなら俺も一切つっこまずに無かったことにしたいんだがそれでオーケー?オーケーだな?よしじゃあ私たちこれからも良いお友だちでいましょうね高虎ちゃん!

「はあ、なまえ…お前は本当に可愛いな」

…い…良いお友だちでいましょうね!高虎ちゃん!!






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