小田原征伐


高虎に慰められた(?)あの日から約数ヵ月。ついに我らが豊臣軍は総力を上げて北条を攻めることになった。ということはようやく一時的とはいえ天下泰平が訪れるということだ。いや〜ほんとここまでむちゃくそに長かったな〜とりあえず折り返しってとこかな、うん。ほとんど三成のせいで思い描いていた攻略方法とはかけ離れてしまったが、なんとか神様との約束通り人生を歩めているようでよかったぜ。三成のせいというか俺がおっちょこちょい発動しちゃったのが発端なんですけどね!

実質北条以外の軍勢をほぼ手中に収めている秀吉はあちこちに参戦要請をしては徐々に北条を追い詰めていく。そしていつもと同じで当然のように一日そこらで終わるわけもなく現在進行形で忍城攻めに参加してる俺ことからす殿である。ほんとは秀吉率いる本隊と小田原城攻めに参加したかったんだけどなあ。たしかこっち攻めてる間に小田原城が落ちた気がするからそれまでにそっち方面に行きてえんだが、忍城攻めの大将を任された三成様がその権力をフル活用して無理矢理俺のこと参加させたんだよね。それ職権乱用って言うんやで知ってる?子飼いや吉継、左近がいるのはもちろんのこと、真田兄弟やら上杉やらまでいるってのに俺いる?そりゃまあ俺がいれば楽勝だろうけどさァ〜〜…あ、真田兄弟もくのいちも立派にゲームビジュアルまで成長してたので涙ぐみそうになった俺ですまあ三人はお面してるから全然気付いてなかったけどな。素顔見せたところで覚えてる可能性も低いが。

「水、だいぶ貯まってきたなァ」
「この忍城攻めの要だからな。あと少しで開放するつもりだろう」
「そんで一気に終わらせるって感じか…」

堤防を作り貯めに貯めた溢れんばかりの川の水を吉継と見つめる。リアル水攻めSUGEEEEEEEEEEEEと感動しまくったわ。たしかにこの量の水で攻められてはひとたまりもないだろう。でもこれ失敗すんだよな…堤防壊れちゃうんだっけ?壊されちゃうんだっけ?どっちか忘れたけどとりあえず失敗してむしろこっちが大被害だった記憶がある。ドンマイ三成失敗は成功のもとだぞ。

「…もうすぐ訪れるのだな。秀吉様の目指した、皆が笑って暮らせる世が」
「だな。そのためにももう一頑張りしねえと」
「三成もそうだが、お前も頑張りすぎなほど頑張っている。戦が終わったら、また二人で城下町の探索でもしよう」
「また二人かよ!今度はもっと大勢で行こうぜ」
「俺と二人で過ごすのは嫌なのか?」
「そうじゃなくてさァせっかく平和になるんだから皆で仲良く出歩いた方が楽しいじゃん」

高虎は来ねえだろうけど子飼いとか左近は来てくれるだろうし他にも仲良くなった人間多いだろうからそいつら集めて皆でわぁーっとさ…などと提案してみたんですが頭巾と口元の布の間からものっそい睨んでくるんだけどなんで?なんでそんな不服?そういや騒がしいのより静かな方が好きかこいつは…俺は逆だからなあ…

まあ今は目の前の戦に集中しようぜと話を切り替えたら、今度は吉継の数倍は不機嫌そうな面した我らが総大将様が現れた。こっっっっっわ。駄弁りすぎ?駄弁りすぎてました?

「……からす殿」
「(うわあ名指しされたオワタ)ど、どうかしたか、三成殿」
「先ほど小田原にいる秀吉様から伝令がありました」
「へ」
「…小田原の本隊と合流し、共に小田原城を攻めよと」

き、キターーーーーーチャンス到来!!!!さっすが秀吉分かってるゥ〜そうそうたしかに忍城落とすのも大変だけど俺は小田原城に用があるんだよまあここにいてもミッション達成可能だろうが北条の本拠地である小田原城に行く方が確実だろうナイスだわ秀吉からの命令がなきゃ無理矢理抜け出そうとすら思ってたからな。それに他の誰でもない秀吉の命だ、三成が無視できるはずがない。そのせいでくっそ不機嫌なんだろうがすまんな三成他のみんなと頑張ってくれや。まあ失敗するんだけどな。気にすんな敗戦する前に決着つくからお前はお前なりに頑張れ。グッドラック!

「秀吉様からの命令なのであれば仕方ないな!よし名残惜しいが私はさっそく小田原城に向かうとする!皆と仲良く頑張るんだぞ三成殿!」
「あからさまに上機嫌になりましたねそんなに私の下で動くのは嫌でしたかわかりましたもう結構です今すぐ視界から消えてください」
「拗ねんなよ三成〜。戦終わったら政務でも買い物でもなんでも付き合うからさ、な?」
「…絶対だからな」

吉継に聞こえないようボソボソと約束を取り付ける。まったく機嫌とるのも一苦労だぜ。そんじゃしっかりやれよ〜じゃあな〜HAHAHA〜!!

さてさて目指すは決着の地、小田原城である。



「…抜け駆けはさせないぞ三成。先に出掛ける約束を取り付けたのは俺だからな」
「……この地獄耳め…」















小田原城に着いて数週間経っただろうか。籠城していた北条軍も兵糧を攻められては成す術なく、開城はもはや時間の問題だった。それでも出来ることなら血を流したくなかった秀吉と、圧倒的兵力差を前にしても退くことなく抗い戦う姿勢を見せる北条は最後まで相容れることはなく、結果、ゲームや史実と同じ道筋を辿ることになった。

ついに城が落ちたらしい。どこかからか聞こえる勝鬨をどこか他人事のように聴きながら神経を研ぎ澄ませる。たしかに戦は終わった。けど、俺の目的はまだ達成できていない。

兵士の歓声。風の音。野鳥の鳴き声。すべてに惑わされることなく、目を閉じて、次の一手を。あいつの最後の一手を待つ。と言っても、悲しいかな、

「そこ!」
「っ!?」

小太郎が音もなく飛び出してきたのはなんと俺の影からだった。コンマ数秒前に飛び上がり、出てきたところを膝で迎え撃った。そのまま動きを封じるよう馬乗りになり剣を喉元に突き立てる。ごめんな小太郎。どんな不意打ちも、俺に対して攻撃の意思がある限り自動的に封じてしまえるのがからすの力なのだ。

「……く…ククク…」
「………」
「…あー、楽しかった」

小田原城に着いてすぐに、まず一度襲撃された。その時は簡単に退けられたが、城内に入ると今度は分身がまとめて襲いかかってきた。負けはしなかったが、おかげでせっかく秀吉に呼び出されたのに小太郎の相手で手一杯になってしまった。

そして最後に、捨て身の奇襲。きっとこいつ本人もわかってたんじゃねえのか?この攻撃だって防がれるって。それでもなお俺の命を狙った理由は?

「クク、満足だ。十分楽しめた」
「………」
「我を殺せ、なまえ」
「…それがお前の望みか?」
「氏康が消えた今、天下はもう猿の物。皆が待ち焦がれた、平和で楽しい時代が訪れる…そんなくだらん世を生き永らえる気は毛頭ない。乱を起こしたところで斬って捨てられる。それならば、」
「俺に殺される方が本望、ってか?ハア〜、モテまくるってのも考えもんだな」

大袈裟にため息を吐いて剣を引くと、ニヤニヤと笑っていた顔が途端に真顔になる。

「…どういうつもりだ」
「残念ながら殺してくれって言われてはいじゃあ殺しますって簡単に答えられるほど人間やめてねえんだわ俺」
「どのみち危険分子として捕らえられるのが落ちよ」
「どうかな。天下人秀吉を長年支えてきた俺ならそれを阻止することなんざ容易いぜ」
「……何が言いたい?」
「お前なんだろ、母ちゃんが危篤だっておねね様に伝えてくれたの」

今度は大きく目を見開いた小太郎。俺はなんでも知ってるんだよ。つってもおねね様がこっそり教えてくれたんだけど。

どうして小太郎が母ちゃんを見てくれてたのかまではわかんねえけど、こいつを生かしておく理由にはもってこいだ。

「ありがとな。お前のおかげで、母ちゃんの死を見届けることができた」
「…うぬを動揺させるために我が術で弱らせた、とは思わなかったのか?」
「北条さんがそんなくっそ汚ねェ手を使わねえことも、お前がそんな北条さんの名前に泥塗るようなことしねえってことも知ってる」
「………」
「氏康がガキの頃からの契約、破るわけにはいかねえもんな?オバケさん」

一部の人間しか知らないような情報をぽんぽんと並べていく。さあ、俺の出せる手札はこれくらいで終いだ。決めるのはお前だぜ、小太郎。

「…必要以上にお前を縛るつもりはないし、甲斐姫と早川ちゃんの事が気にかかるのなら二人を見守る方に徹してもらって構わねえ。だから、」


「だから俺と契約しろ、小太郎」









190414


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