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「ごめんね、なまえ」
「だーから謝んないでくださいっておねね様。あいつが食い下がらないわけないじゃないですか」

母ちゃんが亡くなってから一夜明けた本日。三成と話し合った結果、からすはこのまま大坂城に残り、なまえは実家に戻ったことにして高虎を回避しようという結論に至った。母ちゃんの死を利用する、というと聞こえが悪いが、タイミングが良かったことはたしかだ。俺自身今後のためにも隠れ家的な屋敷は欲しかったのでこれからもあの屋敷はそのまま残しておく。二人が寂しがらないように今まで以上に帰らねえとな。

そういうことでまだまだ精神的にすっげえダメージを負っているわけだがからす殿の状態で引きずるわけにもいかないので本日も普通に城の自室で双剣を磨いている俺です。お面があってよかったわ俺今絶対顔面やばいことなってるもん。泣きすぎで。あと身分低くなくて助かった。長年秀吉のためにエンヤコラしてたおかげで自分で言うのもなんだが結構偉いんだよね〜だからある程度自由にしてても怒られないのである。えっへん。なお三成様はだらけすぎると怒ってくるからそこは注意が必要である。とりあえず今日は誰にも会わずにじっとしとこ…と思ったらこれだもんな〜やっぱ動いたか高虎〜!申し訳なさそうに俺を見るおねね様は何も悪くない。むしろ今までに何度も何度も問い詰められたろうにこちらこそごめんねって感じだわおねね様ほんとすんません。

「…高虎がしつこかったわけじゃないんだよ」
「え?」
「ただ…あの子、本気でなまえのこと心配してたからね。なのに三成が意地悪ばっかり言うんだもん。ケンカはダメだよって言ったのに…」
(あ〜〜三成もおったんかそら大喧嘩なりますわ〜…ドンマイおねね様…)
「だから、今夜なまえと会わせてあげるって言っちゃって…」
「その優しさはおねね様の良いとこなんですから、ほんと気にしないでください。あとは俺が何とかするんで」

ブイッ!とピースして見せると、ようやく少しだけ笑顔を浮かべたおねね様。そうそうスマイルスマイル。もとはと言えば俺がややこしい縛りプレイしてっからこんなことになっちまったんだしな。正体明かさないにしても、今後はおねね様に頼らず会えるよう何かしら解決策を探さねえと。夜までまだ時間あるし、それまでに何かいい策の一つや二つ…





(などと思っていた俺が浅はかでした…)

なんかボーって考えてたんだけど気付いたらすっかり夜になっててビビるわ。時間経過の早さに驚くべきなのか俺の鳥頭具合を嘆くべきなのか悩ましいところではあるが、今さら「やっぱ会いたくないですっ☆」なんて言えるわけもない。腹くくるかァ…待ってろ高虎ァ…!

襖の前で静かに深呼吸を一つ。大丈夫だ、何も心配することはねえ。むしろ心配してくれてんのはあいつの方だし、ヤバくなったら体調不良訴えて逃げればいい。よし、行くぞ!

「失礼しまーす…」
「!」
「おっす高虎。元気?」

オラは元気やで!(大嘘)と場を盛り上げるため明るく声を出してみたのだが俺の顔を見た高虎がこれでもかってくらい目を見開いたのでビビる。大丈夫か目ん玉落っこちるぞお前。

「……なまえ、お前…」
「ど、どしたよ…あー、もしかしてそんなひどい顔してる?ほら、今どんだけボロボロか自分じゃわかんなくてさ…あぶっ」
「馬鹿野郎…っ!」

ひっさびさに馬鹿野郎いただきました〜と思ったら、そのまま思いっきり抱きしめられた。ちょっと苦しい。普通逆なのでは?これ俺が泣きながら高虎〜つって抱きつくパターンだったのでは?まあ人前でボロ泣きするには歳を取りすぎてしまったのじゃよ…三成は特例だからツッコミ無しな。

いやあしかしこの状態じゃろくに話もできやしない。とりあえず背中を軽く叩いてみたのだがほぼ無反応だ。なんてこったい。

「ぐっ、あの、た、たかとら、ギブギブ…!」
「どうして、そんな状態になってまで笑ってるんだ…お前は…っ」

ぎゅうぎゅう締め付けてくる高虎の声は震えていて、何故だか俺ではなくこいつの方が泣きそうだった。優しいやつだってのは知ってたがここまで感情移入されると申し訳なくなる。俺は本当に大丈夫なんだけど…いや大丈夫じゃないけど、でもお前が思ってるよりは強いぞ。そんな心配すんな。

俺の心の声が通じたのか、ようやくゆっくり離してくれた高虎。見上げた先には、やはり今にも泣き出しそうな顔があった。

「……誰に聞いたか知らねえけど、心配すんなよ。このご時世よくあることだ」
「………」
「たしかに悲しいし辛いけど、いつまでも泣いてちゃ母ちゃんが浮かばれねえ。つーかケツ叩かれそうだもんなァ、男のくせにいつまで泣いてんだって」

だから俺は母ちゃんの分もしっかり生きていかなきゃな、と笑って言ってやった。これは本心だ。父ちゃんも母ちゃんもメソメソ泣き続けている俺なんか見たくないだろう。二人の分もまだまだ生きていかなきゃいけない。お前もそうだろ?

「…俺には、見せたくないのか」
「は?何が?」
「いつだって大丈夫だ、心配するなとお前は言う」
「………」
「だが俺は、もっとお前に頼ってほしい。強がらないでほしい。こういう時ならなおさらだ」
「…心配かけたくねえんだよ」
「そんなに俺は頼りないか?」
「ちげえよ。進んで友達に心配かけてえなんてやついるか?俺は大丈夫な時にしか大丈夫って言わねえ。弱った時はちゃんと頼るからさ。な?」

なるほどなるほど。頼られたいお年頃なのねぇ高虎ちゃんは。まあ俺がお前に頼らざるを得ないほど弱ることはまずないと思うがな!ということはもちろん伏せておく。

さて、ここにきてやっと話が出来そうなのでまずは今後の合流方法をだな…と思ったが高虎が不意に俺の目元に触れてきたのでストップ。なに、そんな真っ赤になってる?昨日擦りすぎたか。おねね様にも後で見てもらおう。

「…こんなに赤くなるまで泣いたのか」
「んー、まあ、さすがに当日は…結構赤い?腫れは引いたと思うんだけど」
「……三成には、涙を見せるんだな」
「へ」
「なまえ、悪いことは言わん。もうあいつと関わるのはよせ」
「え、え、なに?また喧嘩したのかお前ら」 
「俺は真面目に言ってるんだ」

と、言われましても。お前らまーた性懲りもなくくだらん言い合いしたんじゃねえだろうな。おねね様も若干怒ってたぞ。それにしたって三成と関わんなとかお前その三成と言ってること変わんねえぞあいつも遥か昔におんなじこと言ってたわなお今も普通に関わっとる模様。そういうわけでそんなこと言われたって今さら三成との関わりを避けることなんざ不可能だ。むしろそんなことしたらクッソ説教されるわ絶対。

「あいつは必ずお前を不幸にする」

その言葉、きっと昔なら笑って流せてたろうにな。

「…だとしても、約束しちまったんだ。それを叶えるまではあいつと共にいる」
「約束?」
「そう。内容は秘密だけどな」
「……なら俺とも約束しろ、なまえ」
「!」
「その約束を叶えたら、俺と共に生きろ」

………えっ待ってなにそれプロポーズ?思わず情報処理に手間取る俺の脳ミソ。嘘だろお前マジかよ冗談だよなそうだよなそうだと言ってくれ急展開過ぎでは…と思いたいけどそういや今までも何回か伏線あったよなこれ見よがしに口についてた蜜指でペロォされたり腕舐められたりやたらハグされたりスキンシップ激しめなんだな〜と思ってたけど四国ではチュー未遂あったしこれ…嘘でしょ?ガチ?いつから!?いつからどうしてフラグ立ってたの!?いやいやいや待て落ち着けまだ大丈夫だ直接好きだのなんだの言われてないからまだグレーゾーンだ早とちりはやめろ俺!!高虎にも迷惑だろ!!落ち着け!!

正直ものっそい気になるし問いただしたいところではあるがあまり無駄にほじくり返して逃げ場なくなったら嫌だからあえてスルーしておこう。大丈夫だまだ大丈夫…たぶん…。

「ま、まあ、うん、考えとくわ!うん!約束!ゆびきりげんまん!」
「言ったからな?」
「考えとくわっつったよな?」
「…まあ、今日はいい。またお前が落ち着いたら、改めて伝えてやる」

いえノーサンキューですほんとに。とりあえず、そうだな、えっと…なんかいろんな意味で体調悪くなってきたから今日はもう帰ってくれるぅ…?




そうしてそれから数ヵ月後、ついに天下統一目前の大戦が開始した。






190410


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