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「清正お前…あんなに正則からは目を離すなよと伝えていたのに…」
「違うんだからす聞いてくれ!俺だってちゃんと見ていたんだ!なのに少し厠へ行っていた隙に…!」
「からすゥ〜お前ちゃんと飲んでんのかァ〜!?ほれ、一緒に飲もうぜマジで!ぎゃはははは!」
「何度も言っているが私は飲まないしお前ももう寝なさい正則」

完全に出来上がって上機嫌で俺の肩に手を回してきた正則の頭を軽くはたき、そばにあった空瓶と杯をささっと回収した。前世でもこんな上司いたなあと苦笑いする。お前いつか絶対酒で大失敗するぞ気を付けろよ正則。

島津との戦を無事完全勝利で終わらせた我らが羽柴軍と立花軍は、現在立花山城にて絶賛祝勝会中である。小太郎からなんとか逃げ切れた俺はそのまま岩屋城に向かったんだが着いた頃にはすでに決着がついており秀吉に鬼土下座したのは記憶に新しい。そばでグチグチ言ってる三成を総無視しながらすんませんほんますんませんと謝ったが直次を助けた件でかなり褒められたのでお咎め無しだったもんねえへっへっへ。直次や宗茂からも感謝されたけど気にせんでええんやでからす殿にかかればそんなもんお茶の子さいさいよ。

そんなこんなで勝てたぜイエーイな祝勝会ではあるが、大坂にいる秀長が体調的な意味でちょっとやばいらしくその伝令を受けた高虎は戦後さっさと帰ってしまったし、主役である秀吉も場が落ち着き次第すぐに戻るらしい。俺を含めた他の家臣連中も着いていこうかと伝えたがただでさえ大移動で疲れているんだから今日は休めと言ってくれた。羽柴家マジでホワイト企業過ぎでは?まあ俺は専ら酔っぱらい共と空いた食器の後片付けしてるんだけどね。お酒飲みたいけど酔ってなんかよからぬことしたら怖いからセーブしてます偉いでしょ。まあみんなが寝静まった頃にでも一人こっそり飲もうかな。

「烏天狗さん」
「!」
「すいません、殿がすっかり潰れちまって…」

杯を握ったまま廊下で寝ていた家臣数人をポポイと近くの空き部屋に放り込み(立花さんからは許可もらってます)、さて他は大丈夫かと広間に戻ると左近から応援要請が。そちらへ視線をやると、苦笑いしながら酒を飲む左近と顔を真っ赤にしてかくんかくんと船を漕いでいる三成の姿があった。うっそお前まで潰れたの?珍しいな、普段は酒飲むどころか俺と同じように酔っぱらい処理してるくせに。まあ羽目外すのは悪いことじゃねえからいいんだけど。

「部屋に連れていこうと思ったんですが、あんたがいいって駄々をこねるもんでね。すいませんが、お願いできますか?」
「もちろん。むしろご迷惑をおかけしました。三成殿がここまで飲むのも珍しいですがね」
「九州の酒が気に入ったんですかねえ?ま、後は頼みましたよ、烏天狗さん」
「はいはい」

いつ頃か詳しいことは知らねえけど、ようやくこの二人も正式に主従関係を結んでくれたのでホッとした俺である。何度も言うが三成のことよろしくな、左近。

それにしても、俺がいいってわがまま言ったってことはまだ意識あんのかな?それなら抱き上げるより肩貸す方がいいか、とゆっくり立ち上がらせた。たしかにうっすらではあるが目は開いている。まだ寝るなよ三成部屋つくまで寝るんじゃねえぞ三成。

「……さて、あとは殿次第ですからね」

精々頑張ってくださいよ、と杯に残っていた酒を飲み干した。














「三成殿〜起きてる〜?」
「ん…おき、てる…」
「あと少しだからまだ寝るなよ〜お姫様だっこ嫌だろ〜?」

女中さんから教えてもらい、三成に宛がわれた部屋へ向かう。三成クラスになればそら一人部屋ですよそらもう三成様ですから当然ですよ。まあ俺もだけどな!なので祝勝会が落ち着いたらその部屋で一人晩酌でもしようかなと思う。わくわく。

「おら、着いたぞ。お待たせ」

たどり着いた部屋にはすでに布団が敷かれていた。ありがたや〜と襖を閉めて三成をそこまで誘導する。ほんとに飲みまくったんだなこいつ…何言ってっか全然わかんねえけどなんかむにゃむにゃ言ってる…あれかな、左近とか秀吉に飲まされまくったのかな?もしそうだとしたらお疲れ三成…

布団に近付くとその上に静かに座したのであとは大丈夫だろう。じゃあゆっくり休めよおやすみ三成、と声を掛けたら、また小さな声が聞こえてきた。

「…ん?今もしかして呼んだ?」
「……よ、んだ」
「なに、どした?気持ち悪い?」
「………」
「水持ってきてやろうか?」
「…なまえ、」
「おう」
「……いつ、も…」
「………」
「…かんしゃ、して、いる」
「えっ」

ぼそぼそと囁かれる言葉を聞き逃さないよう耳を近づけると、なんと、いま、三成が、俺に、感謝したぞ!!しかもめっちゃ笑顔!!思わずすっとんきょうな声が出てしまったが仕方ないと思う。嘘でしょ〜こいつ酔っぱらったら佐吉きゅんになっちゃうの〜!?大発見だわ…でもこれ他のやつらの前に放置してたら俺の素性バレてたのでは?あっぶね。連れ出しててよかった。

「お、おう、こちらこそ?」
「…ほんとうだぞ」
「だとしたらすっげえびっくりだけど嬉しいわ。普段から素直にそう言えばいいのによ」
「ふ…それも、そうか…」
「すごいぞお前今めっちゃ笑顔だぞ自覚ある?普段どんだけ笑顔封印してたんだってくらい超笑顔」
「おれだってわらえる」
「いやそうだけどさあ…」
「…なまえ、さむい」
「へ?あー、冷えてんのか?まだ春前だもんな。もう俺も戻るし布団入れよ」
「だ、めだ、さむい」
「いや、だから…うおっ」

真っ赤な顔のままではあるが寒い寒いと言うのでさっさと寝るよう伝えてみたのだが、布団ではなく俺の懐に飛び込んできた三成。ぎゅう、としがみついてきた体はすこぶる暖かいのだが本当に寒いのだろうかこいつ。酔ってるから意識が曖昧なのか?絶対明日頭痛くなるやつやん知らんぞ三成。

一応寒いと言っているので仕方なく背中を擦ってやった。お面越しでも分かるくらいほんのり酒の匂いがする。いいなあ俺も早く九州のお酒飲みたいなあ。早く寝てくんねえかなあ。しかし俺の気持ちとは反して三成は相変わらずむにゃむにゃ言いながら俺の胸にすり寄るだけである。猫みたいでめっちゃ可愛いんだけど明日には忘れてるんだろうな。蒸し返したら怒られそうだから黙っておこう。
 
「……なまえは、あたたかいな」
「お前も普通にぽかぽかだぞ」
「ずっ…と、こうして、いたい」
「むちゃくちゃデレ成発動しててわろた…あっ!?おい三成!?」

いつもの50倍ぐらいデレてくる三成の頭をHAHAHAと撫でていたら、不意に顔がお面に近付いてきた。え、と思ったらものっそい至近距離。そしてカリカリと音を立てている口許、もとい嘴…待ってお前それ嘴噛んでない!?やめなさい三成!お面美味しくない!食べないで!

「ばっか三成それ食いもんじゃねえぞ酔いすぎだお前」
「らべれにゃい、りゃまりゃ」
「は?何語?」
「んっ、はあ、じゃまだ」
「ぶえっ」

引き剥がそうとするも全然俺の膝上から降りようとしない三成は恐らく嘴を咥えてお面を上にずらしたかったらしい。途端に視界が遮られたのでそれだけでも焦るのに、口の両端になにか突っ込まれた。多分三成の親指だ。そのままぐいぐい俺の口を拡げていく三成。なになになに何しようとしてんの死ぬほど怖いんだけど!?

うまく喋れねえしだからといって指噛むわけにもいかねえし…理性がないから余計質が悪い。これが素面での行動なのであれば問答無用で頭バチコーンして引き剥がすのに!どうしてやろうかと真っ暗闇の中解決策を探す。すると、あれだけむにゃむにゃ言っていた三成の声が止んでいたことに気付いた。遠くからぼんやりと聞こえる宴の賑かな音の他に、それよりも鮮明に聞こえる三成の呼吸音。なんだまさか眠っちまったのか?

「み、ちゅなり?」

ダメだやっぱり喋れねえ。無反応ってことはやはり眠ってるのか?けれど晒された口許に生暖かい吐息がかかって、あ、






「からす、大丈夫か?」

襖の外に人の気配がしたので、三成には申し訳ないが無理やり手を弾き慌ててお面を元に戻した。聞こえてきた声は…どうやら吉継のものだ。左近にでも居場所を聞いたのだろうか。

「ああ、大丈夫だ。ここにいる」
「…入るぞ」

部屋に入ってきたのはやはり吉継だった。相変わらず俺の膝の上に乗っかったまんまの三成を見て少し驚いている。しまった、先に布団に入れてから返事するべきだったか。すまん三成多分明日頭痛だけじゃなくて吉継にものっそい弄られると思うわ頑張れ。

「これは驚いたな…酔うと甘え上戸になるのか」
「ああ、そうらしい。私も驚いた。それで、私になにか?」
「秀吉様がお前を探していた。急用らしいのですぐに行ってくれ」
「…わかった。ありがとう、吉継」

そしてお前はマジでさっさと寝ろよと三成を強制的に膝から布団に下ろした。あとは吉継に押し付けとくか。もはや吉継と左近を三成押し付け係として見ている俺である。すまんな。

さ〜〜〜てようやく解放されたぜどこだ秀吉〜と広間に戻った俺に驚愕の事実が。なんともうすでに秀吉は大坂に戻ってしまったらしい。ハア?いや俺さっき吉継に言われて来たんだけどと伝えるも城を出たのはもっと前だと清正に言われたので放心状態。

………なんだ、まさか、また戯れ言シリーズか?





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