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俺は今、とてつもなく焦っている。

発端は関東からの援軍要請だ。秀吉に指名された三成が兵を引き連れていたのを見かけて、そういやどこからの援軍要請なんだと聞けばなんと上田の真田からだというのでそらもう驚いたね。そうかあんなにちっちゃかった真田兄弟やくのいちがすっかり立派な無双武将になったんだなあそうかァ〜…と若干涙目になりかけたぜ。まあ三成たちがもうこんなんだから当たり前っちゃ当たり前なんだけど、待てよ。三成が上田城に参戦ってことはだよ?幸村と合致じゃん?たしか兼続もいたじゃん?つまり?これは?義トリオ結成シーン見れるのでは!?やべえよファンなら死んでも生で見たいシーンじゃん俺も行きたい行きたい〜と三成に駄々をこねてみたところ、いつもならそこまで他所の戦に食い付かない俺を怪しんだのか当然のように問い詰められた。素直に「お前さん一生涯の友達できるんやで」などと言えるわけもなく、昔可愛がってた奴らがいるんだよとある意味嘘ではない理由を述べてみたがそれを聞いた三成が「ついて来るな」とドスの効いた声で即答したのでまたもやチーン…となった俺である。ケチ。

そういうわけで渋々お留守番中だった訳なのだが、問題はここからだ。自室でのんびりお茶を飲んでほっこりしていたら三成ばりにスパーン!!と開けられた襖にお茶を噴きかけた。嘘だろもう帰ってきたの?と思えば犯人はなんと吉継。なになになになんか怒ってんだけどなんなの?まだ四国征伐の件怒ってんの?もう何ヵ月経ったと思ってんだよしつこいぞおい。

「……えーっと…どうしました?吉継殿」
「からす、お前は罪人だ」
「え」
「よって俺が天に代わって裁きにきた。覚悟しろ」
「ええええ」

…こうして冒頭に戻るわけだが、俺は今、とてつもなく焦っている。天に代わってお仕置きよってこと?どこの美少女戦士よ。いや彼女は天ではなく月だったか。いやいや問題はそこじゃねえんだが。

恐らくガチの話ではなくいつもの戯れシリーズだとは思うが今回は新しいパターンだな。罪人て。なにもしてません僕は無実ですゥ。

「吉継殿、一体全体なにがなにやらわからないのですが」
「惚けても無駄だぞ。お前にはしっかりと罰を受けてもらう」
「そう言われましても…」
「しかしそうだな、俺も鬼ではない。見事罪状を当てることが出来れば無罪にしてやろう」
「どちらにせよ無茶ぶりなんですがそれは」
「三秒で答えろ」
「いやだから」
「三、二、一、はい」
「……秀吉様の浮気現場をおねね様に密告した罪」
「はずれだ。そしてその件は秀吉様に報告しておく」
「ちょっと!」
「正解は……八方美人罪」
「はっぽうびじんざい」
「そうだ。自覚がないとは言わせないぞ」

八方美人て…あれですか、前も川辺で話してたあっちこっち助けてばっかりみたいな話ですか。まあそう言われればそういう行動してるかもだけど、俺に関してはみんなにちやほやされたい!モテたい!ではなく死にたくないからしてるだけであって……なんて言えねえもんなァ〜〜〜〜〜う〜〜〜〜ん…しかしそんな怒った顔して、しかも罪だなんて言うほど気に食わなかったのだろうか。それはすまんかったな。でも俺まだ死にたくねえから今後もどいつもこいつも助けるしあっちゃこっちゃにいい顔するぞ。そこだけは譲れん。

「たしかにそういう風に見られても仕方ないかもしれません。ですが以前も申した通り、綺麗事だろうとなんだろうと、この生き方は変えられません」
「…どうしても、変えないつもりか」
「このような面倒な生き方、変えるつもりならばとうに変えていたでしょう。それに、このおかげであなたを助けることも出来たのです」
「そうか……ならば致し方ない。からす、お前に罰を下す」

至って真面目な態度は崩さぬまま、吉継は静かに俺の前に座った。今回は一体どんな無茶苦茶な戯れ罰ゲームを決行されるのやら。半ば諦めモードで何をすればよろしいかと問えば、す、と人差し指を向けられた。

「罰として、俺には取り繕った姿で接しないこと」
「………え?」
「思うに、あの時俺を救おうとしてくれていたお前こそが真の姿だったのだろう。なぜ普段はそれを隠して畏まっているのか、その理由を聞くつもりはない。しかしもうその姿を知ってしまった俺に対してまで隠す必要はないはずだ」

なるほど、つまりあれか。礼儀正しくて腰の低い(当社比)からす殿ではなく“なまえ”として接しろと。そういうことか。

ぶっちゃけ川で助けた時につい素が出てしまったのは不可抗力というかなんというか。あの時マジでやべえやべえってクソ焦ってたからね。多分戦の時より焦ったわ。例えば敵にやられそうになってるところを助けるとか、敵だとしても殺しちゃいけない場合は見逃すとか、強敵相手に苦戦してたら全力で助けるとか、戦中に起きるハプニングに関しては物理物理アンド物理でなんとか出来るんだけど前回みたいに戦でもなんでもなくただ単におっちょこちょい発動して弱っちまった場合はすっごい困る。回復技なんか持ってねえもん俺。さすがにそこまでチートじゃねえもん俺。

そんなわけで吉継の言う通りあの時の俺が素顔だと言われればその通りだし、すでに知られてしまったお前に本性隠す意味はほぼない。しかし、たった一つだけ、どうしてもそれを出来ない理由がある。そう、あの手ぬぐいオバケの存在だ。もしも吉継の望み通り普段から素のまんま対応してみろ。そして高虎の前でも普通にそれをしてみろ。十中八九バレるわ。なまえ=からすって秒でバレるわ。運が良ければ軽く怒られる程度で済むかも知れんが運が悪ければ「なんで隠してた!!」つって殺されるわ。運というか俺への信頼度VSからすへの憎悪度か。どちらが上かわかんねえ内はそんな気軽に本性出せねえ。俺は島津じゃねえからバクチはせんぞ。しかしわざわざ“罰として”なんて脅迫紛いの言葉を使ってまで強要してくるってことは簡単に諦めてくれねえ証拠だ。どうしたもんか……あ、そうだ。

「…わかった」
「!」
「けど、条件付きだ。お前の言う本性を晒すのは二人きりの時だけ。そんで、他の奴等には口外しないこと。これを守ってほしい」
「……なるほどな…二人だけの秘密、という流れか」
「うん、あの、まあそうなんだけど…なんでわざわざ無駄に含み持った言い方すんの?」
「悪くない。その条件、呑もう」
「普通に無視された」

呑もうと答えた瞬間、さっきまでの真剣な怒り顔など無かったかのように目尻を下げて嬉しそうに横揺れしている吉継。子どもかよ。いや別にいいんだけどさあもうこいつの唐突なキャラ変とかお茶目行動とか慣れてきたし。

「からす」
「おう」
「からす」
「なんだよ」
「ふふふ」
「ふふふて」
「また距離が縮まった気がして嬉しいぞ、からす」
「そりゃよかった」
「お前は違うのか?」
「俺も嬉しいよ」
「なら俺の名を呼んでくれ」
「あ?どういう意味」
「いいから」
「えー……吉継?」
「ふふふ」
「…お前の笑いのツボがよくわかんねえ」

だがしかし、まあ、なんとか不機嫌モード(本当に不機嫌だったのかすら怪しいが)からご機嫌モードに切り替えることができたのでよかったよかった。これでもし高虎にチクられでもしたらまた全力逃走しまくるはめになるからな。

三成は今頃上田に着いた頃だろうか。やっぱり義トリオ結成シーン見たかったなあと未だに上機嫌で横揺れしながら俺にかまちょしてくる吉継との稚拙な会話を楽しみながら、ゲーム内で見た三人の名シーンを思い浮かべる俺なのであった。ちくしょう。




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