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「…ということがあってな」
「へーえ…」
「幸い吉継は無事だったが、あの男…やはり許してはおけん」
「なるほどなァ」
「たしかに吉継の不注意ではあるが、本当にあの男が助けたのかどうかすら怪しい」
「うん」
「吉継が自力で危機を脱した可能性だってあるし」
「うんうん」
「本当にあいつが助けたとして、なぜ服を脱がせる必要が…」
「わかるわかる」
「………」
「そうだよなァ」
「お前全然聞いてないな?」
「えっ」

しまったバレちまったぜウッカリ☆でもまあお前も同じように俺のこと無視したから同罪だよなァ?とあくまで笑顔のまま「ソンナコトナイヨーキイテルヨー」と返しておいた。お餅美味しいもぐもぐ。今回の甘味バクバクデーがいつものように楽しい時間になると思うな俺の心の傷は深い。

吉継川ポチャ事件の後、吉継のせいで高虎にいつもの五万倍くらい警戒されながらみんなで港らしきところまで夜通し歩いた。まあその間も三成様からの尋問がヤバかったんですけどね。他の四人に聞こえないようにどういうことだ詳しく説明しろ事と場合によってはお前を殺してしまうかもしれないとまで言われたのでさすがにチビるかと思いましたね。殺さないでください俺なんにも悪いことしてない…そもそも元はと言えば吉継が誤解生むような言い方するから…いや一言一句間違いなくその通りではあるんですけどォ情熱的に〜とかそういう無駄に妖しい関係匂わせるのやめよ?誰得なの?損しかしないよ?主に俺が。しかし半泣きでグズグズ弁明しまくったらなんとか納得してくれた三成。結局もう少し考えて行動しろ馬鹿がって怒られるし高虎に関しては言い訳すらさせてもらえないからもう知らん。秀吉はあんま無茶すんなと言いながらもようやったと褒めてくれたからやっぱり俺は一生羽柴の人間として生きていこうと決意しましたねもちろん。もうそろそろ豊臣になるのかな?知らんけど。吉継?吉継はあれ以降も変わらずかまちょしてくるぞ別にいいんだけど高虎がいてる時は少し控えてほしいカナ〜…

さてと話をリアルタイムに戻すぜ。あれから無事四国にたどり着いた我らが羽柴軍ではあるがそのまますぐに戦というわけではなく、お互い和睦しようぜ〜と歩み寄っているらしい。まあ多分決裂するだろうけどな。俺知ってんだかんな。だがしかし現状まだ平和的解決をしようとしていることに変わりはないので俺達家臣は稽古したり町を渡り歩いてみたりと比較的自由に行動している。そんな中高虎がおねね様に俺に会わせろと懇願したらしく現在進行形で甘味バクバクデーin土佐を決行中なのである。前までならおねね様も軽く流してくれるかもしくはなまえは城で留守番しているとか適当にかわしてくれていただろうに、こないだの精神ボロッボロ高虎を見て以来少しだけ寛容的になっているのかもしれない。別にいいんだけどな。いいんだけど、うん、まあ、そうだな、今日は三成ばりにツンツン対応で行くからよろしくな!!

「…気のせいだろうかと思っていたが、そうじゃないみたいだな」
「何がだよ」
「今日は会った時から少し不機嫌なように感じた」
「へえ…まああながち間違ってねえかもな」
「唐突に呼び出したから怒っているのか?」
「さあねぇ」
「俺の関係のないところで嫌なことがあったのか?」
「どうだろなあ」
「……俺のせいか?話、つまらなかったか?好きな甘味がなかったのか?」

ひたっすらツンツンしてるにも関わらず匙を投げるどころかどうすればいいんだ教えてくれなあなまえ聞いてるのかと困ったように問いかけてくる高虎は本当に本当に本当に友達思いの良いやつなんだよなあと痛感する。同時に少し申し訳なくなってきたな。大っ嫌いなからす殿がまさか俺と同一人物だなんて思わないもんな。そして俺もここまできたらもう今さら打ち明けられるわけもねえしな…これじゃさすがに高虎が可哀想か…

仕方ねえなあとため息を吐くとそれにすら傷付いたらしく「すまん」という弱々しい声が聞こえた。なんかこちらこそすまんな。しかしただで終わらせる俺ではないぞ。少しばかり意識してもらわねえと。

「…悪かったよ。お前の言う通りちょっと不機嫌だった」
「!」
「なんつーか…よくお前の話に出てくる、吉継?だっけ?そいつのことすっげえ大事なのは話聞いてるだけでも分かるんだけどよ、それが強すぎると言うか過保護すぎると言うか…」
「………」
「いろいろあったんだろうけど、そこまでからす殿に対して強く当たることもねえんじゃねえのかと思って。俺もあの人とはよく話すからさ、そんな人のこと悪く言われまくるのは楽しくねえし。お前だって親しい吉継のこと悪く言われたら嫌だろ?それと一緒」
「…なまえ、お前…」
「仲良しなのはいいことだし咎めねえけど、何事もやり過ぎはよくねえと思うz」
「まさか吉継に嫉妬してたのか?」

……なん…なんなんやこいつ…なんでこの会話の流れでそうなるんだ頭かち割らせろ中身見せろコラどういう思考回路になりゃ俺が吉継に嫉妬してるとかいう意味わからん流れになるんだ思わず真顔で口が開きっぱなし状態になった俺である。その間もさっきまでのしょんぼり顔はどこへやらでなんか期待してるような表情を浮かべてるんだけど高虎ってもしかしてアホ、なの…かな…そうかアホなんだな…そうか…いやいくらアホでもその勘違いは無い。

「なんだそうか、だからそんなに不機嫌に」
「ちっげーーーーーーーわ何がどうなってそうなったの教えてくれる?俺にも分かるように懇切丁寧に教えてくれる?」
「そうやってムキになっているのが何よりの証拠なんじゃないのか?」
「ムキになってねーよお前のアホさ加減に全力で呆れてんだよ!」
「別に照れることでもないだろう」
「照れてねえわおま、お前…お前ほんとなんなの…!?」

ヤバイなこれ完全に俺が吉継に嫉妬してるルートで押し切ろうとしてるなこれ信じらんねえ。何その無駄なポジティブシンキング。ほんとについさっきまで叱られた子犬みたいにショボーンしてた高虎と同一人物?ほんとに?よっしゃ勝ち確キタみたいな感じでめちゃくちゃドヤ顔かましてるんだけど…うわあすっごくぶん殴りたぁい…

しかしここでぶん殴ってみろ。余計つけあがるに決まってる。ほら見ろやっぱりなとか言うに決まってる。となると俺の次の行動は一つだ。冷静な大人の対応。落ち着け俺心乱すな俺平然を装え俺さっさと乗り切ってそのまま帰るぞ俺。

「…いや、まあ、そうだな」
「なんだ、認めるのか?」
「少し寂しかったのかもしれない。最近会えてなかったしな」
「………」
「でも安心した。前にお前が泣いた時はどうしようかと思ったけど、ちゃんと吉継っつー俺よりも心許せる友達がいるんだなって。大事にしろよ?」

よっしゃどうだこれで満足か高虎ァ…と死ぬほど頑張って大人の余裕スマイル()を披露する。ドヤ顔から一転なぜか真顔になったのが疑問だがこれでこれ以上つけあがることはないだろう。残りの餅もさっさと食べてさっさと帰るとするか。

「…たしかに吉継は大事な友だ」

ぽつりと呟いた高虎。ああ、だからわかってるってと軽く答えながら最後の餅に手を伸ばしたら、同じタイミングで高虎が席を立って俺の真横の席を陣取った。

「あ?なに?」
「友という枠で答えるなら、吉継以上の友はいない」

ずい、と高虎が近付く。は?と困惑したまま距離を置くがここは店内の一番隅の席で、俺の座席は壁と一体になっている箇所だった。ただでさえ狭いのに逃げ場がない。なになに、今度はそっちがおこなの?俺何か癇に障るようなこと言った?うっそだあ。

なぜだか先ほどとうってかわって立場が逆転してしまった。ど、どうしよう…都合よく吉継召喚できたらいいんだがからすモードならまだしも素顔なら絶対無理だろうしな…たっけて吉えもん…と、その時だった。視線だけでも逃げてやれいとあらぬ方向を見つめていたら、それを責めるかのように両頬に大きな手が添えられたのだ。ぎょっとして高虎の方へ視線を戻すと、涼しげな青い瞳のはずなのにどこか熱っぽく見える目とかち合った。

「だが、俺は吉継相手にこんなことはしない」

囁くような声は、至近距離であるがゆえにとても鮮明に聞こえた。そのまま目を閉じようとしたので、

「ったりめえだろボケェ!!!」
「ブッ!」
「お前あいつにそんなことしてみろ絶対三成に殺されるぞ知らんぞっていうか俺相手にもするんじゃねえよどけコラァ!!」

掴んでいた餅をおもくそ口ん中に突っ込んでやった俺は悪くないと思います〜そしてそのまま高虎を押し退けて席を離れる。なんなんだこいつ俺のこと好きなの?嘘でしょ?そんなに欲求不満なの?遊郭行けや!

「げほっ、お、まえ…照れ隠しにも、ほどがあるぞ、馬鹿野郎…っ!」
「馬鹿野郎に馬鹿野郎言われる筋合いねえわ馬鹿野郎!」

けほけほと噎せている高虎を置き去りにしてさっさと甘味処をあとにした。あ、店主さんお金はあの欲求不満手拭い馬鹿野郎が全額支払うんで安心してくださいね!それでは僕はこの辺で失礼しまーす!

とりあえずおねね様にしばらく高虎はブラックリスト入りだと伝えておかねば。





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