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長久手での戦いでは辛うじて忠勝を退けた俺ではあった(マジでからすパイセン最強過ぎてもうこのまま天下統一してやろうかなと思いかけた)が、その後結局家康を討ち取ることは叶わぬまま数ヶ月戦いに明け暮れ、冬頃にようやく和睦という流れにまで辿り着けたのであった。なんというか天下人たる秀吉と家康の考え方とか大人の事情まではわかんねえけど、あの、遅くね…?と思ったがお利口さんなのでお口チャックした俺です。三成はマジで納得いってなかったけどな。あいつ絶対後々弊害になるって俺に愚痴りまくってたもんな。君のような勘のいいガキは以下略。

さて、次のお相手は徳川との戦中ずっと背後狙ってきてた元親がいる四国とのこと。ということは小少将とも再会じゃんキタコレ楽しみ〜!綺麗なお姉さんだあいすき!たしか船乗るんだっけ?こっち転生してからは初乗船だな。昔の船とかそれこそゲームで見たいかだの強化版みたいなのしか知らないからそれも楽しみだ。海綺麗なんだろうな。あとは四国のご飯とかも食べてえな。なんか観光しに行くみたいな感じになってて笑う。いかんいかん。気を引き締めねば。次の戦もガンバルゾー。

そんなこんなで年が明けて春。小雨が降る暗い夜の中みんなで船まで大移動してた時にトンデモハプニングが起こった。大きな川を渡るにあたって、吊り橋が落ちないよう少人数ずつで渡っていた時。

「えっ」

誰が漏らした声かは分からない。目の前で起きた状況を簡単に説明すると、俺と同じタイミングで吊り橋を渡っていた吉継が橋から滑り落ちたのである。

「吉継!」

今のは多分先に渡りきっていた高虎の声だと思う。その言葉が聞こえた前後くらいに俺も同じように川に飛び込んだ。滑ったんじゃねえぞ勘違いすんな吉継助けるためだからな!

小雨になる前はかなりの豪雨だったために流れが激しく増水している。しかも時間のせいで視界はクッソ最悪。おまけに冬を越えたとはいえ夜の川だ、死ぬほど冷たい。けど四の五の言ってる場合じゃねえ早く見つけねえと!からすパイセン頼む〜!

(いた!吉継!)

お面の力だろうか、多分通常より早く泳げてるし息を止められる時間も長い。暗くて見辛いとは言え素早く飛び込んだおかげですぐに白い影に追い付いた。そのまま抱きかかえて水面から顔を出す。やべえだいぶ流されてる!どこだここ!

「ぶはっ…吉継!しっかりしろ!大丈夫か!?」
「げほっ、はっ…ぅ…!」
「くっそ、どっかよじ登って…あ」

声をかけながらこれ以上流されないよう近くの岩にしがみついた。どこかに這い上がれる川岸はないかと辺りを見渡す。めちゃくちゃ寒い。早く川から出て暖をとらねえとマジでやばい。冗談抜きで凍え死ぬ。

慎重に岩を伝いながら移動すると、数メートル先に低い岸が見えた。あそこなら大丈夫そうだ。

「吉継、俺の体に捕まれるか!?」

なんとか泳いで渡ろうと思ったが吉継からの返答がない。うわあああああやめてやめてやめて衰弱しきってるやだあああああああここでお前に死なれたら三成の約束守れないどころか高虎に殺されるあかんあかんあかん!仕方ねえからそのまま泳ぐことにした。片腕塞がってっから多少流されはするが、そこは、からすパイセンの、チートパワーで、なん、とか、うおおおおおお…!

心の中で雄叫びを上げながら泳ぐこと1分強。なんとか川岸にたどり着いたので吉継を岸に降ろして俺も速攻這い上がった。やばいやばいやばいほんとやばい寒すぎる。止まってたら不味いと再び吉継を抱き上げてとりあえず休める場所を探した。どっか雨しのげる場所があればそこで双剣使って火を起こして暖を取れるはず。なければごり押しで無理やり洞穴作るもよし。でも多分雨で地盤ゆるゆるだろうからあんまり攻撃しすぎると土砂崩れとかしそう。頭ではいろいろ冷静に考えてるが体はガタガタに震えているしぶっちゃけ脳内も混乱してるっちゃしてる。ととととりあえず優先順位確認!吉継の安否!

「吉継!おい吉継!声聞こえるか!?」
「はあ…はあ…んっ…」
「ひえええ寒いよな、そらそうだわな…待ってろすぐ休ませてやっから!寝るなよ!寝たら多分死ぬやつだからそれ!多分!雪山で遭難した時も寝ちゃったら死んじゃうパターン多いから!」

もはや自分でも何言ってかわかんねえ!なまえはこんらんしている!でも声はかけ続けとかねえと不味いはず。走りながら周囲を確認するが都合よく洞穴が見つかるはずもなく、しかし諦めたらそこで試合終了である!もうなんでもいいからあそこにある硬そうな岩削って洞穴作ろう!吉継ちょっと待っててくれな!

近くの岩に吉継を凭れさせて岩壁のような場所をおもくそぶった斬った。手足も寒さでがくがくに震えているため力が入りにくいがなんとか人3人くらいは入れるような空洞を切り開くことが出来たのでホッとする。やべえな俺某海賊の某剣士とも対等に渡り合えるのでは…?いや嘘です調子乗りましたすみません。違う!そんな現実逃避してる場合じゃねえ!直ぐ様吉継と共に穴に避難。よし次!火!起こすのは簡単だが火種が…火種どうしよう…官兵衛…いや官兵衛は関係ないか。特殊技で属性付けてブンブンしたら火は起こせるが火種がねえと確保できない。ひたすらブンブンしてるわけにもいかねえだろうし〜んん〜なんか燃やせるもん…服…濡れてるけど絞れば多少は燃えるか…?いやでも臭そうだしな…待てよ普通に考えて洞窟(というか洞穴)で焚き火したら不味くね?一酸化炭素中毒で死ぬやつでは?え、じゃあもう実質無理ゲー…?

どう、しよう。雨風しのげたしお面の恩恵があるからさすがに俺はもう元気だけど、よ、吉継…めっちゃ震えとる…多分起きてはいるが意識は朧気だろう。ぼんやりとしか見えないが自分の体を抱きしめるように腕を回して縮こまっている。

(…あ、)

待てよ、一つだけ妙案が…いやでもこれ絶対嫌がられるだろうしな…いやいやでももうそんなことも言ってられねえか…

はあああ…と決意を込めた深ぁいため息を一つ。そのまま袴以外の着物をすべて脱いで水を含みまくったそれを一枚ずつ全力で絞る。ぼたぼた落ちていく水滴が少なくなるまで絞ったあと、軽く振るって吉継のそばに腰を下ろした。

「あー、吉継…先に謝っとくわ。あの、うん、ほんと、ごめんな」
「は……か、らす…どの…?」
「嫌ってくれて構わねえから、じっとしててくれ」
「っ!?」

一番分厚い上着で膝から下を覆ってやる。なにか一枚でも多く被せて外気から防いでやればそのうち自然と体温で温まってくるはずだ。濡れてて気持ち悪いだろうけど我慢してくれ。下半身はこれでオッケー。で、次。頭巾が川で流されてしまったためさらけ出された状態の黒髪を軽く絞る。川の水や砂で汚れてしまってはいるが初めて触るそれはとても柔らかく、抜けてしまわないよう細心の注意を払った。トリートメントしてねえのにこの滑らかさはズルい。

勝負はここからだ。もう一度だけごめんなと呟いて、白い上着に手を掛けた。やはりというか当然というか、ぎょっとして抵抗してきた吉継。たしか病気かなんかで素肌見せたくないんだっけ。あんま覚えてねえけど人目に晒したくないのは確かだったはず。でももう四の五の言ってられねえんだほんとすまん吉継。せっかく仲良くしてくれてたのにな。

「ぁ、い、やだ、からす殿、なにを」
「素肌同士で抱き合ったら温かくなるらしいんだわ。他に手段ねえし、絶対体見ないって誓う。だから我慢してくれ、吉継」

ぶっちゃけ暗いからそんな見えねえしな。しかしそれでも渋る吉継。そらそうだよなーーーーーでもなーーーーうーーーーーん心の傷でもあるだろうし無理強いはしたくないんだけども死なせたら元も子もねえしなーーーーー…説得するしかねえか…

「あのな吉継、事態は一刻を争うんだ。このままじゃ衰弱しきって凍死しちまう。そんなことになったら俺は三成や高虎に合わせる顔がねえ」
「……からす、殿に、」
「へ?」
「この、醜い体を見て…嫌わ、れたく、ない…」
「……お前、」
「抱き合うなど、もし、移りでも、し、たらと、思うと」
「アホかお前!」
「!」
「そうやって今まで離れてった奴らと一緒にすんなそれぐらいで嫌うようならこちとらハナからお前の鬱陶しくて粘着質な悪ふざけに付き合ってねえんだよ馬鹿!」

はあ〜〜〜なんだよ嫌がるってそういうくだらん意味で嫌がってたのかよふざけんなよあと俺は丈夫なので病気とか移らねえからそこもいらん心配だぞ吉継!

つい怒鳴り口調で叫んでしまったせいか吉継はポカンとしていた。しめた、手が緩んでる!チャンス!

「分かったらもう諦めろ。この件のせいで嫌われたって俺は後悔も反省もしねえからな。むしろこれでお前のこと死なせでもしたらそれこそ一生後悔するわ」

けれど少しでも安心できるよう脱がせるのは出来るだけ丁寧に脱がせるよう心掛けた。吉継もさすがに諦めてくれたのか無抵抗で俺の様子を見ている。さらけ出された肌はやはり白く俺よりもか細い。あまり見つめては嫌がるだろうから視線を逸らし、口元の布は…もうここはいいか。上脱がせただけでも大ダメージだろうし。ごめんな吉継。

「…からす殿は…?」
「え」
「三成と、高虎のためだと、言ったから」
「…え、や、だってあいつらお前のこと大好きだし…?」
「……からす殿は、違うのか…?」
「今そこ気にする!?ここまでして助けようとしてんだから察せよ!」

いやまあ嫌いなやつだろうと史実改編に繋がるようであれば助けてただろうがお前のことはちゃんと友達だって認識してるから無駄な心配すんなっつーの。

とにもかくにもようやく準備オーケーである。最後にもう一度だけごめんと告げてそっと体を抱きしめた。相変わらず微かに震えてはいるが体温は戻りつつあるし雨風も無いからこれ以上冷えることは無いだろう。相乗効果を期待して互いの体を隠すよう上から残りの着物を被せた。あとは体力勝負だな。俺よりか弱いとは言え吉継だって立派な成人男子で無双武将なのだ。しばらくすれば体力も回復してくるはず。

恐らく高虎を筆頭にみんな血眼になって探してくれてるはずだからそれまではここで待機しておくか。夜が明けても迎えがなければこちらから動けばいい。それまでにはお互い復活してるだろうしな。

「…大丈夫か?気持ち悪くねえか?」
「……あた、たかい…」
「そっか、よかった。悪いけどしばらく我慢しててくれな」
「………からす、殿」
「ん?どうした?」

いつもよりも掠れた小さな声。返事を待っていると、静かに震える腕を俺の背中に回してきた吉継。よかった。抱き返すくらいの力は戻ってきたらしい。

「…心配すんなよ。もう大丈夫だからな」

はあー、しかし一時はマジでどうなることかと…焦りすぎてめちゃくちゃ普段モードで喋ってたんだけど大丈夫かなこれ。おもくそ呼び捨てだったしなんなら変声すんのも忘れてたんだけど…ま、まあ意識ハッキリしてないだろうしぼんやり誤魔化せば平気か。

徐々に弱くなりつつある小雨の音を聞きながら、改めてからすパイセンのチートパワーに大感謝した俺なのであった。




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