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「どうよ清正、見れたか!?」
「いや、また駄目だった。相変わらず隙だらけに見せてるくせに面に触れることさえできない…悔しいが、さすがはからす殿といったところか」
「やっぱ駄目かァ〜…俺らだいぶ強くなったと思うのによぉ」
「それはからす殿も同じだからな。だからこそ逆に燃えるってもんだ」
「だよなァー!本気で怒らねえってことは頑張れば見せてもらえるってことだし、絶対やってやろうz「何やら面白い話をしているな二人とも」ぎゃああああああ!!!」
「はあ…吉継、毎度毎度わざと脅かすのは止めてやれ」
「ふっ、正則の反応が面白くてついな」
「それにしたって意地悪しすぎじゃないですか吉継さん」
「そそそそそうだぞ吉継コラァ!って、左近までどうしたんだよ」
「いやね、俺も例に漏れずあの人のことは気になってたんで」
「やはりお前たちですらからす殿の素顔を見たことがないのだな」
「ずっと挑んではいるんだが、てんで敵わなくてな…」
「そーそー。俺たち二人で不意打ちしたって全っ然勝てねえんだよマジで。からす殿ヤバすぎじゃね?隠れてっから見えねえけど後頭部にも目が付いてんだぜ絶対!」
「ほう、それはぜひとも拝んでみたいものだな」
「あながち間違っちゃいないかもね。戦中だってまるですべて見透かしてるかのように手際よく動き回ってる。謎だらけではあるが敵に回したくないことは確かだ」
「三成みたく面に乱髪を付けてるから地毛すら分からないしな…食事中も吉継のせいでいつも以上に警戒しているし」
「それは聞き捨てならないな清正。俺は純粋にしっかり食事をしているのか観察しているだけだ」
「そーいうとこだろうがよ!しかも食事中だけじゃねえだろ普段から無駄にからす殿にちょっかいかけてっし!あんましつけーと嫌われんぞ吉継!」
「吉継さんが隙あらば絡んでるせいでどっかの誰かさんが常に不機嫌ですしねえ」
「揃いも揃ってどうした、そんなに羨ましければお前たちも気を引けばいいだろう」
「限度ってもんがあるんだよ馬鹿」
「ま、いつかは烏天狗さん自ら素顔を見せてくれると嬉しいんですがね」
「それもそうだけどよ〜、俺としてはやっぱからす殿に実力認めてほしいから頑張ってお面奪い取りてえんだよなァ〜…」
「…そういえばこんな噂を聞いたことがある」
「え」
「からす殿のお面を無理矢理奪い、素顔を見た者は」
「み…見た者は…?」
「毎晩視界が真っ黒になるほどの大量のからすにうなされる夢を見るらしい」
「マジでェ!?」
「おい吉継…」
「そのからす達はカァカァ、カァカァとお前の耳元で延々鳴き続けるのだ…」
「吉継さん、いくらなんでもそれは…」
「カァ!」
「ぎゃああああああ!!!」
「……正則…」






「時に高虎、貴様あれほどなまえに城に来るなと言われたにも関わらず賤ヶ岳の戦のあとに密会していたらしいな」
「…なまえに咎められるならまだしも、部外者であるお前にとやかく言われる筋合いはない」
「部外者ではないのだよ」
「ではなんだと言うのだ。なまえの保護者でもあるまいし」
「当たり前だ、保護者よりも近しい関係なのでな」
「だからといって会うことすら非難される謂れはないぞ」
「ほう?ただ会っていただけだと、そう言いたいのか?」
「さてな。そのつもりはなかったが、一晩同室で共に過ごしたのだ。何をしていたかなど聞く方が無粋というものだと思うが?」
「ふん、挑発しているつもりか?どうせ何かしようとしたところで何も出来なかっただろう」
「なぜそう言い切れる」
「おねね様に遮られたはずだ」
「………」
「…どうやら図星だったようだな」
「簡単にその答えに行き着くということはすでに経験済みだということになるが、その点に関して何か言うことはあるか?」
「………」
「…寝込みを襲おうとするなど最低だな」
「黙れ貴様自分のことを棚に上げてよくもまあいけしゃあしゃあと」
「俺は襲おうとなどしていない成り行きでそうなりそうだっただけだ」
「言い方を変えようとおねね様に邪魔をされたということは結局襲おうとしたことに変わりはないむしろお人好しなあいつにつけこみそのまま事を運ぼうとするなど悪質すぎる今後は二度と城に近付くなそしてなまえにも近付くな」
「何度でも言うがなまえと会おうがなまえと何をしようがお前には一切関係のないことだしそれを咎められる理由も制止される理由もまったくもってないし万が一理由があろうとそれを聞くつもりはない」
「理由ならあるぞ。俺が非常に不快になる。以上だ」
「……いつもこんな子どもの相手をしているとはなまえも大変だろうな」
「知らないようなので親切心で教えてやる。あいつはいつも喜んで他の誰より一番俺の相手をしているぞ」
「あまりに甘えすぎて愛想を尽かされてしまう日が楽しみだな」
「心配不要だなまえの俺に対する愛想が尽きることなどない」
「ふん…たまにお前のそのお花畑な思考回路が羨ましくなるな」









(う〜〜〜〜ん…)

片やワイワイ楽しそうな正則、清正、吉継、左近チーム。片やバッチバチ険悪ムード丸出しの三成、高虎チーム。戦支度で着陣に遅れてしまった俺はどちらに顔出そうかなあと首をかしげたがどっちもなんだかな〜って感じ。前者は多分俺のこと話してるだろうし(さっき清正に不意打ちされたからな)、後者は恐らくまた三成が高虎にいらんこと言って勝手に険悪ムードになってるだろうし…つーかどっちも戦前にやることじゃねえだろ緊迫感がログアウトしてるゥ…

だがしかしまだ戦始まるまで時間あるみたいだしどっかに交じってテンション上げとくか。となると答えは一択である。正則〜からす殿もそっちのグループ入れて〜!

「よう、からす」
「!」

パタタと駆け寄ろうとしたら横から利家が声をかけてきた。どうもどうも。あれ待てよ、ちゃんと話すの初めてでは?

「…ずっと言いたかったんだけどよ、なかなか時間が合わなくて言えなかった」
「…私になにか?」
「ああ。賤ヶ岳では、その…世話ンなったなって。ありがとな」

賤ヶ岳。そういや俺と三成が利家を止めたんだっけ。話し合いならまだしもおもくそ武力行使で止めたんだからお礼なんかいらねえのに。ほんと律儀だなこいつ。

「…お前、最初っから俺のこと討ち取る気なんてなかったろ?」
「……秀吉様の命でもありましたし、あなた自身迷っておられるようだったので」

あくまで秀吉が命令したんやで〜ということを強調しておく。まあ恩義に感じてくれたなら何よりだ。それを今後秀吉のために使ってしっかりサポートしてやってくれ。

今こうして同じ陣で話を出来るような関係になってよかったですと続ける。俺もだと悪意なんてさらさらないような真っ直ぐで眩しい笑顔と言葉が返ってきた。うおおワンコスマイル。

「お互いこれからも秀吉様をお支えしていきましょう、利家殿」
「おう!」

というわけで、今回の戦も平常運転で頑張るぞ〜!え、三成が別働隊に組み込まれて拗ねてるって?もう子どもじゃないんだからわがまま言うんじゃありません!ちゃんと助けに行ってやっからとりあえず頑張れ!

…そうのんきに構えていた時期が俺にもありました。




190220


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