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『なぜ貴様がここにいる!?ふざけやがって、俺を嘲笑いに来たのか!?上等だ貴様もここで死ぬがいい!あの世で長政様とお市様に詫b』
『そおい!!』
『がふっ…!』

よしよしちゃんとゲーム通り進んでるなと確認できたので俺もさっさとお暇するかと思ったら高虎に隠れて覗いてたのがバレてしまいしかもそのまま殺されそうになったのでよくドラマとかアニメとかで見る首の後ろトンってやって気絶させるやつ(名称知らない)をぶっつけ本番で実行してみたところ無事成功したのでよかったです。現実だとこうはいかないみたいだがぶっちゃけ現実とはいえゲーム世界がモチーフだし最強武将からす殿なのでなんとなくで成功したぞ。いろいろ積み重なって興奮状態なのは分かるがだからって殺される筋合いはねえからな。無理だろうけど直前の記憶も無かったことにしていただけると嬉しいんですけどどうですかねえ無理ですかねえ神様ァ〜。

その後馬鹿力フル活用しながら出口目指してようやく出れたと思えば吉継がいたのでそのまま高虎を渡しておいた。ナイスタイミング。これであとは大丈夫だろうとフラッフラになりながら城に帰りましたとさ…あ、慶次はやっぱり強すぎて倒せなかったんだけど戦終わるまでは時間稼ぎできたからよかった。その後普通に「またやろうぜ」つってがっつりロックオンされて白目向いたけどな。二度と御免蒙るわ。

そうして色々盛り沢山だった賤ヶ岳の戦いがようやく終結し、戦後処理で慌ただしかった山崎城が落ち着いてきてしばらくした頃。




「……嘘でしょおねね様」
「それが本当なんだよ〜!」

ごめんねえなまえ〜と困ったように顔の前で手を合わせるおねね様から告げられた衝撃発言に頭を抱えた。嘘でしょ…嘘だと言ってくれ…けどおねね様がわざわざ人気の無い場所に連れてきて教えてくれたってことは本当のことなんだろう。なんてこったい。

「……はあー…分かりました、対応してきます」
「よかった!なまえならきっとそう言ってくれると思ってたから、あんまり使わない奥の客間に待たせてあるからね。早く行ったげて」
「うわあ最初から拒否権なかったやつだ…」
「しょうがないでしょ?あんなことがあったあとだし…とにかくお願いね。他に人が来ないようにちゃんと見張っとくから」

そう言って煙のように消えたおねね様は本当に優しい人だなあと苦笑いした。きっと彼女の性格上放っておけなかったのだろう。

時間をかけたところで状況は変わらない。直ぐ様言われていた部屋へ向かい、襖の前でお面を外して深呼吸を一つ。北ノ庄城で気絶させて以降の対面だ。まあ素顔での対面はもっと久しぶりだが。というわけで待たせたな、間違いなく元気ではないであろう藤堂高虎くんよ。




「……え、」
「ああ、なまえ」

まずは場を和ますため、城まで来んなっつっただろがい!と全力でつっこむ予定だったのに。襖を開けた先にいた高虎の顔はどこか青白くて、目元には隈が出来ていた。まあ不調だろうとは思っていたがまさかここまであからさまにやつれていたとは。戦前もそうだったけど、その時より酷いぞこれ。

思わず言葉を無くしてしまった俺を余所に、高虎はふらりと立ち上がって俺の方へ駆け寄ってきた。本人は笑っているつもりなのだろうが、その表情と今のこいつの精神状態がアンバランスすぎて違和感しか感じない。

「よかった、なまえ、本当はすぐに会いたかったが行けなくて…ああすまん、城には来るなと言われていたのに、」
「いや…いや、いいんだ高虎、気にすんな。つーか落ち着け、座れよ」

矢継ぎ早に言葉を並べ立てる高虎。やばいな、やっぱ様子がおかしい。とりあえず近くの座布団に座らせようとしたが俺の着物を掴んで離れようとしなかった。仕方がないのでそのまま隣同士で座る。その間も着物は掴んだままだし、どこか不自然な笑顔を浮かべたままだった。

「…もう、聞いているだろう。誰かしらに」

恐らく賤ヶ岳の戦いのことだろう。言葉にはせず小さく頷くと、そうか、とだけ返ってきた。

どうしようか。最初にそこに触れて少し慰めてやるつもりではいたが、今回は逆に触れない方がいいかもしれない。あえて関係の無い話でもして落ち着かせる方が得策か。

「助けようと、したんだ」
「!」
「本当だ。俺は、お市様を助けようとした。助けたかった。でも、出来なかった。きっと誰もそれを責めはしないだろう。長政様も吉継も、お市様だってそうだ。それでいいんだと、そのまま進んでいけと。お市様は最期に、俺の生き方に誇りを持てと言葉を残してくださった。大恩人の、それこそ母のような人からの最期の言葉だ。だから俺はその通りに生きていきたい」
「……そうだな、お前は立派だよ。そんな高虎を知ってるからお市様だって」
「お前も、お前も前に言ってくれたな。何があろうと俺は俺だと。変わらないと」
「…ああ、そう言った」
「…俺もそうだと思った。辛い戦になることは分かっていたし、しばらくその傷が癒えることはないだろうと覚悟していた。それでもいずれは、お市様やお前が言ってくれたように、俺は俺らしく前を向いて生きていけると、そう思っていた。だが、」

ああ、くそ、ダメだこの流れは。どう切り替えようとしても切り替えきれない。もう本当の本当に限界だったんだこいつは。

「時間が経てば経つほど、罪悪感に押し潰されそうになる。助けたかった。死んでほしくなかった。生きていてほしかった。その為なら、俺なんかどうなってもよかったのに。長政様の時だってそうだ。自分の無力さが嫌になる」
「……無力なんかじゃねえよ」
「お前は優しいからそう言うんだ。本心では変わってしまったと思っているんだろう」
「違う高虎、俺は」
「いいんだ、責めているわけじゃない。もう過ぎたことだ。お市様も長政様も戻らない。それでも俺は振り返れない。進むしかない。お前にならどう思われようと、どう責められようと構わない。だから、」
「高虎!落ち着けって!」

笑いながらぽろぽろと泣いている高虎の肩を掴んだ。やばいやばいやばい。どうする、これもうちょっと慰めて立ち直るレベルじゃねえぞ。おねね様にヘルプ出すか?饅頭口に突っ込むか?また首トン攻撃…いや今からすモードじゃねえからこれは無理だ。

とりあえずもうこの話は切り上げさせねえと。そのまま無理やり体を離そうとしたが、力強く着物を掴む手が離れない。

「…だから、なまえ、お前だけはいなくならないでくれ」

ゲームで聞いた、そして北ノ庄城で直に聞いた悲痛な泣き声が耳をつく。プレイした時も思ったけど、苦手だ、この声。苦しくなる。

「…やめてくれ高虎、泣くなよ、なあ」

グズグズと嗚咽を溢しながら俺の胸に顔を埋めた高虎はとうとう本格的に泣き出してしまった。そこにはいつもクールで不敵な笑みを浮かべる自信たっぷりな男の姿などなく、あるのは辛くて悲しくて不安で怖くてたまらないと泣きじゃくる子どもの姿だけだ。こいつのこんな姿、初めて見た。だから余計に辛くなる。どうすればいい?どうすれば泣き止んでくれる?どうして俺なんかにすがるんだ。もう三成のやつで間に合ってるってのに。

「もう俺にはお前しかいない」

そんなことねえだろ。吉継がいるじゃねえか。秀長だっているし、その後には真の主にだって出会えるんだよお前は。

「…大丈夫だ高虎、大丈夫だから…」

馬鹿みたいにそう言って背中を撫でてやることしか出来なかった。




やがてそのまま眠ってしまった高虎の頭を撫でていたら、静かに開いた襖からおねね様が入ってきた。状況を見て驚いたような表情を浮かべる彼女に苦笑いを返す。そらそんな顔になるよな。

「…きっと目が覚めたら、少しずつだろうけど、立ち直っていくと思います。こいつなんだかんだで強いし」
「…そう。ならよかった」
「ありがとうございます。見張っててくれて」
「これくらいお安いご用だよ。それよりなまえ」
「はい?」
「三成たちもそうだけど、これからも高虎のこともしっかり見守っててあげてね」
「…まあ、正体がバレるまでは頑張ります」

仮に正体がバレたとしたら、お前はいったいどうするんだろうな、高虎。想像するのすら恐ろしいなと自嘲しながら、まだ濡れている目元を拭ってやった。






190206


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