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残念ながらというかやはりというか無事史実通り時を進められているらしく、俺は賤ヶ岳の羽柴軍本陣で戦の時を待っていた。もう何日も戦い続けているが、どちらの軍も全体的に疲弊してきている。そろそろ嫌でも決着がつくだろう。それに気付いている高虎も最初こそ健気に戦っていたがまたやつれモードに突入してやがる。くっそーせっかく素顔の時に励ましまくったのに結局こうなんのかよ。辛い。

明らかに迷いが生じてる高虎、そんな姿を叱咤する清正、二人の険悪な空気を鎮めようとする吉継…あ〜この光景見覚えあるゥ〜これ絶対高虎ルートじゃんやだァ〜高虎ルートっつーかなんたらの章…なんだっけ、タイトル忘れちまった。すまん高虎。

さて、戦の流れをシミュレーションしておこう。まずは押し寄せてくる敵将蹴散らすでしょ?そんで砦奪ってって、秀吉はたしか利家とのやり取りもあったはずだ。最終的に秀吉側についてたはずだから多少はやり合うが大丈夫だろう。あとはごり押しで勝家とお市様を討つだけ、なんだけど。

(……なーんか忘れてる気がするんだよなァ…)

敵側主要人物は勝家とお市様と利家だけだったと思うんだが、なんか、なんか忘れてる気がする。もっとこう、強大な何かがあったはずなんだが…

うーんうーんと一人考え込んでいると誰かに肩を叩かれた。なんだ三成か?と思い振り返る。しかしそこにいたのはなんと左近だった。

「おや、あなたはたしか山崎でも…」
「どうも。今回も押しかけ軍師として参加させてもらいます、島左近です」
「ああそうでした、左近殿。此度もよろしくお願いいたします」
「はっ、こちらこそ…あんたはたしか、からす殿でしたっけ?不思議な御仁だったんですぐ覚えましたよ」

ですよね〜〜初対面のやつによく言われるワードベスト5に入るわそれ。むしろ忘れろって言う方が無茶だよな。当初はいかに目立たないように行動するかを第一に考えてたのに今じゃこの様ですよHAHAHA。まあ特に力がなくなったとか病気になったとかっていうペナルティは出てないしまだ神様の許容範囲内らしい。今後も範囲外にならないよう頑張りまあす。

「実は、あんたの他にも気になる不思議な御仁がいましてね」
「(あっ、まさか佐吉きゅんのことか?)へえ…私の知っている方でしょうか」
「ええ、恐らく。ほら、あそこのブスッとした顔してこっち見てる…」
「ああ〜…」

左近がちらりと目配せした方を横目で見る。あ〜はいはいあからさまにマジ不機嫌1000%の三成様のことですねはいはい。なんであんないらちなんだよあいつ。牛乳飲め。カルシウムとれ三成。まあここ二人が今のうちからコンタクトとってくれて困ることは何一つないんだが、問題はそれを俺が後押ししていいものなのかどうかだ。史実通りなら自然と主従関係になるが、俺が手を加えることによって変わってしまうと困る。しかし手を加えないと変わってしまう可能性もなきにしもあらずだ。今回はどっちかな〜わっかんねえな〜…。

けど、きっと左近が俺に話を振ってきたのは俺が一番三成と近しいと読んだからだろう。誰かに聞いたのか、はたまた山崎の戦いの時に何かしら感じたのか。理由は知らねえがその読みは当たってるわけだし、変に話避けるよりは多少次の仕官先としておすすめしとく方がいいか。

「…三成殿ですね。何か感じるものでもありましたか?」
「まだ詳しく知ってる訳じゃないんですがねえ、どうもただの扱いにくい難しい人間ってだけじゃない気がするんですよ」
「なるほど」
「…で、実際のところどうなんです?烏天狗さん」
「…左近殿の仰る通りです。あの子は気難しいし偉そうだしすぐに怒るし人付き合い下手くそだしわがままだし意固地だし融通がきかないし人使いも荒いし口も悪いしほんととことん面倒くさい性格してるし、」
「あー、俺は何もそこまで言っちゃいないんですが?」
「でも」
「!」
「どうしてか放っておけないような、支えてやりたくなるような何かを持ってる子です。左近殿のように、なぜか人を惹き付ける何かを持っている、私の可愛い弟分です」

よければ仲良くしてやってくださいと言うと、ポカンとしたあと、またくしゃりと笑った左近。うまく伝わっているといいのだが。あとは自分で何とかしろよ三成〜と思ってたらあれ?もしかしなくてもこっち来てる?激おこ?激おこなの?

「…いつまで無駄話をしているつもりですか、からす殿」
「無駄話って…気分転換に世間話していただけだよ」
「それが無駄話というのです。貴様も軍師だというのであればこんなところで立ち話などせず軍略の一つでも秀吉様に提案してはいかがか?」
「おやおや、どうやら可愛い弟分さんに妬かれちまったかねえ」
「ちょ、左近殿!しーっ!」
「かわ…?」
「ま、押し掛けとはいえ仕事はきっちりこなすつもりですよ。またゆっくり話しましょう、烏天狗さん」

ひらりと手をあげてそこから立ち去った左近。うーん滲み出るちょいワル男の風格…男が惚れる男ってやつだな。この調子ならきっと三成に仕官してくれるだろうし、今後も仲良くやってくれるとありがたい。

「どしたよ三成、なんかあった?」
「…可愛い弟分とはどういうことだ」
「(バッチリ聞こえてたァーーー)えーーーっとだな…それは〜…」
「まさかとは思うが俺のことではないだろうな」
「……嫌?俺の弟分」
「嫌だ」
「即答」

三成の何気ない一言が俺を傷付けた…えっそんなに?そんな正則に馬鹿にされた時に見せるイラつきMAX顔するくらい俺の弟分嫌だった?なんかごめん…

周りに聞こえないよう三成とボソボソ会話していた俺の頭から、先ほどまで懸念していた“強大な何か”がいつの間にすっかり抜け落ちていたのだった。







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