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高虎と衝撃の再会を果たしたからすこと俺。何度でも言ってやるぞ。超帰りたい。超怖い。冗談とか比喩とかでもなんでもなく、今こいつマジで視線だけで人のこと殺せそうなくらいの勢いで睨み付けてきてるもん俺のこと。そんな顔する高虎のこと見るのほんと久々だわ。それこそ小谷城で対峙して以来。秀吉や三成が配慮してくれていたおかげで今日までうまい具合に邂逅せずにいたわけだが、さっき秀吉も言っていた通りいつかはどうしても顔を会わせなければいけない日が来る。そんなこと俺だって分かってたけどさ、うん、急すぎんよ。なんの対策もなしにポイーされたら困るよ怖いよなに話せばいいんだよ。あの時は悪かったとでも言えばいいのか?そんなことしたら余計火に油を注ぐだけだろ絶対。為す術なしじゃん。帰るしかないじゃん。なお勝手に帰れん模様。秀吉はやく迎えに来て!!

「……吉継と一緒ということは、秀吉の元についたということか」
「…はい。そういうあなたは、秀長様にお仕えしているとか」
「ふん。吉継、よくもまあそんな男もいるのに未だに秀吉に仕えていられるな」
「そう言うな高虎、からす殿は好青年だぞ。俺に対しても普通に接してくれている」
「どうだかな…おい、あんた」
「!」
「からすとかいったな。所属こそ近しいものではあるが、俺はあんたと馴れ合う気はない。姉川や小谷城でのことを忘れたとは言わせんぞ」
「……今さら何を申せど言い訳にしか聞こえぬでしょう。高虎殿が馴れ合わぬと仰られるのであれば私もそれに従います」

オラこれでいいんだろそれでも文句あるなら言ってみろコラァとお面越しに高虎を見つめる。納得したのかしてないのか、ふんと鼻を鳴らして顔をそらした高虎。こいつ…仕方ないとはいえクソムカつく…まるで三成を相手にしてるようだ…いやでも三成と違って照れ隠しでもなんでもなくガチで嫌われてるからダメージが大きい。素顔の時とのギャップすごすぎィ。

しかし思っていたよりも穏やか(というか冷ややか)に話し合うだけで事が済みそうだ。再会するまでは問答無用で斬りかかってくるとすら思っていたが、高虎もちゃんと大人になってくれていたということだな。あと吉継の存在も大きいのかもしれない。とすると吉継がいないと俺の首が飛んでた可能性が…?まあからすパイセンパワーを持ってすれば高虎の攻撃なぞ痛くも痒くもないがな。はっはっは。

「分かったならそれでいい。俺とて無闇に仇討ちをしようなどとまでは考えていないしな。ただ深くは関わりたくないだけだ」
「(うわ〜〜超素直にお前超絶嫌い発言された〜〜)そうでしょうね。私にそれを強制するつもりも権利もございませんのでご安心を」
「…そう、仇討ちをしようなどとは考えていない。しかし」
「っ!」

しかしなんだよ、と思った瞬間体が勝手に動いていた。瞬く間に机に置かれていた茶菓子の乗ったおぼんを掴み、かなりの力で高虎の手元を弾き飛ばしたのだ。なになに何事!?と思い弾き飛ばした箇所を見ると、そこは高虎の手元…ではなく、正確には高虎が握っていた短刀があった。いつの間に抜いていたのやら。恐ろしすぎだろこいつ。オート防御なかったら死んでたぞ。

「…思わず手が滑ることがあるかもしれん」

思わず手が滑るってなんだよふざけんなよおもくそ故意で殺そうとしてただろ俺のこと完全に殺りにきてただろ!!!素直に言えや仇討たせろって!!!真っ向勝負してやるわどうやらまだフルボッコされ足りないみたいだな高虎かかってこいよ何度でも再起不能にしてやんぞてめえ!!!

「やめろ、高虎」
「!」
「吉継殿…?」
「からす殿は俺の大事な友だ。これ以上の無礼は、たとえお前相手だろうと許さぬ」

双剣を出そうとした瞬間、吉継が俺の前に立って庇ってくれた。よ、吉継…ごめんな、最近相手すんのめんどくせえとか思ってて…お前めっちゃいいやつ…などと一人勝手に感動していると、高虎の顔も少しではあるが不服そうに歪んだ。やーいやーい今や吉継は俺とも友達だもんね〜だ。わかったらさっさとその物騒な物はしまいなさい今なら俺も吉継との友情に免じてなかったことにしてやるから。ほれ。

「……吉継に感謝するんだな」

うるせえわ!!!!と叫びたくなったが堪える。お前ほんと覚えとけよ今度の甘味バクバクデーで思いっきり不機嫌モードになってやるからな。串団子3本奢らせるからな!

渋々短刀をしまって始めに座していた場所に座り直した高虎。やはり今後もからすとしてこいつと関わる際にはかなり注意した方がよさそうだ。もしくは常に吉継にそばにいてもらうか…いやそれはやめておこう。絶対疲れる。

「…吉継殿、ありがとうございます」
「俺が片時も離れずにいたおかげだな」
「そうですね、本当によかったです」
「そうだろうそうだろう」
「ははははは」

もはや棒読みである。吉継のキャラが未だによく掴めてねえんだよなあ…たまに悪ふざけするのは知ってるけど友達宣言してからのこいつの暴走ぶりがすごくて困るくらいだ。かと思えば今みたいに真面目に助太刀してくれるし、基本的には常識人であると信じていいとは思うんだが。まあいいやつには違いないし、今後も仲良くしてもらえれば幸いである。

その後どれくらい経っただろうか。無駄にちょっかいをかけてくる吉継と相変わらずピリピリモードの高虎と同室という謎の空間で過ごすこと数十分…多分30分したかしてないかくらいかな。ドタドタと慌ただしく廊下を走る音が聞こえてきた。その音は客間の襖の前で止まる。どうやら会談が終わったようだが、なんか早くね?そんな簡単な会談なのになんで俺連れてこられたんだろ。

「待たせたのう、からすに吉継」
「秀吉様、もう済んだのですか?」
「ああ、まあ、な…」

おや、なんだか顔色がよろしくない気が。結局詳しく聞けてねえんだけど会議内容って何だったんだ?

「っ、秀長様!まさか、」
「…すまぬ高虎。兄上もなんとか粘ろうとしてくださったのだが…」

秀吉の様子に何かしら感づいたのか、その後ろにいた秀長に飛び付いた高虎。なんだ、こいつはなにか知ってんのか?どうも交渉決裂っぽい雰囲気なんだけど大丈夫?だから早めに終わっちゃったの?

秀長の言葉に息を飲んだ高虎を見て、これはただ事ではないと察した。どういうことだと黙って秀吉の方を見ると、俺の想像通り話が決裂したとだけ告げられた。ってことはまた近々何かしらの戦があるってことじゃねえか。最後に起きた戦は山崎だったから、次は……あ、

「…柴田殿と、戦うことになるかもしれん」

そうだ、次、賤ヶ岳だ。ということはつまり

「……そんな…っ!」

すぐそばで絶望している高虎と共に、勝家と、お市様と戦うということだ。













「黙っとってすまんかったな、からす」
「…もう済んだことです。それに、きっと今までも三成殿と結託して高虎殿から引き離してくれていたんでしょう?それだけでも十分ですよ」
「あちゃー、バレとったか」
「ま、結局恨まれっぱなしでしたけど」

長浜城に帰ってすぐ、秀吉は苦笑いしながら素直に謝ってくれた。一国の主がわざわざ家臣に謝罪なんざするもんじゃねえだろうに。そんな秀吉だから好きなんだけども。

しっかし高虎の件はまあもう諦めるとして、次の戦よな。そっかあもう賤ヶ岳の戦いにまで来たのか…本能寺からの時代の流れ早すぎ。まだ一年も経ってなくね?正式な日時はいつ頃なのかな。一応秀吉も秀長も怪我ひとつなく客間に来てたから流血沙汰の言い争いにはなってねえってことだ。つまりすぐさま戦だってわけでもないだろう。

(それでも数ヵ月か一年後にはやってくるだろうな…)
「…からす」
「!」
「清洲城でも言うたが、いずれ必ず柴田殿との戦は訪れる。避けられん戦いじゃ。恐らく利家も、お市様もおる。厳しい戦いになるのは目に見えとる。得るもんも失うもんも、きっと多い」

まったくもってその通りだった。秀吉には全て分かっている。分かっていて、それでも戦おうとしてるんだ。天下統一のために。

「それでも、勝たにゃいかん。進まにゃいかんのじゃ」
「………」
「…そのためにも、お前さんの力が必要なんさ。頼めるか?からす」
「……もう忘れたのですか秀吉様。岐阜城でもお伝えしたはずです、私は秀吉様の飼い烏だと」
「…それが聞ければ、もうなんも心配するこたぁねえな。これからもよしく頼むわ」

からりと笑って背中を叩いた秀吉は、そのまま廊下を歩いて行ってしまった。分かりゃいいんだよ分かりゃ。あんたが望むなら、信用してくれるなら、俺はそれに従うだけだぜ。天下人さんよ。





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