27


今日は何の日?そう!今日は月に一度の高虎との甘味バクバクデー!その名の通り高虎と例の甘味処で美味しい甘味をバクバク食うだけの日である。その中で世間話をしたり少し散歩してみたりとその時によって様々ではあるが、今日はどういうコースになるんだろうか。会う日を決めて以降すぐの頃は三日に一度くらいのペースだったのを徐々に徐々に週一に、半月に一度に、そして現在の月一にまで広げたのは俺のファインプレーの賜物だぜ。そこに持ってくまでだいぶ時間かかったし高虎からのブーイングがすごかったがそんなものは知らん。まあそれでなくとも中国攻めが始まってからは自然と頻度が減っちまったんだけどな。それでも三成の目を盗み時間を見つけては会ってやった俺ほんと優男。高虎ってば俺のこと大好きだからなァ〜〜〜あと最近吉継からの謎アプローチ(主に戯れと冗談のオンパレード)もすごくてェ〜〜〜ほんとモテる男って辛いわァ〜〜〜なお三成のツン度は変わっとらん模様。なんでや。

そんなこんなでいつもの待ち合わせ場所である店に向かっていた俺なのだが。目の前にて事件発生。

「こ、困りますお客様…」
「うるせえ!いいから残りの酒も全部寄越せってんだよォ!」
「料理もありったけ持ってこい!いいか、他の客にやる分も全部だ!」

あと少しで甘味処だったのだが、目先の飯屋にて牢人らしき男が二人暴れてやがる。あれかな、もしかして元明智軍の人たちかな。世知辛いなあ。けどだからって一般市民とか飯屋の可愛い姉ちゃんに迷惑かけてんのはいただけねえな。通行人も引いてるし。

「…やめろよ、みっともねえな」
「!」

姉ちゃんの腕を掴んでいた太い手を叩いて睨み付けた。本当は無視してもよかったんだが、せっかくからすパイセンの力があるんだ。良いことに使ってバチが当たることはねえだろう。

「お侍さん、どうせ力だけはありあまってんだろ?来いよ、相手してやる」

ここまで煽れば十分だろう。二人はピクピクと青筋を立ててゆっくり俺の方へ歩み寄ってきた。とりあえずここでからす化したらいろいろ都合悪いから近くの路地裏へ避難じゃ。

困ったように俺を見る姉ちゃんや店主っぽいおっさんの言葉を片手で遮り店から離れた。少し歩いて細い路地へ入る。ここら辺なら大丈夫かな。

「よう兄ちゃん…女の前だからってかっこつけたはいいが、ここで泣き入れても一発二発じゃ済まねえぞ…?」
「俺に数発入れれたら褒めてやるよ」
「っ、ナメてんじゃねえぞこのガキャア!」
「わっ!」

よっしゃ必殺からすパイセン召喚〜と思ったらどこに隠し持ってたのか短刀で素早く斬りつけられた。こわ!酔いどれ牢人こわ!軽く腕を切られたが支障はない。少しビビらせてやるくらいで勘弁してやろうと思ったが半殺しの刑に変更だ。お説教だよ!(裏声)

「何をしてる!」
「!」
「ああ!?今度はなん…っ!」

よっしゃ今度こそへんし〜〜〜〜んと思ったらまた邪魔が。しかもすっごい聞き覚えのある声。やっべ嫌な予感しかしねえ。

ぐいっと後ろに引かれて、気付けばその男の背に隠されていた。すっかり俺よりもはるかに背が伸びたそいつ。見なくても雰囲気でわかる。今きっと死ぬほど怖い顔をして牢人ズを睨み付けているだろう。その証拠に怒りや酒で真っ赤だった二人の顔がうってかわって真っ青になっている。

「お、お前は、羽柴秀長の…!」
「藤堂高虎だ…どこの馬の骨か知らんが、この男に手を出した罪、その命で償ってもらうぞ」
「ちょちょちょ落ち着け高虎俺から喧嘩売ったんだよ」
「お前がむやみやたらに他人に喧嘩を売るような人間ではないことくらい知っている。何かされたんだろう?」
「えーっと…まあ…俺にではないけど迷惑行為はしてたかな…?」
「なら理由なんざそれだけで十分だ」
「いやだから落ち着けって」
「つ、付き合ってられるか!行くぞ!」
「おい逃げるな!」
「だから待てって馬鹿!」

さすがにそこらの牢人や武士にまで名が広まってる高虎を相手にするのはまずいと踏んだ牢人ズは俺たちが言い合いをしている間に逃げ出した。賢明な判断だと思うぜ俺は。それでも怒りが収まらない様子の高虎を押さえるのが大変だった。こんなことならやっぱり無視しとくべきだったか…いやしかし姉ちゃんほんとに泣きそうだったもんな。うん、良いことした。ポジティブポジティブ。

「チッ、あいつら…!」
「…あー…高虎、無茶したことは謝るよ、でもちょっとイラッてしたからさ…今後は気を付けるって」
「あいつらは刃物を持ってるんだ!丸腰で刀も握ったことのないようなお前が勝てるような相手じゃない!もっと自分を大切にしろ!」
「うん、それはその、はい、ごもっともです…ごめんなさい…」

それにしても高虎の勢いが凄まじすぎて申し訳なくなる。本当はからすになってサクッと懲らしめる予定だったのだが先手打たれるしお前が来るしで何も出来なかったんだよ〜俺だってなんの計画もなしにむやみやたらに暴れるわけないだろ〜だからそんな怒鳴らないでくださいほんとすみませんでした…美形の怒り顔迫力ありすぎてヤダァ…

とにかく自分の非を詫び救援感謝を繰り返し告げ続けること数分。ようやく高虎の顔が怒りモードから呆れモードに変化した。それでもまだ納得いってねえような顔だけども。

「…本気で、心配した」
「!」
「何かあってからではどうすることも出来ん。こんなくだらんことで命を失ってみろ、俺は一生お前を恨むぞ」
「そこは悲しむとかじゃねえんだな…」
「悲しみよりも、俺の前から消えることへの恨みの方が強そうだ」
「歪んでるわねえ高虎ちゃん」
「茶化すな」
「いっだ!」
 
掴まれたのは先ほど斬りつけられた腕だった。切り口が浅いとはいえ痛いものは痛い。隠していたのだがやはりバレていたか。成長したな高虎。誰目線だよってな。

「…この傷だって、もう少し早ければ…」
「それは…あ?おい高虎、」
「うるさい」
「ちょ、おい!」

血が固まりかけていたそこを高虎の舌が這う。ピリリとする痛みとは別に、その生暖かい感触にぞわりと背筋が震えたのが分かった。

「たか、高虎、おい、」
「ん、ふっ…なんだ、ただの消毒だ」
「いや消毒て…普通に汚いからやめろ」
「汚いところなどあるものか」
「あるわアホかっておい!噛んでる!噛んでるからそれ!ふざけんな!」

さすがに止めなければと思った瞬間切られたのとは別の痛みが走った。噛んだか、もしくはなんか吸われた気がする。お前は吸血鬼か!と頭ぶん殴ってようやく引き剥がした。傷口は血ではなく高虎の唾液でてらてらと光っている。OMG。まだそこに舌の感触が残っている気がして全力で着物の裾でそこを拭った。キモチワルイ。

一瞬でテンションだだ下がりになったわなんなのこいつ…いくら無茶して怒って心配したからってやっていいことと悪いことがあると思いますなのでそんな荒んだ目で睨まれる筋合いはありません怖いからやめなさい。

「お前友達とか仲間が傷ついたら誰にでもやってんのか?もうやめろよ絶対バイ菌とか入ってヤベーからマジで」
「ばいきん?」
「あー、なんつうか…病気の元になる厄介なやつのこと。毒とでも解釈してくれ。とにかく分かったらもう二度とすんなよ」
「…ならお前も二度と怪我をするな」
「いやそれ難しすぎでは?」
「じゃあ二度と俺に心配させるな」
「…ど…努力はする」
「煮えきらんな…まあ、お前らしいと言えばらしいが」

そこでようやく笑った高虎に心底安堵した。過保護野郎が多くて困るぜほんと。

……待てよ。この怪我城でも隠さねえとまた面倒事に巻き込まれる可能性が?主に三成とか三成とか三成関係で?ある?あるよね?またぶつぶつ小言言われるし問い詰められたら高虎とバクバクしてんのバレるよね?ウワア帰っても災難しか待ってないとか鬼畜過ぎィ。ほんと気を付けよ。過度な正義感も考えもんだぜ。とりあえず早く甘味食べてリフレッシュしたい。










「……お前からの毒ならいくらでも大歓迎だがな」
「は?」
「なんでもない。早く行くぞ、誰かさんのせいで腹が減った」
「ソウデスネー」

手を取って薄暗い路地から抜け出した。するりと指を絡ませる。このまま永久に繋がってしまえばいいのにと言えばきっとお前はまた呆れたように笑うだろう。

「…高虎、」
「!」
「……ありがとな、助けてくれて」

照れ臭いのか顔を背けながらそう言ったなまえ。

「…すまん、聞こえなかった。もう一度言ってくれるか?」
「はあ?うっざ!絶対聞こえてただろもう言わねえ」
「そう照れるな」
「照れてねえし。つーか手ェ離せや痛い」
「断る」
「テメーこのやろう」

頬が、耳がいつもよりほんのり赤い。ああ、かわいい。かわいい。なまえ、お前は本当に、

「なにニヤついてんだお前」

お前がどうしようもなく俺を惹き付けるのが悪い。




190124


|