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故郷で暮らす父ちゃん、そして母ちゃん。お元気でしょうか。いつも若々しいお二人のことです、きっと今も仲睦まじく健やかにお過ごしでしょう。

僕はいま、この量は人生で初めてなのではないかというほど冷や汗が止まりません。



「手間をかけさせおって…さっさと帰るぞクズ」

ウッヒャーーーーーーーーーーーめちゃくちゃ怒っとるーーーーーーーーーーーーそらもう冷や汗ドバドバよ食い込んでる食い込んでる肩に指食い込んでるって痛い痛い!つーか早いよそりゃいつかは見つかると思ってたけどいくらなんでも早いよ早すぎるよ神速モーションはめっちゃ遅くて使いづらいくせに!!こんなことは!!おかしい!!

これがもし一人きりの時に見つかっていたなら激しく抵抗していただろうが、他でもない高虎がいる手前下手に行動できない。何より反抗しようもんならさらっと皆にネタバレしそうで怖い。そうなってしまっては羽柴仕官後の俺の努力やら苦労やらがすべて水の泡。ここは素直に帰るが得策だな…もう少し粘りたかったが仕方ねえ。

「離せ」
「っ!」
「明らかに嫌がっているだろう」

すまん高虎また今度会おうな、と告げようとしたら俺の肩を掴んでいた三成の手が剥がれた。怒った顔をした高虎が俺の腕を掴んで自分の方へ引っ張ったからだ。自動的に体ごと高虎の方に引き寄せられたせいで肩への痛みはなくなったが場の空気がさらに凍りついたことは言うまでもない。高虎もしかして奥義使った?と思わず聞いてしまいたくなるほどの勢いである。三成の方を見れない。こわい。ちょーこわい。

まさか助けようとしてくれるとは思ってなかったので驚いたが、それでも俺は戻らねばならないのだ。その気持ちだけもらっとくぜ高虎よ…とやんわり腕を引いてみたが離さない、だと?ちょちょちょっと?

「あ、あの、ありがとな高虎。でも俺こいつの言った通りそろそろ戻らねえといけなくて」
「高虎?」
「そうだ、俺は藤堂高虎。なまえの友だ」

お前は誰だ?と問う高虎の言葉よりも先程俺が発した言葉に対して、そうかこいつが例の…と言わんばかりの目を向けてきたので俺も慌ててこっそり頷く。そうだぞこいつが例の高虎だぞ〜覚えとけ〜そして頼むから穏便に話を進めてくれ〜頼む〜伝われ〜…!

「……俺は石田三成。羽柴秀吉様に仕えている者で、そこの者とは幼少の頃からの腐れ縁だ」
「ほう、秀吉様の……帰るというのは、長浜城にということか?」
「そうなるな。こいつも秀吉様に忠誠を誓っている身。仕事を放って逃げ出したため捕まえに来たところだ。分かったらさっさと返してもらおうか」
「……本当なのかなまえ。お前、今は秀吉のところにいるのか?」
「んんんんんんまあはいそうなります、ね、あの、不可抗力というか…なんというか…」

三成てめえええええええええ一応こいつとは仲良しだったっつったろうがなんでわざわざそこに亀裂入るような情報提供してんの!?あんなに秀吉嫌いっつー愚痴聞いときながら秀吉に仕えてるとかどういう神経してんだってなるでしょ!?最悪だよこれでせっかくからすの時よりは関わりやすかった素顔モードでも険悪になるよこれ最悪だよ。これ以上俺を生きづらくさせないでくれ!切実に!!

「……そうか。お前が決めた道だ、俺がどうこう言う権利もあるまい」
「権利があろうとなかろうと貴様には元より関係のない話だ。いい加減その手を離せ」
「三成…!」

ため息の代わりに出たのは冷静な声とは裏腹に相変わらず鬼の形相で俺たちを睨み付ける三成の名前だった。お前ほんともう少し言葉選びに慎重になれよそういうとこだぞ三成なんでそんな刺々しい言葉しか出てこないんだ三成せっかく高虎が大人の対応してくれたのに三成ィ…!

ちらりと高虎の方を見ると、俺の葛藤など露知らず、それどころか三成の言葉も特に気にしていないかのように澄ました顔をしていた。

「…こいつがそちらに仕えた経緯や理由は気にしない。だが、逃げ出したというのが引っかかる。こいつは普段こそ飄々としているしおちゃらけているが、芯の通った男だ。怠けを理由に仕事を放る奴ではない。何か不満があったのではないか?」
「……貴様がなまえの何を知っている…?」
「お、おう、そこに関しては三成に同意だぞ高虎。俺別にそんなやる時はやる〜みたいなタイプの人間では…」
「不満に関しては否定しないんだな?」
「ん〜まあ秀吉様にというかほぼほぼあの鬼面小姑への不満が凄まじいんですけど…」
「貴様が何度も何度も何度も俺を怒らせるから悪いのだよ」
「カッチーーーーン!おい嘘つくなそりゃ俺のせいの時もあるけど8割はお前が勝手に怒ってるじゃん!いっつもいっつも皆の前でボロクソ言いやがって!あほ!鬼!悪魔!」
「なっ、なまえ、貴様…!」
「…そんな奴がいる城へ帰すわけにはいかん。行くぞ、なまえ」
「ふざけるな!部外者はいい加減に去れ!」
「部外者とは聞き捨てならんな、俺は友としてこいつのそばにいる。むしろ後から来たお前の方が部外者だろう」

…なんなんだろうこの図…あれか、私のために争わないで〜!みたいな感じか。恐らく初対面のくせにめっちゃバッチバチでわろた。二人との間で板挟みになってた吉継もこんな感じだったのだろうk「さっさと戻ってこいこのクズが!ここですべて叫んでやっても構わんのだぞ!馬鹿の分際でこれ以上俺の手を煩わせるな!」いや違うわこいつ吉継にこんなこと絶対言わねえわ。ブチブチと血管がぶちぎれる音がしなかったでもないがこれ以上ヒートアップさせてはマジで約束破られそうなのでそろそろ言う通りにしてやるか。さらば俺の自由時間。

「お前…先程から暴言が過ぎるとは思っていたが、これ以上なまえを悪く言うのであれば」
「いいんだ高虎、いつものことだから」
「!」

俺の腕を握る力が強くなった高虎の手をやんわりほどいて薄く笑った。そうさこんなこと日常茶飯事だからな…お前は何も気にしなくていいんだぜ…まあまた会えたら今度こそ甘味処行こうな。約束な。

「せっかく会えたのにすまん。次会ったら饅頭奢るわ」
「…大丈夫なのか?」
「おう。味方してくれてありがとな」

じゃ、と片手をあげた瞬間その手を掴まれすごい勢いで歩き始めた三成。はあ〜長時間お説教コース不可避〜帰りたくなあ〜い…まあしかし今回の脱走を機に少しは俺への当たりも弱くなってくれたらいいな、なんてゴミクズほどの小さな期待を籠めて俺より小さな背中を見つめた。祈るだけならタダだろ!

そういや吉継って今どこにいるんだろう。






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