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『お言葉ですがからす殿、あなたは茶の一つも満足に淹れることが出来ないのですか?』

『おいクズ、貴様の目は飾りか?まだこんなに埃が残っている。やり直しだ』

『からす殿、馬鹿みたいに武芸ばかり鍛えるのではなくたまにはそのお粗末な頭も鍛えてみてはいかがです?』

『だからその茶器は丁重に扱えと前にも言っただろう!もう二度と触るなクズが!』

『どいてください邪魔ですからす殿』

『さっさと起きろなまえ、乗馬の練習をするぞ』

『からす殿』

『クズ』

『からす殿』

『クズ』

『クズ』

『クズが』







……うん、まあ、逃げるよね!ということで現在長浜城を抜け出し城下町に避難中のからすことなまえくんなのであった。

今ほんのちょびっとだけこの数ヵ月の苦悩を思い出したがそれだけでもだいぶダメージを食らうほどには参っていた俺なのだが。元から姿見かける度にボロクソ言われてたのに高虎対策のため四六時中そばにいてくれた(強制)おかげでもう俺のライフはゼロよ…むしろ数ヵ月もほんとよく我慢できたわ盛大に讃えたいね。よくやった俺。茶器に関してはまあすまんかったけど乗馬に関してはマジふざけんなと思ったお面なしの状態でもちゃんと乗れるようにってことでまだ太陽昇りきってない時間に叩き起こされるんだよありがたいけど腹踏みつけるのほんとやめてほしい馬鹿なのかな?なんで人起こすのに腹踏んでくんの?殺すの?俺のこと殺す気なの?朝からゲボるぞ?

小言…いやもはや暴言なんだけど、それに関してはみんなが居てる前でも平然とやってのけてきたからねあいつ。肉体的には全然大丈夫だったんだけどさすがにそろそろ精神がやばかったので、いつもの暴言中にふう…と一息吐いた瞬間ダッシュで部屋から飛び出したもん。お面してたからちょっとシュールだったかもしれん。その時の三成の顔が珍しく呆気にとられたアホ面かましてたので少し面白かったがそれだけでは俺の心の傷は癒えぬのだよ!…今のちょっと似てたな。

さて、そんなこんなで今の俺はストレスフリーである!どうせしばらくしたら見つかるだろうが、それまではのんびり羽を伸ばしてやるぜ。とりあえず少しでも時間を稼げるよう変身は解いておいた。城にいる時はお面の付け外しだけで変身自体はずっとしてたからな。その過程でわかったことなのだが、どうやら変身云々ではなくお面を付けているか否かで能力が変わるらしい。まあ変身を解くと武器である双剣も消えてしまうので戦中は変身不可避なのだが、良いことを知れたかもしれない。上手く使えば何か利用できるかも。メモメモ。



「なまえ?」
「!」

たかが自分の本名ごときでビクゥと体が震えてしまうのは他でもない三成様から承りし日々の愛ある薫陶の賜物である。もうトラウマ化してんじゃねえか!笑えねえぞおい!しかしここ最近俺の本名を呼ぶやつなんて三成くらいしか…

「…えっ、高虎…?」
「やはりそうか。久しぶりだな、なまえ」
「うわっ」

おそるおそる振り向くとそこには、なんということでしょう。すべての元凶と言っても過言ではない藤堂高虎その人が立っているではありませんか!パアアア…という効果音が付きそうなほどの嬉しそうな顔である。お前〜〜〜お前のせいで俺はもうストレスマッハで死にかけてたんだぞ元気だったかよこの野郎〜〜〜!なんて高虎からすれば意味のわからん恨み辛みをぶつけてやろうとしたらがばりとハグされてしまった。ん?

「生きていてよかった」

ぽそりと呟かれた言葉に苦笑いした。お前小谷城戦の翌日もそんなこと言ってなかったっけ。

「…前も言ったけど、こっちの台詞だからそれ」

まあそこまで思ってくれるほど心許してくれてるんだな。俺の思い込みかもしれねえけど少し嬉しかったので同じように背中に腕を回s…待ってお前めっちゃでかくなってね?なに成長期?背伸びしてない?して…ないな、マジかよ。おかしいな最後に会った時は同じくらいだったのに今では頭一つ分くらい違う気がする。ウソォ。

そんな馬鹿なと思い高虎を引き剥がす。落ち着いて冷静に相対するとなるほどやはり大きくなってやがる。なんか見下されてる感がすげえ腹立つんですけど。俺も少しは背ェ伸びたはずなのに…そういやこいつゲームでも結構大きかったっけ…?

「元気だったか?今までどこに…」
「積もる話もあるだろうがまずは少し屈め高虎」
「は?」
「いいから」

俺の言葉に首を傾げながらも少し屈んでくれた高虎。素直かよ。実はこいつめっちゃ良い奴なのでは…?とりあえずこれで俺の方が上になったぞ。しかしそこまで膝折ってくれなきゃ背比べで負けるとかこいつ大きくなりすぎだろ成長期にもほどがある。そして徐々に原作に近づきつつあるイケメン俳優も逃げ出しそうなほど整った顔。ぐぬぬと思いながら見つめていると、屈んでいるせいで日の光が反射して高虎の目が綺麗に光っていた。ゲーム中はそんな気にしてなかったけど、こいつ瞳までほんのり青いんだな。どこまでも徳川カラーじゃん忠義厚すぎィ!ブルーアイズ手ぬぐいドラゴン!

「いや高虎だからブルーアイズ手ぬぐいタイガーか…?」
「……見過ぎだ馬鹿野郎」
「あぶっ」

新たなモンスターを脳内で生み出していたら思いっきり顔面を押し返された。痛いでござる。

「ごめんて。なんか綺麗な目してたからつい」
「はあ!?」
「ごめんて!」
「……はあ…もういい。相変わらずだな、お前は」
「なんか呆れられた」

誠に遺憾である。とまあ冗談はさておき、本当に久しぶりの再会だな。元気そうでなによりだぜいろんな意味で。この近辺に出てきたってことは、やはり以前聞いた三成の話は本当だったのだろう。恐らく高虎は秀長に仕えているはず。偶然遭遇したのがからすの時じゃなくてよかった。三成がいない今どうなっていたか考えたくもねえ。それとなく探り入れとくか。

「それで?今はここに住んでるのか?」
「え?えーーーっ……と……まあ…この町の近く…かな…?」
「そうか、実は俺もこの近くの屋敷に住んでいてな。そこの主に仕官した」
「そっ、そうなのか…へえー…ち、ちなみに、その人の名前って羽柴…?」
「羽柴秀長様だ。間違っても秀吉の方に仕えたわけではないからな、勘違いするなよ」
「オーーーウ」

俺があいつに仕えるなど死んでも御免蒙るなどと死んだ目をしながら言う高虎の怖さよ。まるでからすの時に対峙してるみたいだぜ。相変わらず秀吉へのヘイトが凄まじいことは把握できたのでマジでからすの時に遭遇しないよう気を付けねばと再確認。主である秀長の兄にあたる秀吉には直接手を出せないだろうがただの配下である俺に対してならぶっ殺しに来てもおかしくないからな。こっわ。まあ二度もフルボッコにされたからすモードの俺に勝てればの話なんですけどね!

それにしてもここで高虎と遭遇とはなんの因果なんだろう。長浜城の城下町ということは、すなわち元小谷城の城下町ということである。建物や住む人があの日から変わっている部分も少なからずあるが、離れずに住んでいる人も変わらず営業している店だってある。俺もお使いとかで何度か訪れたがいつもお面をしていたので顔見知りには挨拶すらできてない。せっかくだし少しこのオフ状態で見て回ろうかな。

「…変わったな、この町も」

何気なく周りを見渡していたら、高虎は静かに呟いた。どうやら同じことを考えていたらしい。でもこいつの方が俺なんかよりもよっぽど思い入れがあるだろう。

「……変わってねえとこもあるよ。町も、人も」
「……そうか。そうだな」
「おう。せっかくだ、再会を祝してあそこの甘味処行こうぜ」

今も営業してるかはわかんねえけど、多分ここからはそう遠くないはず。高虎と言えばあそこだもんなあと笑えば、高虎も同じように笑ってくれた。積もる話はそこで甘味でも食いながら話そうぜ。

「…ああ、そうだな。行こう、なまえ」



「こんなところで何をしている、なまえ」

高虎から伸ばされた手が俺の手首を掴む前に、後ろからすごい勢いで肩を掴まれた。

「み……ミツナリサマ……!」

そこにいたのはまさしく鬼の形相をした三成。あ、これ完全にオワタ。






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