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秀吉のとこに仕官してから早一年。最初は主に三成的な意味でとってもとっても不安だったのだが慣れとはすごいもので一年も仕えれば日々の生活習慣も切り替わっていく。今日も今日とて朝から三成に叩き起こされた上に小言を言われ、正則と清正の稽古に付き合い、三成に小言を言われ、おねね様の家事のお手伝いをし、三成に小言を言われ、秀吉と世間話をし、正則とおつかいに行き、三成に小言を言われ、夜が更けると眠る。イヤアナンテ素晴ラシイ一日…たまに起こる胃痛は気のせいである決して三成様直々によるレパートリー豊富な小言(という名の暴言)のせいではないゾ☆ポジティブポジティブ☆

ちなみに三成からの日々の冷遇についての羽柴家の印象は「照れ隠し」「なついてる証拠」「愛情の裏返し」などなど散々である。後半に至ってはもう意味わからんさすがにおねね様からのアドバイスとはいえ苦笑いせざるを得なかったぞ。愛情の裏返しってかそもそもあいつ俺に対する愛情あるの?顔見る度にクズクズ言うのがあいつの愛情なの?怖いよ…あと反論する度に俺があいつを忘れてたこと掘り出すのほんとやめてほしいそれ言われたら俺謝るしかないやん…いつになったら許してくれるんだろうか…






「……そういえば、聞きたかったことがある」
「んあ?なに?」

非常に珍しく稽古もお手伝いも何もなかったので与えられた自室でのんびり寛いでいたら、これまた非常に珍しくお茶と茶請けを持った三成が部屋に訪れた。わーいおやつおやつ〜と茶請けに手を伸ばした瞬間その手をパアンと叩き落とされて思わず真顔になった俺である。先に茶を飲めってか。俺の淹れた極上の茶を飲めってか。いや美味しいけどさあ何もそんな…ああ嘘です何でもないですこんな俺にお茶なんて用意してくださりありがとうございましたミツナリサマァ。

からすの力で周囲に気配がいないことを確認し、仮面を少しずらしてお茶を飲む。うん、程よい熱さで大変美味しゅうございます。

「お前の二つの顔を知っている人間は俺以外にもいるのか?」
「へ?あー、んー…他には誰も…あ、」

“二つの顔”という言葉であいつを思い出した。

「一人いるな…まあお前と違って、からすと俺が同一人物だってことまでは知らないけど」
「誰だ」
「名前言ってわかるかな、藤堂高虎ってやつ」

あいつも二つの顔で俺と接してたよなあと。友としての優しい顔と、敵としての憎悪に満ちた顔。後者はほんとに鬼気迫るものがあったので思い出しただけでもヒヤリとする。またどこぞに仕官して元気にやってるとは思うが未だに恨まれてそうで怖い。あいついつ頃徳川に行くんだっけ…ちょっと記憶が曖昧だ。まあ時が経つにつれ嫌でも敵同士になるだろう、こいつらも。

名前を伝えると、顎に手を当てて考える素振りを見せた三成。まだ少し幼いとはいえやはりイケメンなことには変わりないので悔しいほど絵になりやがる。チッ。

「藤堂高虎……そういえば最近秀長様のもとに仕官した人間で、そのような名前の者がいた気がする」
「秀長様?秀吉様の弟さんだっけ」
「ああ。元々織田の家系の者に仕官していたという話を聞いたので覚えていたのだ」
「ふーん……それさ、マジで高虎?」
「名前まではっきりとは覚えていない。人違いの可能性もあるかもしれん」
「そっか…その可能性を祈る…」
「……何やら浅からぬ関係のようだが?」
「うーーーん…まあただの顔見知りってわけではn…なになになんなのそんな人一人殺せそうな目で俺のこと見るのやめて?本気で怖いよ?」
「黙れクズ御託はよいさっさと説明しろ」
「アッハイ」

再三言うが俺の人権などここにはもはや無いのである。早く人間になりたあ〜い。

思い返せば最後に会ったのはもう三年くらい前になるのか。高虎との思い出…いろいろあったなあ。姉川で初めましてからのフルボッコしたり、翌日は余った串団子押し付けたり、小谷城ではボッコボコにした挙げ句見逃すという武士からすれば屈辱の極みともとれることしたり、最後には傷心中のあいつにおもくそチョップしたり……待てよまさか俺…めちゃくちゃクソでは…?いやいやいや仲良くなって以降はやたらとからかわれたり振り回されたり(主に餅とか饅頭とか手ぬぐい関連)したし五分五分だよな?うん大丈夫大丈夫お互い様だわ大丈夫。

まあそんなこんなでいろいろあった輝かしい()思い出たちをそのまま話してやると、嘘っぽく聞こえたのかめっちゃ不機嫌ですって顔になった三成。嘘ちゃうわい全部ほんまじゃい。

「……つまり、要約するとこのままではからすのまま出会ってしまい身の危険があるのではと不安なわけか」
「さっすが三成〜思い出話しただけでそこまで察してくれて助かる」
「貴様とは頭の出来が違うのでな」
「あ〜〜〜お茶オイシイナァ〜…」
「…たしかにからすに対しては、間接的とはいえ元主の仇だと思われていても仕方あるまい。会ってしまえばその時はその時だ。秀吉様も小谷城での戦には参加しておられたし、それとなく相談しておけば配慮してくださるだろう」

俺からも少し話しておく。三成はそう言って、俺と同じようにお茶を啜った。なにこの子…手際良すぎ…さすが三成。いや三成様。いくら弟の配下という近しい関係になるとはいえ秀吉にそれとなーく話を通しておけばうまく鉢合わせにならずに済むかもしれない。グッジョブ!

「…だが、」
「うん?」
「念には念を、だ。今後出来うる限りお前と共に行動してやる」
「……………え、怖いから普通に嫌なんだけど。え?なんで?」
「すべての事情を把握している俺がそばにいれば、高虎だけでなく誰と鉢合わせになろうとそれなりに対処できる。それともなにか?お前の、その、俺の、半分にも、満たない、頭で、何か出来るのか?」
「いたっ、痛い、バカ!小突くな!コラァ!」

ガッ、ガッ、と人のお面のでこ部分をリズムよく小突きながら果てしなく馬鹿にしてくる三成にとんでもない提案をされている俺ですが。いやいやいや絶対嫌だよ昔の佐吉きゅんならともかく今の鬼小姑並みに口煩いしかもたまに暴力振るってくるこいつとほぼ四六時中一緒ってことでしょ?そりゃ事情知ってくれてるやつがいてくれたら何かしらのハプニングが起きようとなんとかかわせるけど、それ以前に俺の心身が持たない気がするので〜…すごく…嫌です…。

「そらまあ助かるだろうけど、今現在不安なのは高虎だけなんだっつの!もっと不安要素が増えてきたら、その時に俺からお前に頼むから!な?」
「その高虎一人だろうと貴様だけで対処できるとは到底思えんがな」
「うっ、否定できないのが辛い…!」
「とにかく、クズで馬鹿で阿呆なお前は黙って俺に万事任せておけばよいのだよ」

いや俺は赤ちゃんか!高虎一人くらいどうとでもなるわナメんな!遠回しにそう言ってなんとか断ろうと頑張ってみたが俺の拙い語彙力では到底説得なんざ出来るはずもなく三成は右から左へ受け流していく。チャラチャッチャッチャラッチャ〜…

しかしこの辛辣毒舌極悪大魔王へと進化した三成と過ごしてもう一年経つのだ、さすがの俺ももう学んだよ…こうなったこいつは意地でも自分の意見を通すってことはなァ!!ただでさえちょくちょく嫌味言いにくる三成にほとんど一日中監視されるってことですよねわかりましたありがとうございますわーいわーい!!正体がバレるのが先か、ストレスマッハでぶっ倒れるのが先か…いざ尋常に、ファイッ!!





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