11


『正体黙っとくから羽柴に仕えろとか脅迫!それ脅迫よ三成!この人でなし!鬼!悪魔!』
『そうか断るかならば仕方あるまいこの悪趣味な面を粉々にして日本中にお前の正体がただの農家のドラ息子だということを』
『それだけはほんとにやめてくださいごめんなさいスミマセンデシタ!あとドラ息子は余計!』

はい昨夜のハイライト終了〜〜さよなら俺のパーフェクトライフ〜〜。しかし!俺は!負けねえ!多少思い描いていた人生からはズレてしまうがもうこうなってしまったからには受け入れていくしかない。流浪の旅武者だということはすでに筒抜けだったのでそのまま秀吉の城に寝泊まりすることになりましたこれからはほぼ四六時中からすとして生活していきますヤッタネ。一番懸念していた「助けなきゃいけない武将が敵だった場合の処置」についてだが、これに関してはもう死なない程度に倒すしかねえなというおもくそ武力行使な作戦しか思い付かなかったので許してほしい。まあ史実は守っていくから多目にみてくれよ神様。

さーて、一夜にして旅武者(農家の息子)というポジションから秀吉直々に仕官を懇願された期待の若武者に大出世した俺の次なる目的地は〜〜〜!?


「…おい、いつまでそうしているつもりだ」
「へ?なにが」
「チッ…危ないから腰に腕を回せと言っているのだよ。ここまで言わねば分からぬのか」
「舌打ちする意味…いや、邪魔になったらダメかな〜っていう俺なりの気遣いだったんですけど…」
「むしろ背後で下手に動かれる方が危険な上鬱陶しい。分かったらさっさとしろクズ」
「ウィーーーーッス…」

以上乗馬中の俺と三成様の会話シーンでした。もう三成だなんて呼び捨てできねえよそんなことしたら殺されるんじゃねえの?唯一にして最大の弱点を握られている俺に…人権など…ないのであった……ということで仕方なく言われた通り三成に密着するためほっせー腰に腕を回した。ほっせーとはいえ、ほんとに大きくなったなあこいつ。体はもちろん態度もな!

なぜよりにもよってそんな三成と一緒に乗馬しているかというと、からすでないと俺の乗馬スキルがカス過ぎるせいだ。というかからすの時も乗馬したことねえから微妙だが、まあ、多分からすならまだ乗馬出来ないことはない。ならばなぜからすではなく素顔のまま移動しているのか。答えは簡単。両親に話をしに行く為だ。いや、ほら、仕官先決まっちゃったし強制的に俺の流浪演武が終了しちゃったのでな…しかしそのまま素直に「名のあるお侍さんのとこに仕官します!」なんて言っちゃうと絶対心配させることになる。だって二人とも俺のこと農業しかできない箱入り息子だって思ってるもん。そんなことないやで。

仕官先のことは黙ってそのまま流浪旅を続けているふりをすればいいのではとも思ったが、ちゃんとした職を見つけたと知らせる方が両親も安心するだろうとのことで翌日早速両親のもとへ向かっているというわけだ。誰の思案だなんて言うまでもなく我らが三成様のお言葉ですありがとうございますじゃあ一人で行ってくるわっつったら俺も行くお前のようなクズ一人で行かせたらヘマをしそうだからな云々言いながらついてこられて思わず白目になったぜへへへ。こいついつかマジで殴る。

はてさて、久々に再会した俺たちを見て父ちゃん母ちゃんはどんな顔をするのやら。









「お父様、お母様、変わらずご息災で何より。此度はなまえ殿を私の元で働かせていただくべくご挨拶に伺いました」
「まあご丁寧にどうも〜佐吉くん」
「こりゃまた立派になったなァ佐吉くん」
「なんの取り柄もないうちのドラ息子でよければどうぞどうぞこき使ってやってくださいな」
「母ちゃんの心ない言葉に俺の心が深く傷付きました起訴」

なんなの三成お前俺と結婚でもするつもりか?息子さんを僕にくださいってか?多分両親の前だろうと容赦なくはったおされるだろうから黙っとくけど。そして両親の順応力の高さ半端なくてわろた。困惑とか迷うとか一切なしねハイハイ分かりましたよ粉骨砕身働いてしっかり稼いで楽させますよォハイハイ。粉骨砕身といえば高虎元気にしてっかな。

思っていたよりも話はサクサクと進み、なんならさっさと働いてこいとまで言われた。まあそれもこれも三成のやつが上手く話を運んでくれたからだろう。俺マジでちょいちょい口挟んでただけだもん。俺の話なのに。楽だったからいいけどさあ。そんなこんなで正式に俺が三成のとこで働くということを両親が承諾してくれたあと、まあせっかくだしゆっくりしていけと言うので二人で昼飯をご馳走になった。おねね様の料理もむちゃくそに美味しいけどやっぱ母ちゃんの料理も美味しいな。転生してからのお袋の味だしそらそうか。三成も相変わらずの無表情ではあったが礼儀正しく食事していた。父ちゃん達の前に出た時からそうだけど乗馬中とは態度が真逆なのですげえなと思う。俺も大概からす中は猫被ってっけど。いじったらきっと家出た瞬間暴言攻撃が始まるだろうから賢い俺は黙って食事を楽しむのであった。








「いいかいなまえ、佐吉くんや周りの人に迷惑かけないよう頑張るんだよ」
「へいへい」
「佐吉くんも…あらいけない、もう三成くんだったっけ?あなたもまだまだ若いんだから体には気を付けてね。なまえが馬鹿やったら歳なんか気にせず叱ってやっておくれ」
「はい、心得ております」
「やめてこれ以上心得ないで」
「また落ち着いたら二人揃って顔見せに来いよぉ」

仕送り楽しみにしてるぞ〜と本音を隠さずにそのまま叫びながら俺たちを見送ってくれた両親にうるせえバーカバーカ二人もせいぜい元気でな!と吐き捨てた俺はきっと三成よりもツンデレキャラだと思う。だってこいつ再会してから一切デレてくれないもんね!お兄さんは悲しいぞう!



両親から見えなくなったところで行きと同じように二人して馬に跨がる。もちろんこれ以上両親に不甲斐ないところを見せないためである。だって考えてもみてよ今回職をゲットした理由が建前とはいえ弟分である佐吉もとい三成のコネだったり、俺なんかよりも落ち着き払った礼儀正しい佇まいだったり…俺がこいつに勝てるの素直さぐらいでは…?

「…あ、そういえばさ三成」
「なんだ」
「前村に帰った時に聞いたんだけど、お前俺のこと迎えに来てくれてたってマジ?」
「………」
「結果的にはお前のとこにお世話になることにはなったんだけど…その前から気にかけてくれてたのか?なんで?」

今回の件についてはゲーム通り秀吉様マンセーな三成が秀吉のために俺の弱味を握って無理矢理仕官させてきたわけだが、それ以前にもこいつは俺を迎え入れようとしていたのだ。たしか二年前か。まさかあれかな、食料係に任命しようとしてたのかな。食料係とは。

「……別に。ただ、未だに貧しい暮らしをしているのではないかと思ってな。貴様はともかく、あのご両親には幼い頃何度か世話になったこともある。何かしら恩を返せればと思ったのだ」
「えっ待って嘘でしょお前さらっと俺との思い出全部抹消しようとしてない?嘘でしょ?」
「先に抹消していた貴様にどうこう言われる筋合いなどないが?」
「ンンンンンンコイツウウウウウウ」

震える握り拳をなんとか鎮めた俺ってばほんっと大人。べべべべべべ別にキレてねーし。しかしやべえな、ここまで引きずるやつだったとは。これ死ぬまで一生言われ続けるだろ。事ある毎に言われるやつだろ。不可抗力だと言うのにあんまりである。

「…とりあえず、これで完全にちゃんと秀吉…様のとこにお世話になるんだ。お前も約束守れよな」
「ふん」
「返事になってねえ」
「守ってやる。一応、ではあるがな」
「は?」
「貴様の今後の働き次第では思わず口が滑ってしまう可能性がある。心してかかるといい」
「なんだよそれ契約違反だぞ!?」
「契約だと?書面で正式に交わしたものならともかく、ただの口約束だろう」
「こ、こいつ…!」

ああ言えば!こう言う!分かってたけどやっぱり腹立つなこいつ実際に絡むと余計ムカつく!クソガキ!可愛くねえ!ハア〜〜〜〜今日からの仕官生活が思いやられるぜまったくよォ〜〜〜〜!けど俺は大人だからな。大人だからな!お前みたいな後出しジャンケンみたいなことは絶対しねえぞ。見てろ、お前が嫉妬するくらいめちゃくちゃ秀吉に褒められるくらい大活躍してやる!次の目標は秀吉の天下統一サポートじゃあああ!

……あ、うそ、目立ちすぎたら歴史改変の恐れあるしやっぱりほどほどに頑張る。







181210


|