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前回のあらすじ。なぜか三成が俺のことを知ってた。あらすじ終了。いやいやいやいやいやふざけてないです大真面目ですなんで?なんであいつ俺のこと知ってんの?絶対今日が初めましてだろなんなら素顔でしっかり絡んだことあるキャラとか高虎くらいないんですけど?なんで?なんでなの?

「…えっと…い、今、なんて…?」
「……いや、まさかそんなはずは…しかし…」

聞き間違い説かなあとも思ってみたが三成は俺の問いには答えず自問自答している。うううううううーーーん…ど…どっかで会ってたのかなあ…しかしもしも俺を知っているのだとしたら逆に交渉しやすいかもしれない。実は正体を隠して武士やってるんだけどバレたら腹切られるから黙っててくれ〜とでも話してみるか。俺の数億倍は頭いい三成を出し抜けるかどうかは別として。

「……俺のこと、知ってんのか?」
「!」
「…知ってんだな」

城で使っていた無駄に低い声と堅苦しい口調を取っ払うと、また大きく見開いた三成の目。やっぱ黒だこいつ。どういう経緯で俺のこと知ったのかは知らねえけど、慎重に交渉しねえと。頭巾を脱いで改めて真正面から三成と対峙する。頑張れ俺の語彙力。

「なら、話は早い。どこで会ったかは知らねえけど、俺はお前の言う通りなまえって名前だ」
「……な…」
「実は訳あって正体隠して旅武者してるんだ。お前以外にはまだバレてない。今後も隠していきてえから、お前には黙ってて欲しいんだけd」
「ふざけるな!」
「エッ」

な、なんか怒鳴られたんだけど…まだ交渉スタートすらしてねえのに早くも負けフラグが。なぜ。何が気に入らなかったんだ。顔がさっき以上に怒ってる怖い。助けておねね様。

「え、えっと、どういう…?」
「どこで会ったか知らないだと…?貴様、本気で…本気でそう言っているのか…!」

ぎゅっと握られた拳が震えているのがわかった。やべえめちゃくちゃ怒ってる。なんで!?俺マジで記憶ないんだけど!つーか三成クラスのキャラと出会ってたら忘れねえって絶対!むしろ見かけたら絡まないように距離置いてたかもしれねえけども!

ちょっと待てちょっと待て話を整理しよう。こいつは俺を知っているが俺は城での出会いが初コンタクトだったはずだ。仮に今日よりも前に知り合っていたとしよう。知り合いであることを俺が忘れていることを怒っているということはつまりそれなりに仲が良かったことが考えられる。だってあの三成だぜ?どうでもいい馬鹿(三成談)とかクズ(三成談)相手なら忘れられた云々とか興味なさそうだもん。いや待てよ、ただ単に忘れられてることに対してキレてるだけなのか?どちらにせよ俺は本当に今日以外の面識がないんですがそれは。

「忘れないと、見つけてやると言っていたくせに!すべて嘘だったのか!?」

着物の襟を掴まれそう叫ばれた。その台詞には聞き覚えがある。今度は俺が目をかっ開く番だったが、けど、待てよ。そいつの名前は佐吉であって三成では、


『弁丸!』
『弁丸くんだっけ』


ま さ か の 幼 名 が 佐 吉 ?



「……………えっ、う、うそ、佐吉?」
「…………」
「うううううううそだろマジで?ほんとに?さ、佐吉?あの佐吉なの?くそ生意気で可愛いげの欠片もなかったけど最後の最後で寂しくて俺に泣きついてきてたあの佐吉?」
「黙れクズ今さらもう遅いのだよ!」
「いだあ!!」

すっ、脛を…脛を全力で蹴りあげられた…っ!だがしかし俺の弁明も聞いて欲しい!考えてもみてくれ佐吉に会った時はまだ俺ここが無双の世界だということはおろか戦国時代だったということすら知らなかったのだ。そんな無知の状態で出会った男の子がまさかあの石田三成だなんて思うか?思うはずないじゃん!まずこいつの幼名とか知らねえし!なんか戦クロでそんなイベントあったようななかったような朧気な記憶があるけどそこまで詳しく覚えてねえし!

そうだよ、だってあの真田兄弟(幼)とかくのいちのこともわかったくらいだぞ?事前にここが無双の世界だってちゃんと把握出来てたら絶対わかってたって!つまり時期が悪かったんだよ出会うのが早すぎたんだよ俺たちは。よって俺はなにも悪くない!まあたしかに佐吉だったと言われて意識すればそれとなく雰囲気とか顔立ちとかが似てるけど!もう過ぎたことは水に流そうじゃないか三成くんよ!

「いや、でもほんと悪かったよ…まさかこんなに成長してるとは思ってなくてさ…」
「見苦しい言い訳など聞きたくない」
「だから悪かったって!すまん!いや〜ほんと立派になったな佐吉〜」
「もうすでに元服している気安く幼名で呼ぶなクズ」
「クッ……け、けど、お前、お前はよく覚えてたな俺のこと…」
「どこぞのクズとは違い物覚えは良い方なのでな」
「………」
「クズが」
「何も言ってないのに!?」

YABEEEEEEEE完全にやさぐれてやがるどうしよう。口を開けばクズクズ言いやがってこいつ…佐吉の時も大概だったがレベルが違い過ぎるわ佐吉カムバック!しかし佐吉=三成が成立するのであれば佐吉のあの性格も納得だわ。あいつちっちゃい時からあんな感じだったんだな。でも根気よく(というか半ば無理矢理)絡んでたらなんとかなついてくれたんだよな…いい思い出だぜ…別れた時は泣いてくれるぐらい俺のこと好きだったくせに…何がどうなってこんな…まあそんだけ大好きだった(多分)俺に忘れられたせいだろうが。つらみ。

三成の正体がまさかの佐吉だったことには本当に驚きだがチャンスかもしれない。こいつなら俺が本当はしがない農家の一人息子だってことを知ってるから下手な嘘つかなくても済むし、両親を心配させたくないから黙っててくれとだけ言えば通じる。だがしかし、不可抗力とはいえやさぐれモードどころか嫌悪MAXモードになってしまった三成相手に交渉が成立するかどうか。

「…ところで、先の話の続きだが」

とりあえずもう一度話してみようと口を開きかけたら先に話を振られた。あれちょっと待って。なんかそこはかとなく嫌な予感がするんですけど。

「なまえ」
「アッ、ハイ」
「貴様、面の下の正体を口外されたくはないと言っていたな?」
「え、ああ、そうだけ…ど…」

超絶悪どい微笑を浮かべた三成を見てすべてを察した俺は気絶しそうになった。
















「おっほ〜!ようやった三成、さすがはわしの子じゃあ!」
「私にかかれば造作もないことです」
「また家が賑やかになるね、お前様!」
「俺も超〜嬉しいぜ!明日から稽古つけてくれよな!ガチで!」
「つけてくださいだろ馬鹿…もちろん、俺もお願いします」


「して、からす。先の言葉、真のもんとして受け取ってええんじゃな?」
「はっ、何度でも申しましょう。このからす、これより秀吉様の手となり足となり働いていく所存。羽柴軍を名乗り戦場を駆けること、何卒お許しくださいませ」

ビシッと跪きながら、城に戻って伝えた言葉をもう一度告げた。すべては喜ぶ秀吉の後ろで俺にこっそり睨みを利かせている三成この野郎の策という名の脅しである。ほんっと…してやられた…どこにも仕官せずに飄々と生きていくという俺の人生をかけた大作戦が…!

こうして無事()豊臣家もとい羽柴家への仕官が完了した俺ことなまえことからすなのであった。解せぬ。






181209


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