連れ去られるがまま訪れたのはやはり秀吉の城だった。つまり元小谷城ですねヒエエエ。現在は長浜城というらしい。当然秀吉の前でからすの姿を解くことなんて出来るわけもなく、怪しさ満点お面若武者の登場ですよ。すれ違う人みんな二度見してたもんね。わかるよその気持ち俺だって主がこんな不審者みたいなやつ連れてきたら二度見するし逃げるわ。そもそも飯でも食ってけ〜って言われたけど俺お面外せないんだよなあカオ○シみたいに面の下のとこに口があるわけでもねえし。ほんとどうしよう。まさか戦以外でこの姿を晒すなんて予定外だったからお面時の食事シーンのシミュレーションなんかしてねえもん。だからって今さら逃げ出したらせっかく好意的な秀吉からの印象が下がる。俺の生存ルート確保のためにも今後秀吉の好感度は高めの方が絶対的に有利だ。でも素顔見られたら同じくらい絶対的に行動しにくくなる。ぐぬぬ。

そんな俺の葛藤なんざ知るよしもない隣の秀吉は相変わらずおおらかに笑いながら広間を目指して歩いている。こんな特殊縛り(自分で決めたんだけど)さえなければ喜んで着いてきたのになあ。おねね様の料理とか絶対美味しいもんなあ。あと子飼いな。三成はともかく清正と正則とは仲良くなりてえな。正則絶対話合うわ早く会いてえ。まあこの姿で会うとなると素で話せないから辛いんですけどね!

「…さて!ついたで、からす」
「!」
「今日はお前さんに会えたら絶対連れて帰っちゃるって決めとったからな!まっ、楽にしてくれ。ねねの料理はまっこと美味いでえ〜」

にかっと笑った秀吉に再度苦笑いで返す。まあ見えてないだろうけど。そうしてすぱんと開けられた襖の先には、

「お疲れ様でした秀吉様。夕飯の支度はすでに…」
「あああああっ!前言ってたすっげえ若武者ってそいつかよ叔父貴!!」

こ、子飼いキタ〜〜〜〜〜原作よりちょっと若い〜〜〜〜〜ただでさえ子どもっぽいのにマジのガチで子どもやんけ何歳くらいだろう15歳とかそこら辺じゃね?中学生?高校生?若いっていいな…。まず第一声で秀吉を労いにきた清正の言葉を遮って叫んだのは正則だった。前のめりで俺のことを指差しぎゃあぎゃあと騒いでいる。噂されてたのか俺。すっげえ若武者とかいう謎のハードルやめてほしい。満更でもねえけど。正則程ではないが清正も不思議そうに俺のことを見つめている。正体不明ミステリアス系お面若武者からすですヨロシクネ。

さて俺もちゃんと挨拶くらいはしとかねえとと口を開いたら、襖の影からスッともう一人が姿を現した。ああよかった、ちゃんと三成もいたか。史実大事。しかし清正たちとは違い俺のことは一瞥しただけで特にリアクションもせずそのまま秀吉の方を向いた。おお、さすがだこれぞ三成。謎の感動である。

「…秀吉様、此度の戦もお疲れ様でした」
「おう、三成もええ子にしてたか?清正に正則、お前さんらにも紹介するわ。こいつがわしがずっと話しとったからすっちゅう若武者じゃ」
「初めまして、ご紹介に預かりましたからすと申します。此度は突然の訪問で驚かせてしまい申し訳…」
「もうすぐうちのもんになる予定なんじゃ、そんな細けえこと気にすんな」

うん?なんて?と心の中で呟きバッと秀吉の方を見た。どこか策士のような笑みを浮かべている。え?え?待って俺仕官するなんて一言も…え…?どういう…?天下人こわい…

「マジで!?イカすお面してんなァって思ってたけどもうすぐ仲間になんのかよ!楽しみィ!あ、俺、正則っていいます!よろしくっす、ガチで!」
「(どえあああああめっちゃ素で喋りてええええ)あ、えっと…ひ、秀吉様?以前も伝えましたが、私は…」
「わぁーっとるわーっとる!今は、じゃろ?ほれ、そこのがっしりした方が清正で、そっちのすらっとした方が三成じゃ。仲良うしちゃってくれ」
「(絶対分かってねえこいつそのうち力ずくで引き込む気だ!)いや、あの、ですが…」
「からす殿、かの姉川での戦では秀吉様を助けてくださったとも聞いています。感謝と共に、秀吉様が認めるその武勇について話していただければと存じます」
「(ふぁーーーー清正めっちゃ礼儀正しいめっちゃいい子…いやいやそうじゃなくて)えーっと…」

秀吉に問いただそうとするも正則と清正がキラキラした目で邪魔をしてくる。くっ、か、可愛いじゃねえか…!だがしかし俺は仕官するなんて言ってない絶対言ってない一応考えるとは言ったけどあんなもんリップサービスだ俺はこの先どこにも仕官しねえぞおい!俺が個人的に豊臣勢推しなせいで強く出れないのが少し辛いがそれでもそこだけは譲れん。恐らく今回お呼ばれしたのも身内に近付けることで断りにくくするためだろう。しかしそれでも抗わねばならないのだ!力を貸してくれ元親!いつか会えるといいな元親!

とりあえず仕官だのなんだのって話を流さねえと…そうだご飯!ご飯食べようよおねね様が作ってくれたんだろ!?冷めても美味しいだろうけど温かい方が絶対美味しいって!そうだろ清正ァ!そして頭上から感じる気配はきっとおねね様だ!チャンス!

「あ、あの、まずは夕飯を…」
「そうだよみんな!うちの人もこの子も戦で疲れてるんだから、まずはご飯食べて元気になってもらわないと」
「っ!?」

よっしゃ援軍来た!!と内心ガッツポしたのもつかの間、天井から加勢に来てくれたおねね様はそのまま俺の頭上からズボォと何かを被せてきた。なになになに怖いんだけど!?なにこれ、ず、頭巾…?顔の面が薄い布で覆われた頭巾のようなものだ。ぼやけてはいるもののなんとか見える視界の先にはにこりと笑うおねね様。多分初めましてなのに急襲とは何事だ。いや待てよ、秀吉が言ってたけどおねね様はたしか小谷城で俺のこと見てたんだっけ…なら俺の存在自体は知ってるってことか。まあそれでも一応初対面なんですけどね。羽柴夫妻こわあい。

「お面、取りたくないんでしょ?」
「えっ」
「これ被ってたら外からはなんにも見えないからね。安心してたーっくさん食べるんだよ、からす」

おっ……おねね様ァアアアアアアアアアア!!!!!!













「ごちそうさまでした、おねね様」
「うん!ちゃんとおかわりもたくさん食べたね、えらいえらい!」

おねね様のファインプレーのおかげで無事食事にありつくことが出来た俺である。てかやべーんだけど。おねね様の手料理やばすぎるんだけど。めちゃくそに美味くて逆に言葉が出なかったわなんだよ豊臣勢ほぼ毎日こんなご飯食って生活してるとか絶対舌肥えてるだろ他所の手料理なんか食えねえだろこれ。マジ羨ましい。仕官すれば毎日食わせてもらえんのかな……ハッ!秀吉からの視線…まずい、俺の激しく揺らいでいる心が簡単に読まれてやがる…

それだけじゃない。食事中にひしひしと感じたこの居心地のよさったらもうどうしようかと思った。俺からすれば全員知っている人間ではあるものの一応子飼いやおねね様とは初対面だし秀吉とだってこうして長時間共に過ごすのは初めてである。そんな俺に対してもゲームの時と変わらぬ馬鹿加減でめっちゃ絡んできた正則、俺の話(語彙力皆無すぎて自分でも何言ってんのかわかんねえ流浪話)をふむふむと面白そうに聞いてくれてた清正、特に話し込んだ訳ではないが俺の湯呑みが空になると静かに茶を入れてくれた三成、あれも食えこれも食え今日も頑張ってたんだねお疲れ様と我が子にするように笑顔で接してくれたおねね様、そして巧みな話術で場を盛り上げ俺を立てまくってくれた秀吉…む…無理〜〜〜〜〜居心地よすぎて無理だわみんないい奴…豊臣の家住みたい…叶うなら喜んで仕官したい…むしろ家族にして欲しい…ううう…いろんな意味で怖いわここ。そろそろ帰らねえとボロが出る。両親のとこにも行かなきゃいけねえしな。

「…秀吉様、本日は私のようなしがない武者をお招きいただき感謝いたします。本当に楽しい時を過ごさせていただきました。此度のお礼はいつか必ず」
「なんじゃ、もう帰るんか?せっかくじゃ、泊まってけばええじゃろ」
「(アホかあああああこれ以上ここいたら絶対離れがたくなるわそれだけは阻止!)い、いえいえ、これ以上お世話になるわけには…」
「む、そうか?まああんまりしつこく言うても靡かんか。何事も引き際が肝心ってな!」
「なになに、からす殿もう帰んのかよ!また来てくれよな!な!」
「次は俺たちも戦場で見えることができるよう頑張ります」
「ああ。また会おう、正則殿に清正殿」
「気を付けて帰るんだよ?またいつでも遊びにおいでね?」
「はい。ありがとうございますおねね様」

はあ〜〜〜最後の最後までなんなんだよ…お前ら最高かよ…あ、三成さんからは特になんのコメントもなかったですありがとうございます。というか膳の片付けしてる。めっちゃええ子や。俺も手伝おうとしたら客人にそんなことさせるかって正則たちがダッシュで片しちゃったから子飼いええ子過ぎて頭抱えてる。お前らほんと仲良くやれよ。まあ、時が来たら、ちょっと、あれだけど。うん。






門前まで見送ろうとしてくれてた秀吉を全力で大丈夫ですって説得してから約数分。すっかり暗くなってしまった道を一人歩く。城からは結構離れたしそろそろ変身解除してもいい、かな?あんまこの姿でウロウロしたくねえんだよなただでさえ不審者なのに…

よし、それでは戻r…と思ったがまたしても背後から気配が一つ。おねね様か?いや、それなら足音は立てずに来るはず。まさかの秀吉か、なんて思いながら振り返るとそこにいたのはなんと三成だった。おや意外。こいつとは一言二言くらいしか話さなかったはずだが何かあったのだろうか。明らかに俺の方へ駆け寄ってきている三成はどこか不機嫌そうだ。その顔ゲームでもよく見たなあやだなあ俺何かしたかな…なんてぼんやり構えていたが、三成が片手でぶら下げていた物を見て目をひんむいた。

おま、それ、それ俺のお面じゃねえか!!なんで!?

「はっ…やっと、追い付いた…忘れ物です、からす殿」

あ、そうか、おねね様から被せてもらった頭巾がしっくりき過ぎてて忘れてたんだ。あっぶね〜はやく返さねえと。だがしかし頭巾を取るには先に下でお面をつける必要がある。まずはお面をもらわねば。

「すまない三成殿、わざわざありがと…っ」

苛立たしそうに俺を見る三成(だからすまんて)からお面をもらおうと手を伸ばしたその時、少し強めの風がぶわりと吹いた。そのせいで一瞬だけ視界がクリアになる。つまり、顔を覆っていた布が捲れ上がったのだ。

(やっべ!)

慌てて布を抑えたが三成は黙ったまま。どっちだ、見えたか?見えてないのか?じとりと見つめたその顔は……やべえ驚愕って顔してる絶対見えたやつうわあああああやっちまったあああああああああ!こんなに!こんなに徹底して隠してたのに!こんな、こんな簡単に…!

いや、嘆く前にまずは交渉だ。なんとか見なかったことにしてもらわねえと後々絶対面倒なことになる。とりあえず落ち着いて話をしようじゃないか三成くん。

「あ、あのさ、三成殿」
「……………なまえ…?」

…………なん、だと…?






181208
加筆:181215


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