長篠の戦い


「撃て!!」

光秀の号令と共にけたたましく鳴り響く発砲音。なるほどこれがかの有名な三段撃ちかあと苦笑いした。断末魔をあげて倒れる馬、人。甲冑なんざ知ったこっちゃねえとでも言わんばかりの破壊力。そらこんだけの攻撃力があれば戦なんざ馬鹿らしくなるわなあ。人の命ってなんなんだろうなって。ゲーム中も普通に引いたけど、実際に現場を目の当たりにすると引くどころの騒ぎではなかった。

武田軍が食料補給に来てから数日後。無理矢理両親を他所の町に避難させたあと、からすに変身してお侍さんたちが去っていった方向へ数時間走ると戦はもう始まっていた。とりあえず織田側にいねえとな〜と雑兵をいなしつつ状況確認をしていると、運良く近くで戦闘していた秀吉が見つけてくれたので助かったぜ。

「よー来てくれたからす!あっちが本陣じゃ、加勢に行ってやってくれ!」
「了解しました」

あっもちろん声変えてるぞさすが俺切り替え大事。そうして織田本陣にたどり着き、冒頭に至るわけだが。秀吉様の家の者ですっつったけどそこら中から疑惑の眼差しが飛んできてるのを肌で感じる。ですよね〜お面つけた見知らぬ若造が参戦してきたら「は?」てなりますよね〜わかります〜でもまあ戦中だし目ェ瞑ってくれや戦力は多い方がええやろせやろ。

さっきちらりと見えた信長も、今目の前で兵士たちに号令かけてる光秀もやっぱりゲームのままのビジュアルだった。信長に関してはほんと遠目で見ただけだったんだけどめっちゃ怖かったドス黒いオーラ駄々もれだったわ隠せ怖いわ。それにしても銃声音よ。少し離れてはいるもののそれでも鼓膜破れるわとそそくさとその場をあとにした。こわやこわや。

去る瞬間に盗み見た光秀の顔には、明らかに戸惑いの色が浮かんでいた。

(はあーっ…何年後なんだろうな、本能寺)











遠くから勝鬨が聞こえた。そうか、終わったのか。最後に斬った名も無きモブ兵に小さくすまんとだけ告げて、双剣についた血を振って飛ばす。これで参戦も三回目か。さすがに血には慣れたけどやっぱ人を殺すって、嫌だな、うん。ゲームだって思い込むようにはしてるけど無理がある。でもいい加減慣れねえと。ここに転生しちまったんだから、もうそんなこと言ってらんねえ。今日も今日とて階級上がりましたありがとうございました。早く泰平の世が来るよう上から見守っててくれよな。

ざーっと戦場内見て回ったけど、左近の死体は見つからなかった。もちろん織田の皆さん(無双キャラな)も無事だ。真田兄弟とくのいちに関しては歳が歳だったし戦には参加してないだろう。とういうことで今回も無事クリア!さっすが俺!今回はひたすら暴れまわってただけだけども!

よし、そうと分かれば俺もそろそろ退散しねえと。適当な場所で変身解いて

「おーーーいからすー!!」
(っっっぶねえええええええ)

戻れ!と念じようとした瞬間後ろから大声で呼ばれた。あっぶねえええええマジで危なかったこええええええ。めちゃくちゃ油断してた。何事もなかったかのようにゆっくり振り向くと、手を振りながらこちらへ駆け寄ってくる秀吉の姿が。なんだ、また勧誘か?すまんが俺はどこにも仕官する気はないぞ。

「秀吉様…先程はお声掛けいただき誠に」
「あーええんじゃええんじゃ、気にすんな!こちらこそまた手ェ貸してもらえて助かったわ、ありがとうな!」
「恐縮です」
「ほんで、お前さんこの後時間あるか?」
「……えー…っと…?」
「もしなにも用事がねえなら、ちっと付き合え」

…おやおやおやおや?これは大変ですよ謎の若武者からすくんことなまえさんの危険予知()がビービーと大音量で鳴りまくってますよやばいですよ。これ、これあかんやつ…用事あるなし答えてねえのに肩に腕回されてるこれあかんやつや…強制的に連れてかれる…!あくまで人好きの笑みを浮かべる秀吉は、俺がお面の下で汗だくになりながら苦笑しているなんて知りもしないだろう。

「こうしてまた会えたのも何かの縁じゃ!うちで飯でも食ってけ。な?」

は〜〜〜〜〜〜〜〜いアフター行ってきま〜〜〜〜〜〜〜す!!!





181207


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