小谷城の落城から一夜明けた今日。俺の借りていた長屋はなんとか無事だったし、城下町自体そこまで大きな被害は出ていなかった。よかったよかったとその日はいつものように床についたが、今日にはもうここを離れないと。昨日の戦では姉川の時と違い結構戦果を上げられたのでお金もたんまり手に入った。一旦村に戻って父ちゃん母ちゃんに渡そうと思う。あと安否確認な。まああの村はほんとド田舎だったから戦に巻き込まれることは無いとおも…う…多分。

荷物を簡単にまとめて、朝飯代わりに甘味でも食っとこうかといつかに訪れた甘味処へ向かった。昨日の今日で開いてるかはわかんねえけど、開いてなかったら開いてなかったでそれまで。残念だがそのままここを発つとしよう。



(……おーっと…)

前方に例の甘味処を発見!しかし縁台にて見覚えのある黒髪ツンツン手拭い坊やも発見!いけませんこれはいけませんよ〜スルーしたろかな…いやでも多分体も心もズッタズタだもんな…今日でここ離れるし、少しだけ話しとくか。怖いけど。

「よう、高虎」
「!」
「久々だな。元気…では、ないよな」

あくまで久しぶりに会う体で話しかける。俺の声にピクリと反応して、少しだけ自嘲気味に笑った。主君も居場所も一度に失ってしまったのだ。元気な方がおかしい。長政と絡んでねえ俺でさえ罪悪感すげーもん。もう切り替えてくしかねえけど。

「…ここにいれば、きっと会えると思っていた。やはり出ていくのだな、お前も」

ちらりと俺の荷物を見てそう言った高虎。お前もってことは、きっとこいつももう出ていくんだろう。吉継は恐らくこのまま秀吉のとこに降るだろうけど、高虎はなあ…お察しって感じだもんなあ…

いつかとは逆で、今度は俺から高虎の隣に腰掛けた。今日は三色団子じゃなくて高虎の真似して饅頭を頼んだぞ。わくわく。

「…生きていてよかった」
「はっ、そりゃ俺の台詞だよ。その傷見るかぎり、お前相当派手にやったんだろうな」
「………」
「…ただの旅人でしかねえ俺にはお前ら武士の気持ちとか志とかはわかんねえ。だからとやかく言える立場じゃねえけど、無理だけはすんなよ」
「……ああ。一度は殉ずる道も考えたが、死ねばそれまで」

生きて忠義を尽くすつもりだ。そう続けた高虎はゲーム通りだった。よし、これで今後もゲーム通り長く長く生き続けてくれることだろう。ここで死なれちゃ困るからな。歴史改変ダメ、ゼッタイ。

「俺はしばらく長政様の旧臣たちのところに身を置くつもりだ。お前はどうするんだ?」
「あー、一度故郷の田舎に帰る。そんで落ち着いたらまたぶらり旅再開するよ」
「………」
「まあ生きてりゃまた会えるさ。それまでにまた美味しい飯屋見つけて紹介してくれよ」
「…なあ、なまえ」
「あ?」
「……いつか、」

そこまで言うとぱたりと口が止まった。なにそれ気になる。いつか、なに?いつかグルメ旅しようとかそんな感じ?まあお前に任せれば外れはないだろうけど…さすがにずっとってのは疲れるだろうしな…こいつちょいちょい俺のこと小馬鹿にしてくるしな…しかし待てど暮らせど高虎の言葉が続かない。はて。

「…いや、なんでもない」
「え…ええええええなんだよそれズッリー…寸止め…」
「もっと俺が名を上げたら、またきちんと伝えるさ」
「ふーん…期待しとくぜ」
「ああ。だからそれまで、絶対死ぬなよ」
「俺よりお前だろうがバーカ」
「っ、」

ドスッと軽くチョップをかましてやった。毎度完璧に逆立っているツンツンヘアーを真っ二つにする快感ったらねえなへへへ。チョップチョップ。

一応諸国巡りしてる旅人っていう体である俺より今後も武士として生きるこいつの方が生存率低めだろうに。まあ俺もからすとして戦っていく所存ですけど〜双剣モーションマジつえーし階級も鰻登りだしで多分ちゃんと生きてりゃ向かうところ敵無しだからな。

「お前に死なれちゃ困る」

お前には大坂の陣まで残っててもらわなきゃいけねえからな、なんて未来予知を言えるわけもなく。誤魔化すようにそのままわしゃりと頭を撫でておいた。年一つくらいしか違わないけど年上面してやった許せ。

まあ、これは伝える予定ではなかったし、お前はきっと涙を見せようとはしないだろうけど

「…お前さ、まだガキなんだから、あんま思い詰めんなよ」

俺からすれば17歳だなんてガキもガキよガキ過ぎる。前世じゃまだ高校卒業だってしてねえじゃん。なのにこんな乱世に生まれちまったせいで早いうちから戦に駆り出されて、一夜にして憧れの人を失って、それでも健気に生きようとしてる。俺だったら号泣してしばらく立ち直れねえよ。時代のせいだろうけど、ほんと強いよな、みんな。

高虎は俺のチョップのせいで下を向いたままなにも言わなかった。それでもやっぱ泣かねえか。そらそうだわ。かっこいいな、マジで。

「はいよ、饅頭一つ」
「ああ、ありがとおばちゃん」

初めて会った時よりも疲れきった顔をしたおばちゃんに苦笑い。おばちゃんだけじゃない。城下町に住んでるみんながみんな今後を憂いて顔を曇らせている。城主の死からまだ一夜しか明けていないのに、もう次の城の建て替えが始まるらしい。しかもそれが秀吉だもんな。そら高虎も秀吉嫌いになるわ。

「…じゃあな。また会おうぜ、高虎」

やはり口をつぐんだままの高虎を横目に腰を上げた。まあさすがに思うところがあったのかもしれない。そっとしておこう。

次の長篠の戦いまでどれくらいだろうか。それまでにある程度の地理は把握しておかなきゃいけねえなあ。なんだかんだでやること山積み過ぎて笑う。父ちゃんたち元気かなあ。






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