色男名誉挽回戦


(もう世間にはからす=なまえとして公表してる)








「はああああああなせコラ正則ィィィィィィ!!!!!!」
「だぁからダメなんだってマジで!悪いけど今は黙って捕まっててくれなまえ!」

泰平の世を全力で謳歌している毎日。今日ものんびり素顔で大坂の城下町をうろついていた俺が唐突に正則に拉致されたのはつい数十分前の話である。最初こそ、なんだ事件か!?暴動か!?と思いお面を取りに行かせてもらうよう頼んだら素顔じゃないとダメだと言われたのでとりあえず大人しく担がれたままでいたのだが、用件を聞いて全力で脱出を試みることに。しかしこれがなかなか上手くいかない。くそ、せめてお面があれば…!

なんでもこないだの色男(笑)を決める戦みたいなやつのリベンジを決行しようと孫市が動いたそうなのだ。それだけなら勝手にしろ頑張れよHAHAHAって感じで終われたのに、よりにもよってこのNOお面NO最強状態の俺を餌にイケメン軍団に対抗するなどと言っているらしい。アホかこれ以上俺を巻き込むんじゃねえ!!ふざけんな!!前回だってだいぶ面倒だったのに!!しかも俺が餌で食い付くやつなんかもう決まってんじゃんどうせあいつでしょ!?あとあいつとあいつしかいねえじゃん!!分かりきってんじゃん!!

「待ってろ孫市のおっさん、必ずつれていくからなァ!」
「ほんとやめて正則いい子だから離しなさい!!せめて、せめてお面取りに行かせて!!正則!!!」

俺の叫びもむなしく、正則は片腕で俺を担ぎ上げながら猛ダッシュであっという間に例の戦場までたどり着いてしまった。信じらんねえ白目剥きそう。そこはもうすでに当然のごとくカオスと化しており、孫市のアホみたいな本気度と強い思いが具現化されているようである。男の嫉妬ほど醜いもんはねえな…俺が着く頃にはもう敗走しててくれねえかな…

「っしゃあ間に合った!!つれてきたぜ!」
「おお!よくやった正則!」
「チッ、まだ生きてやがったか…」
「おい聞こえてんぞなまえ!」

見えてきた孫市に小声で悪態をついたがばっちり聞こえていたらしい。チッ。正則に担がれたままものっそい嫌そうな顔して孫市を睨み付けたが、その孫市と対峙している男が視界に入った瞬間顔を隠した。

風に揺れるはトレードマークの真っ青な手ぬぐい。一人しかいませんねわかります。高虎さんはいかんて高虎さんは。

「馬鹿野郎!その程度で俺の目を誤魔化せると思ってるのかなまえ!!」
「うわあバレてる」
「それ以前におっさんが思いっきり名前出してただろ諦めろってなまえ」
「孫市てめえのせいだぞコラァ!」
「うるせえ!おい高虎、こいつは今や俺たち個性派軍団の手の中!下手な真似すると大好きななまえが泣く羽目になるぜ?」

お前自分で個性派言うてもうてるやん…つーか何そのクソクズ発言〜〜〜無抵抗の人間取っ捕まえて人質にするとか最低〜〜〜!ということで全力で高虎の応援をしたいところだが、これあれだな、応援しなくても大丈夫な気がしてきたぞ。

孫市の言葉を聞いた瞬間、少し離れている俺でさえヒヤリとするくらいの冷気が高虎から放たれた。残念だったな孫市、自分で言うのもなんだがこいつは俺のことめちゃくちゃ好きだからな。自分で言うのもなんだが。高虎の前で俺に乱暴しようと言うならマジで命懸けで立ち向かわなきゃ知らんぞ。

「…ほう…?俺の目の前で、なまえに、手を出すと…そう言ったのか…?」
「知らんぞ孫市正則あいつほんと怖いぞ知らんぞ」
「おおおおおおお高虎ちゃんマジギレしてるってこれ普通にヤバくね!?」
「待て待て早まるな高虎!こっちはモテの秘訣を聞けりゃあそれでいいんだよ!」
「最初にも伝えたはずだ、そんなもの知ったことか…秀長様を敗走させるだけでは飽きたらずよりによって俺の最愛の男に無礼を働こうとするとは…よく分かった。そんなに命がいらんと言うのならすぐさま俺が散らせてやる!覚悟しろこの賊共がァ!!」
「「「ぎゃああああ!!!」」」

悪役もドン引きばりの怖すぎる顔をしたまんま高虎が発動したのは無双奥義である。いやちょっと待って先に正則から下ろして!!俺も危ないよ高虎それ俺も巻き添え食らっちゃうから!!最愛の男普通にピンチよ高虎!!

「たかっ、高虎!待て高虎!!止まれ!!それ俺にも当たるやつ!!」
「安心しろなまえ、たとえ氷漬けになろうと俺が死ぬまで側にいてやる!」
「やだああああああ誰かこのヤンデレ止めてえええええ!!」
「なるほどそうか!これこそがモテの秘訣だ正則!」
「重すぎる愛情に女子もメロメロってわけかァ!モテってのは奥が深ェぜガチで!」
「馬鹿なこと言ってねえで全力でかわせ正則もしくはさっさと俺を解放しろ!!」

馬鹿だ馬鹿だとは思ってたけどこいつら皆まとめてほんと馬鹿!付き合ってらんねえ早く逃げねえとやべえ!!

冗談抜きで涙目になってきたその時、視界が一瞬真っ暗になった。



「……えっ、死んだ?」
「ククク…地獄へようこそ」
「!」

気付けばそこは正則の肩の上ではなく小太郎の腕の中でした…お前…いつもいつも思ってたことなんだけど今日こそは言わせてもらうぞ。

「小太郎お前マジで助けてくれるならもっと早く助けて!!無駄にスリル味わわせるのやめて!!」
「先に礼を言うのが筋ではないのか?」
「それはごめんありがとう!でも次以降はもうちょい早めに助けろ頼むわ!」

お礼を言いながら一緒に文句を言うとまたクスクス笑う小太郎。何が面白いんだこの混沌オバケめ…!さらっとお姫様だっこ状態だがまあそこには目を伏せててやろう。とりあえずこのまま戦場から離れてもらって、

などと考えていたら、不意に前方に青白い光線が。間一髪でかわした小太郎はそのまま動きを止める。あれ、あれあれ〜…あそこにいるの、もしかしなくても吉継では…?そうかあいつもイケメン軍団側だから呼ばれてたのか。

「三成のもとへ加勢に向かう途中だったが、これは思わぬ遭遇だな。そいつを置いていけ風魔。そうすればなまえに密着していたことは三成に黙っておいてやる」
「断る。その命令を聞く理由がないし、三成に告げられたところで痛くも痒くもないのでな」
「なに?今度はお前らがバトる感じなの?別に止めねえけど先に俺のこと下ろしてね?」
「では言い方を変えよう。それ以上我が物顔でなまえに触れるな。三年祟るぞ」
「それも断る。我に呪術の類いなど通用せぬ」
「そういう問題?」

なんか、なんかさっきの高虎戦の時とは違う恐ろしさが。どっちも冷静に話してるように見えるんだけど殺気がすごいですお母ちゃん怖いですお母ちゃん。

「気付いていないのか?顔には見せないだけでなまえは嫌がっている。そうだろうなまえ、俺には分かるぞ」
「今のこの不穏な状況を嫌がってるってところは間違えてねえけど」
「それは大変だ。ご主人様が安心できるよう一刻も早くこの場から離れねばな」
「すっげえ棒読み」

まあもうさっさと帰りたいからそれでいいかな、とため息を吐いたのと吉継がこちらに突っ込んできたのはほぼ同時だった。怖いわ!!お前ほんと戦闘中の動き激しいよなビビるわ!!

瞬時に反応して足で采配を弾き飛ばした小太郎。その後も続く追撃をかわしまくるが、やはり俺を抱えたままでは動きづらそうだ。そらそうだろ。

「小太郎!戦うんならまず俺を下ろせ!」
「そしてそのまま俺によこせ」
「お前は黙ってろ吉継!」
「…北へ真っ直ぐ走れ。すぐ追い付く」
「おっ、」

そっと俺を下ろしたかと思うと、小太郎はすぐさま反撃に出た。はっや。さすが忍びやでえと思いつつ、小太郎の言葉通りとりあえず北へ走ることにした。もしかしたら脱出口があるのかも!



「…余裕だな。俺相手ならすぐに倒せると言いたいらしい」
「気付かなかったか?そう言ったのだが」
「ふ、面白い…前々からお前の存在は気に入らなかった。後から来た分際にも関わらず、誰よりも近しい存在としてなまえの側にいる。ただの従者ならば従者らしく身の程をわきまえてもらおうか」
「ククク、この関係を望んだのは我ではなくうぬらが愛するなまえの方。そのなまえが側に置くと決めたのはうぬらではなく風魔だった…ただそれだけのことよ」
「ではここでお前を仕留めて愛するなまえの側にいる権利を奪い取ろう。従者ではなく、恋人として」
「また得意の戯れ言か。では、今後その口が二度と戯れ言すら吐けぬようこの手で縫い付けてくれる」












「は?」

伝令兵が告げたのは信じられないものだった。どういうわけかなまえが面もつけずにこの戦場に迷いこんでいるらしい。何を考えているのだあの馬鹿は…いや、そもそもこのような摩訶不思議な状況を作った雑賀孫市が悪いのだが、なぜそこにあいつが?秀吉様が美女を集めて茶会をするなどと仰っていたから、不用意な外出は控えろと釘を刺しておいたのに。しかも素顔なのであればそこらの兵にすら敵わないはずだ。

未だに信憑性がない話ではあるが、もしも真実なのであれば早々に回収せねばなるまい。急いで探しに行くべく本陣の門を開けさせた。

「あ、なんか開いてくれた」
「!」
「お?三成じゃん!なに?ここお前の本陣?」

開いた門の外にいたのは、なんとなまえ本人だった。伝令通り素顔のままヘラヘラと突っ立っていたので頭を抱えそうになる。

「お、前…」
「いやあよかったよかった。大坂城帰ろうにも離脱先分かんなくてさァ。とりあえずこっち方面走れって言われたから走ったら本陣らしきもん見えたから助けてもらおうと思って来てよかったわ」
「この、馬鹿!なぜその状態で戦場をうろついている!死にたいのか!?」
「いや違うて俺城下町散歩してただけなのに急に正則が拉致してきたんだって!じゃねえとお面なしでこんなとこ来るわけねえだろ!」

正則…いくら馬鹿とは言え考えなしにこのようなことをするわけがない。ということは共に行動している孫市の仕業か。くそ、今すぐ捕らえて怒鳴り散らしてやりたいところだが、今はこいつを戦線離脱させる方が先だ。

「お前への叱責は後にする。とにかく今は城に戻れなまえ」
「えええええなんで俺も怒られる流れになってんの!?今言ったよな不可抗力だって!嘘でしょ!?俺も悪いの!?」
「当然だ正則ごときに簡単に捕らえられるお前も十分悪い」
「厳しすぎでは!?さすがのなまえ兄さんも泣くよ!?」
「勝手にしろ。どのみち心配をかけた事に変わりはない」
「ちくしょう悲しみの極み……じゃあ帰るから道案内しろ」
「は?」
「てか、そのままお前も一緒に帰ろうぜ。どうせ孫市が勝手に起こした戦なんだろ?多分今頃高虎にぶっ飛ばされてるだろうし、残る必要なくない?」

心底呆れたというような顔をして、さらりとそんなことを言う。その顔をしたいのは俺の方なのだが。

しかし、まあ、こいつの言うことも一理ある。少し前から敵側の勢いが急降下しているということはこちらにも伝わっていた。このまま俺一人抜けたところで負けることはまずないだろう。むしろこちらとしては勝ち負けなどどうでもいいことだ。騒動を起こした理由も原因も単なる逆恨みだということは明白。あとは争い事を起こしたということでおねね様が直々に動かれるはず。

なにより、なまえが共に帰ろうと言うのであれば、それこそ断る理由がない。

「……迷子になられては困るからな。今回だけだぞ」
「つめたっ。ぶっちゃけ帰りたかったんだろ〜?可愛い弟分の意思を汲み取った俺に感謝しろよ」
「調子に乗るなここで大勢の前で説教されたいのか?」
「スミマセンデシタ」
「ふん…分かったら帰るぞ、なまえ」

投げ出されていた手を奪い取り、そのまま陣をあとにした。

「…あ、ちょい待ち三成」
「なんだ」
「手ェ痛いから籠手外して〜」
「………今回だけだぞ」
「なんで嫌そうな顔すんだよ普通に外せや」

はあ、とわざとらしくため息を吐く。外した籠手を懐にしまい、もう一度なまえの手を握った。顔をしかめていないと、直に感じる体温や感触が心地よくて、頬が勝手に緩んでしまう。

「お前手ェあったけえな」

誰のせいだと思っているんだ、この馬鹿。






190602


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